シブヤ大学

授業レポート

2024/4/2 UP

原宿ショーウィンドウさんぽ
~街の表情から風景を読み解く~

3月10日の日曜日は、街歩きの授業にはもってこいの快晴日。スタート地点の千駄ヶ谷社会教育館には、日曜日の早朝であるにもかかわらず、続々と参加者が集合します。11名の参加者が集まったところで、本日の先生である諌山さんから、街歩きのコースを発表。16箇所の見どころポイントと、素材、照明、バリアフリーなど街を歩く際に注目すると面白い点が紹介されました。参加者の皆さんには、そのポイントを参考にしながら街の好きな点、残念な点を考えてもらいます。出発前には、ウォーミングアップとして各々自己紹介。ふたをあけてみれば、参加者の方々の多くが、渋谷区が地元とのこと。ひそかにプレッシャーを感じる諫山さんでしたが、いざ出発!

最初のポイントは「ロンハーマン」。一見、カフェと洋服屋が並んでいる一般的なお店にみえます。実はここ、カフェ併設型の洋服屋の先駆けとなったお店。今では日本でも見かけるスタイルですが、よくよく考えてみると洋服屋で飲食ができるというのは斬新なアイデアです。一方で、このお店のショーウィンドウには、クラシックなスタイルのオーニングが。オーニングは、日よけのために設置されているだけでなく、遠くから見てもお店の存在がわかるようにつけられているそう。斬新な内装とクラシックな外装が融合した、不思議な落ち着きのあるお店。第1ポイントで諫山さんの解説に参加者の皆さんが一気に惹きつけられます。
オーニングとは、写真の青い屋根のようなものの正式名称のようです!

次のポイントはアメリカのアクセサリーブランド「クロムハーツ」。無骨なアクセサリーにマッチするよう、建物の壁そのものにも無骨な雰囲気を漂わせています。普段道をあるくときは、建築の意図まで考えていませんし、建物の意図を知りたくとも、建物そのものに解説は書いてありません。建築家である諫山さんの解説を聞いて初めて、建築家の存在が見えてくる気がしました。

次はお店ではなく、通りそのものがポイントになっています。千駄ヶ谷とは一風違う雰囲気のあるその通りは「原宿通り」。落ち着きのあった千駄ヶ谷の通りから一転、この道からはどこか雑多な感じが。諫山さん曰く、原宿通りは千駄ヶ谷と違って景観の規制が緩いとのこと。店名のフォントひとつとっても、イラスト風で自由。外看板もユニークに「目が合いましたね?服を買ってください」の文字。飲食店と古着屋が混在し、それぞれのお店が溢れんばかりの個性を主張した活気のある通りでした。参加者の皆さんも、あちこちに目が奪われて足元の段差に気づかないほど夢中に。(笑)
5つ目のポイントは「キャットストリート」。道を歩いていると、交差点の道路が少し浮き上がった地点がありました。なぜこの場所だけ他の場所よりも若干もりあがっているのか。諫山さんが出題した難問でしたが、さすが地元の参加者。1人目の方があっさりと「もともとここに川があったから?」と言い当てました。他にも、「橋が架かっていたから?」との声もあがっており、大正解の皆さん。今では緩やかな道になっているキャットストリートですが、もともとは渋谷川が流れており、もりあがっている地点には橋が架かっていました。川の名残で、道沿いのお家には擁壁あるところも。

また、よくよく道をみてみると、渋谷区のマークの隣に下水道局のマークが。これも、渋谷川の名残で、元渋谷川の領域は、渋谷区ではなく下水道局が管理しているため、その境界にサインがあるそうです。普段道を歩いているだけでは絶対に気づかない道端の小さなマークにも、昔と今のつながりがある。日頃取りこぼしていた発見が諫山さんの解説でたくさん見つかりました。
キャットストリートを抜け、表参道ヒルズで一時休憩。気づけば一時間半ほど歩いていたことに参加者の方々は驚いていました。「知らないことばっかりだから、時間が足りない!」そんなふうに話してくださいました。

さて、休憩を終えると、表参道ヒルズの連続ショーウィンドウが見えてきます。キャットストリートの独特な雰囲気とは打って変わって、表参道の大通りはインポートブランドのショーウィンドウが横一直線に整列しています。宝飾店のショーウィンドウは、店内の特別感やプライバシーを意識して、重たいカーテンで内と外を遮断。小さな箱型のディスプレイは自然とアクセサリーに目が奪われます。ブルガリは、一面ガラスの外装ですが、ガラスに特殊な加工をこらして半透明に。店内を丸見えにすることなく、内と外のつながりを演出しています。一方Appleは、宝飾店やブルガリとは対照的に、一面ガラスで店内が丸見え。しかし、店内の人の動きそのものをショーウィンドウとしてみせることで、人が吸い寄せられるように入っていく。ルイ・ヴィトンの外装は建築家の青木淳さんのデザイン。もともとトランクの製造から始まったルイ・ヴィトンのイメージを建築に反映させて、トランクが積み上げられているように見えるつくりに。エルメスのショーウィンドウは、商品の宣伝だけが目的ではない。アーティストにショーウィンドウのデザインを任せることで、アーティストの育成も目指しているそう。だからだろうか、他のお店のショーウィンドウと違って、商品そのものが目に入るというより、アートの一部として商品が展示されているようにみえる。BOSSの建物は、緩くカーブのかかった柱型の建築でひときわ目立つ。これは、表参道のケヤキの幹をイメージして作られているそう。こんなふうに、ブランドのイメージや街の景観に合わせて、建築にもこだわりをみせるインポートブランド。この通りは、特に時間をかけて建築の意図をじっくりとかみしめて歩きました。大通りから脇道に入ると、キャットストリートの続きの道へ。緩いカーブのかかったこの道も、元は渋谷川でした。奥に進むにつれて道幅が大きくなることから、上流から下流に進んでいることがわかります。下流は道幅が広いため、お店もダイナミックなサイズ感に。大きなスポーツ店は、一面ガラスで、店内にはデジタルのディスプレイで躍動感ある動画で商品をアピール。最新のデジタルサイネージのショーウィンドウです。

ここで、ゴール地点の渋谷キャストに到着。三時間があっというまに感じられるほど、諫山さんの解説、参加者の方々のお話に聞き入っていました。 最後は、振り返りも兼ねて近くのカフェで感想を共有しました。何気なく見ていたショーウィンドウに込められた工夫。街や景観、ブランドの商品に配慮した建築の意図。規制の緩い地域と厳しい地域の対照性。キャットストリートの表と裏。昔からこの地に住んでいても、初めて気づくことがたくさんあったとの感想がありました。また、先生である諫山さん自身も、参加者の方々の質問や指摘から学びを得ていたそうです。まさに、この授業がきっかけで、ショーウィンドウ、建築、歴史など新たな視点で街が見えてくるのではないでしょうか。自分の街に帰っても、授業で教わったポイントを応用して、街の新たな表情を探したくなる。そんな授業でした。

(写真:佐々木・松井・遅澤、レポート:中村)