シブヤ大学

授業レポート

2019/10/24 UP

2,3限目:ファシリテーションの体験から学ぶ、学び合いの場づくりのコツ

みなさんは何かを学びたい時、どうしていますか?本を読んだり、ネットで調べたり…今はオンラインスクールも増え、一人で自由に学べる環境もあります。そんな中、時間と場所を共有して誰かと一緒に学ぶことには、どんな意味があるのでしょうか?

この授業では、学び合いの場づくりやファシリテーションのコツを学びます。
生徒さんには、仕事でファシリテーションの技術を必要としている人(研修やオンラインサロンの運営など)もいれば、普段の話合いの場で悩みを抱えている人もいて、参加動機は様々。

(生徒さんの1人)
「職場で、"結論ファースト"(会話の中で結論を先に言うこと)ばかり求められてモヤモヤしますが、かと言って自由に話す場を設けるといつまでもまとまらない。機能的なファシリテーションを学びたいです」

授業の流れ
授業は13:30〜17:00までの長丁場。以下の流れで進みました。

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チェックイン
ブレスト
相互インタビュー
グループシェア
ワールドカフェ
振り返り
それぞれの視点でできること
チェックアウト
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チェックイン
みんなで話し始める前に、先生である丹羽さんから「過ごし方のヒント」が。
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・正解はないことを知っておく
・自分の経験や率直に感じたことを言ってみよう
・判断を保留し、人の発言に耳を傾けよう
・せっかくなら楽しみながら、自分に生かそう
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仕事をしていると、判断のスピードを求められることも多いのではないでしょうか。
自分の中に既にある「この人はこういうタイプ」「話の結論はこうだな」という固定概念や想定を一旦脇に置いて、ただ聴く。何も決めずに、想定外のゴールへ向かう不安と新鮮さを感じる時間となりそうです。

チェックインでは、4〜5人のグループ毎にこんなことを話しました。

順番を決めない。ツッコミ、拍手は不要。相手をよく見て、聴いて、それに素直に反応するためのルールを実践します。

ブレスト
次に、私たちの身近な学び場にはどんなものがあるかを出し合ってみました。


・「ラジオでテーマに沿ったお便りを聴くのは、学び合いかな」
・「本を読むのは学びの機会」
・「子どもと話すのは学びの場」「え、学び合いじゃない?」
・「論文を読むのは学びの場」「でもみんなで1つの論文を読むのは学び合いだよね」

様々な意見が出ましたが、同じ内容でも、それを行う人数や各自の捉え方で「学びの場」か「学び合いの場」かが変わることがわかりました。

相互インタビュー
2人一組になって、相互インタビューをしてみました。一対一だから、グループの時より相手を「聴く」ことに集中できそうです。





グループシェア
インタビューが終わったら、また4〜5人のグループになり、他己紹介(インタビュー相手の紹介)をしました。

(生徒さんの他己紹介)
「○○さんは、会社で中途採用者向け研修を担当しています。良かったと思えた学び合いの場は、研修後に飲みに行ったり、その場にとどまらず集える人間関係ができた回。自分も中途入社だから、社風に馴染む難しさなど共感できることも多い。それを活かせた場でした」

「△△さんは、以前会社を退職した時、自分が配ったお菓子以上のプレゼントを貰った経験から、"贈り物"をテーマに語り合う場をつくりました。でもファシリテーションに何かが足りず、思ったより盛り上がらなくて…」

などなど、興味深い紹介が続きます。

(先生)
「もしかしたら、自分の本意とズレて相手に紹介されるかもしれません。でも、そのズレが内省の入口になります」

確かに、違和感を糸口に、自分が大切にしたいことに気づけるのかもしれません。

ワールドカフェ
最後のセクションは、ワールドカフェ。
ワールドカフェとは「大切な問いに対して、テーブルを旅していろんな人と会話をする中で、知識やアイデアを紡ぎ合わせていくこと」
1つの結論を出すのではなく、考えを広げる。その多様な考えから聴こえてくるパターンや洞察に耳を澄ませます。
今日は3round設定し、メンバーをシャッフルして3テーブル旅をしました。
次のテーブルに移ったら、前のテーブルで印象に残ったことを共有し合い、共通することを考えてみます。
問いはこの2つ。
・「あれは良かったと思える学び合いの場では何が起こっていたのだろう」
・「共通することは何だろう」


(生徒さん)
「一緒にごはんを食べながら話せる場は良かった。たぶん、"自己開示しろ"って言われて、座って聞かれたら、思うようには話せない。一緒に同じことをしながらだと、体がリラックスできて自己開示しやすい」

「設計はかっちり作っておくけど、当日は様子を見て準備してきたことを捨てられると上手くいく気がする」

「問いは具体的にしておかないと、話すことがばらばらになっちゃう。前に"政治とは"っていう漠然とした問いに対して、広義の政治について語る人もいれば、選挙について話す人もいて、議論の収集がつかなかった」


振り返り
ワールドカフェが終わったら、全員で「ハーベスト(収穫)」の時間。対話を積み重ねて、感じたこと、発見したこと、考えたことを言語化して振り返りました。

最後に「今後各自ができることは何か」グループで話して、この場をチェックアウトしました。

先生からのtips
今日のファシリテーションでは、以下の5つの技が実践されていました。

カーテンを開けて窓外の緑が見える開放的な空間にしたり、えんたくん(段ボールの円卓)を使ったり(一の技:場づくり)。

グループサイズは、4〜5人の円卓を囲んだり、2人で横並びになったり、24人全員で話したり、とやることによって適宜変化しました。(二の技:グループサイズ)

問いかけも、私たちの身近な学び場を思い出す身近なものからスタート(三の技:問い)。最後の振り返りでは、セクションごとに各自が考えたことを付箋に書き、模造紙に貼って可視化しました(四の技:見える化)。


オリエンテーション(方向づけ)
また、序盤のオリエンテーションで、わたしたちがどこへ行こうとしているのかを方向づけておくことが大切、というtipsもありました。

生徒さんの気づきに「問いを具体的にする必要がある」とあったように、目的や大きな流れをその場にいる全員で共有することで、考えを拡散しながらも収束点を見つけやすくなります。

みんなからの問いかけ
(生徒さん)
「多様な考えが出てくればくるほど、それを収束させるのが難しくなってしまいます。何かポイントはありますか?」

(先生)
「収束は見える化がポイントです。流れや繋がり、カテゴリなどを整理して可視化する。ファシリテーターが1人でまとめるのではなく、可視化して、みんな「が」気づけるようにすることが大切です」



そもそも、ファシリテーターとは「オーケストラの指揮者」のようなイメージなんだとか。ファシリテーションとは
「人々が集い、何かを学んだり、対話したり、創造しようとする時、その過程を、参加者主体で、円滑かつ効果的に促していく技法」(中野民夫さん)

確かに、今回の授業は、先生から何かを「教わる」のではなく、生徒さん其々が、対話から共感や違和感を受けとめ、自分で問いの答えを「発見」していく時間でした。ファシリテーションとは、その発見を促進することなのですね。

(先生)  「先生は完璧な存在じゃない。受け手の反応によって、場が変わります」

その言葉の意味も頷けます。
1人で学ぶときは、自分のペースで、安心して設定したゴールへ進むことができます。一方、今回のような共に学び合う場は、歩みを揃えるためのルールやしくみが必要になってくる。でも、そこで想定外の他人に出会ったり、自分に気づく瞬間がありました。その、不安を抱えながらも未知の領域に踏み出せることが、学び合う面白さなのかもしれません。

(授業レポート:中野恵里香 / 写真:小林大祐)