シブヤ大学

授業レポート

2020/6/5 UP

【オンライン開催】
映画を楽しむだけじゃない!!
上映会主催者のそれぞれの思い

私たちの人生に彩りを加えてくれる「映画」。映画館のスクリーンで見る、動画配信サービスを自宅で楽しむなど、楽しみ方も多様になる中、新たなスタイルとして増えてきているのが、映画館以外の場所で行われる映画上映イベントです。会場、来場者、作品、イベント内容…全ては上映会主催者の思いや目的によって様々です。

今回の授業では、3名のそれぞれ異なるタイプの上映会を定期開催している先生を迎え、上映会ならではの楽しみや課題、今後について考えました。

※本授業はオンライン授業として、zoom参加コースと、YouTube Live視聴コースの、2つの参加形式で行われました。




●「トルコ発 シルクロード・シネマ・トリップ」共同主催者・岩丸珠緒さん
 1人目の先生、岩丸さんは大学職員、メキシコ留学、外資系企業などを経て、社会人向け地域研究セミナー等を開催する異文化教育専門機関を設立。その活動の一環として、トルコ~シルクロード周辺各国の映画と料理をセットで楽しむ上映会を、2019年2月から月1回開催。各国の料理も、上映作品も、日本人には初めて見るものばかりです。
 食事を食べてみたい、映画を見てみたい、どちらがきっかけでも“世界の広さと奥深さを五感で体験”できるのがこの上映会の魅力。リピーター率が非常に高いそうで、新規顧客をどう増やすかが課題とお話されていました。





●「旅する映画館café de cinéma」主宰・ちゃぴー(ソヤマヒロフミ)さん
 ちゃっぴーさんは動画配信の配給や権利ビジネスに関わる傍ら、上映機会を自ら作ってしまおうと、2013年から活動を開始。固定の会場を持たず、街中のカフェ・レストランから地方の野外会場まで様々な場所で、400回もの上映会を開催してきています。
 採算を度外視しても活動するのは、“映画を観てもらえる場を継続したい”から。世界中の映画のうち、日本で上映される洋画作品は僅か。特に上映機会の少ないインディペンデント系作品を中心に、食事や刺繍作りなど他の楽しみとも併せながら、日常の延長線上で映画を楽しめるよう、上映会のネットワーク化や新形態の上映なども構想中とのことです。





●「銀座ソーシャル映画祭」主宰・西村修さん
 最後にお話の西村さんの本業は、銀座の一般企業・中越パルプ工業株式会社の社員。社員の意識向上と、誰もが気軽に社会課題に触れ、自ら考え行動するきっかけをつくることを目的に、社外の有志と始めたのが、ドキュメンタリー映画の上映会でした。
 2013年8月からの不定期開催で、現在100回以上開催。自社の会議室をはじめ比較的ビジネスマンが集いやすい場所を会場に、監督や関係者のゲストトーク、参者同士での懇談なども交えながら開催されてきました。今では、参加をきっかけに新しい行動を始めた人、自らも上映会を始めた人など、目的に沿った影響を参加者方々に与えているそうです。





3名のお話の後は質問コーナー。zoom、YouTubeのチャットからの質問にお答え頂きました。

 「上映主催者になってよかったこと、メリットは?」という質問には、「サービスする側で気づく喜び。但し赤字にならない工夫は必要」(西村さん)、「今までではあり得なかった人とのネットワークが生まれたりする事。映画業界者でなくても上映の裏側を経験できる事」(岩丸さん)、「金銭面でのメリットは厳しい。それでも、人との繋がり、自分自身の気づき、参加者が笑顔で帰っていった時や、また来てくれた時が嬉しい」(ちゃっぴーさん)…と、金銭面の難しさを越える充実感を、皆さんが感じていました。

 また、告知集客の方法については、皆さん共に「FacebookなどのSNS」が中心。ほかに「飲食店にチラシを置く」(岩丸さん)などのアナログな方法から、「Peatixを組み合わせると新規層が来場しやすい」(西村さん)など、新規層PRへの工夫が必要なようでした。

 さらに、コロナ禍の状況を受けて、「今後の上映会はどうなる?」などの声も。「ウイルスとの共存の仕方を模索していく時代になるのでは」「映画鑑賞においては、映画館の環境は、やはり素晴らしい価値がある」「入場者を減らす分、収益を伸ばす工夫が必要。ドライブインシアターの復活もあるのでは」など、様々な意見が交わされました。

 YouTube参加者はここで授業終了でしたが、zoom参加者は先生方からの授業の前に<参加理由を含めた自己紹介>を、授業後には<今回得られたことや今後活かしたい事>を、ブレイクアウトルームにて数名で語らう時間が設けられました。
 私が参加したグループには様々な立場の方が揃い、上映会を開催したい人からは「開催する上での課題点がわかった」、映画関係者の方からは「見る側の自由をどう担保するか、行ってみたい場所と見たい映画の両方をどう叶えていくか」という課題点も上がりました。そして、観客側の方からも「普段上映されていない作品を観られるのが楽しみ。その価値を参加者側としても伝えていけるようになりたい」との声があり、嬉しく感じました。

 私自身も、被災地での子供向け上映会をきっかけに、様々な場所で上映会を開催したり、そうした場に参加したりしてきました。映画を観ている人たちの笑顔や感動している顔を見る時、素敵な時間だなぁと感じます。そんな風に誰にでも3名の先生方のように、自分の関心やその場の目的と絡めて行える事が、上映会の魅力です。
 その時に大事になるのが、主催者や参加者の思い、場の雰囲気や楽しみ。そこには映画館・動画配信とは一味違った楽しみや作品との新たな出会いがあるでしょう。そんな上映会ならではの価値に触れる時間を、皆さんも楽しんでみてはいかがですか。

(授業レポート:菱山久美)