シブヤ大学
コラム

シブヤ大学リニューアルに込めた思い(第1回)


2020年春、シブヤ大学がリニューアルしました。新たな学長のもと、ミッションに基づいて様々な企画がスタートします。


新たなミッションには、事務局メンバー3名の経験が大きく影響しています。

せっかくなのでリニューアルを機に、シブヤ大学に関わることになったきっかけやミッションへの思い、そしてこれから目指したいことについて、ゆるやかに話してみたいと思いました。

学長の大澤悠季、事務局の深澤まどか、田中佳祐による対話形式で全3回に分けてご紹介していきます。


第1回 それぞれのシブヤ大学との出会いとエピソードについて

田中:じゃあ始めていきましょうか。

大澤:どこから言えばいいですか?全部?なんか緊張しますね(笑)。

田中:大澤さんって、シブヤ大学に来る前はなにをやってたんですか?

大澤:もともと大学の専攻は観光学で、観光を手段とした持続可能な地域づくりを学んでいました。色んな地域を見ていく中で、その地域に目先の利益にとらわれず、賢い判断ができるリーダーがいるかどうかが、持続可能な地域をつくる上でとても大事だなと感じるようになったんです。

あとは、東日本大震災のあとに教育系のボランティアを経験して、どんな人にも届けられる教育の分野から地域に関わっていきたいという思いが強くなりました。

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大澤悠季(おおさわ・ゆき)/シブヤ大学新学長


田中:大学卒業後は沖縄で働いていたそうですが、なんでまた沖縄だったんですか?

大澤:とにかく沖縄が好きすぎて(笑)。中学生の頃から沖縄で働くことが夢で、高校の作文も大学のレポートも、ほぼ沖縄のことを書いていました。旅行で訪れるだけでは満たされず、大学卒業後1年間のイギリス留学を経て沖縄でも1番好きな今帰仁村(なきじんそん)という村に移住しました。

深澤:中学生の頃からって、沖縄への愛がすごい(笑)。

大澤:東京生まれ東京育ちの私にとって、一度は地域にどっぷり入って暮らしてみたいという思いもあって、村の教育委員会に所属しながら、高校生向けの公営塾の運営をしていました。塾で力を入れていたのは、ゼミ形式の地域学の授業で、高校生と地域の大人が一緒に学ぶ機会を積極的に取り入れるようにしていました。

その中で、大人が楽しく学び続ける姿勢をもつこと、そしてその姿勢を子どもたちに見せることがとても大切だと思うようになり、次は大人の学び続ける環境をつくる仕事をしたいと思ってシブヤ大学に来ました。


渋谷っぽくない大学

田中:シブヤ大学に惹かれた一番のポイントは?

大澤:一番の興味は、なんでこんな素敵なことが渋谷で無料でできているのか!?というところでした。シブヤ大学のことは大学生の頃から知っていましたが、最初は名前だけ見て、ギャルがやってる大学かと思っていて(笑)

深澤:確かに、"シブヤ"のイメージってセンター街とかスクランブル交差点とかだもんね。

大澤:自分が教育に携わるようになってから改めて調べてみたら、たくさんのボランティアの人たちを中心に、渋谷の街に似合わず地に足をつけて丁寧に運営されている、そんな印象を持ちました。こんな都会で、どうやって無料の学びの機会を13年つくり続けているのか、その裏側にある仕組みを知りたかった。

無料の授業を提供し続けることが一番難しそうな場所でそんなことができているのは、都会なのに、その地域の資源や人との関係性をすごく大切にしているのではないかと思って、そこに魅力を感じました。

ちなみに採用面接では、今話しているような真面目なことはほとんど聞いてもらえず、女子サッカーのキャプテンをしていた話と、オーケストラのチェロパートのリーダーをやっていた話ばかり突っ込まれたので、ここで話せて嬉しかったです(笑)


地域に関わることで、働くことや社会について考えてみたかった

田中:まどかさん(深澤)はどんな経緯でシブヤ大学に関わりはじめましたか?

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深澤まどか(ふかさわ・まどか)/シブヤ大学事務局

深澤:もともと、大学時代に都市計画・コミュニティデザインを専攻していました。大学に入学してすぐはバスケサークルに入ったり、文化祭の運営とかをやっていたんですけど、一通り大学生っぽいことをやったら、なんか物足りなくなっちゃって。東日本大震災の後で、ボランティアとか社会的な活動をしている人が周りに多かった影響もあると思います。

バイトして、遊んで、飲み会して、という普通の大学生だったんですが、クリスマスのイルミネーションを見ていた時に、ふと"私、何やってんだろう"って思ったら急に泣けてきて(笑)

大澤:これが2011年冬・イルミネーション事件ってやつね(笑)

深澤:そう、もはや事件だね。上京してきて親に高い学費も払ってもらってるのにとかいろいろ考えちゃって、もう全部辞めちゃおうかなと。

それで、せっかくならもっと違う価値観に触れたいとか、実社会に生きる人に触れたいとか、現場で働くってなにかを考えたいと真剣に思うようになった。そこから鳥取県の会社でインターンをしたのが、「地域」という分野に興味を持ったきっかけです。

地域に関わることを通じて、働くことってなんだろうって考えたり、人と関わるってどういうことだろう、とか関われば関わるほど学べることが沢山あって、地域とかまちづくりってよくわからないけど、面白いなと。住んでいる街が好きになれたら、自然と自分のことも好きになれるし、毎日楽しそうじゃない?という軽い気持ちで、都市計画・コミュニティデザインのゼミに入りました。

田中:シブヤ大学を知ったのはどんなタイミングですか?

深澤:ふとゼミの先輩が「まどかちゃんこのイベント興味ありそうだから行ってきたら?」とチケットをくれたんです。渋谷ヒカリエでのトークイベントで、Studio-Lの山崎亮さんや、READYFORの米良はるかさんが登壇されていたんですが、その中にシブヤ大学の左京さんもいて。それで初めてシブヤ大学を知り、インターンをしたのがきっかけです。

田中:その後就職して、シブヤ大学に戻ってきたんですよね。きっかけはなんですか?

深澤:会社での役割を意識していると、"自分の言葉"で話している実感が薄まってきて、直感的にこのままじゃまずいな、と。そう思っていたのと同時に、自社の利益だけでなく、社会的な価値も考えたいなという気持ちが強くなったのもありました。

個人の興味や好奇心を軸に、社会や他人と関わっていくシブヤ大学の取り組みが、今の自分や周囲にとって大事なんじゃないかと切実に思えるようになり、戻ってくることを決意したという経緯です。と言いつつ本当のところは、直感で。戻るなら今かなという軽い気持ちです(笑)。


大人が気軽に文化に触れる機会をつくりたい

深澤:田中さんのシブヤ大学に関わるきっかけは?

田中:僕は中学校の先生として働いていました。担当していたのは理科です。

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田中佳祐(たなか・けいすけ)/シブヤ大学事務局


田中:大学を卒業して教員採用試験に受かった時に、3年たったらこの仕事を続けるか、別の仕事をするかを決めようと思っていました。3年間学級担任を受け持っていて、生徒達が卒業するタイミングで自分も卒業しようと、教員を辞めるということにしました。子どもたちの為に何かできることをしたいと思って教員になったのですが、学校で教えること以外にも出来ることがあるのではと思ったんです。

現場ではとても優秀な先生ほど役割が増えて研究をする時間がなく体を壊したり、真剣に生徒と向き合っている先生ほど思い悩み心を疲弊していたりして、そういった教員の労働の構造について考えるためにも、一度現場を離れて他のことも知ってから、もう一度戻ってこようと思いました。

学校を離れた後は、青年海外協力隊として活動をするか、大学院で教育学を学ぶか迷っていたのですが、その間に結婚したこともあって仕事をする事になりました。

深澤:知らなかったです。すぐにシブヤ大学に来たわけではないんですか?

田中:書店でイベント企画をしたり、ライターとして本を書いたり、プログラミング塾で働いたりしていました。文化と教育の両方に関わる仕事がしたいと思っていた時に、ちょうどシブヤ大学の求人を見つけました。

大澤:田中さんがシブヤ大学にピンと来たのはどうしてですか?

田中:大澤さんと同じで、中学校の先生をしていた時に子どもたちが楽しく学ぶためには、大人が楽しく学ぶ環境が無いといけないと思っていました。子どもたちは大人の姿をよく見ていますから。シブヤ大学では色々な背景の大人が集まって学んでいて、とても和やかな雰囲気だったのでそれに惹かれました。ボランティアスタッフも学生も「知らない」ということに肯定的で、純粋な好奇心からシブヤ大学に来ている感じがしました。

僕は書店でのボランティアとしてイベントの企画をしているんですが、それは文学や美術が大好きだからです。でも、こんな活動をしているのは「自分が行きたい場が無い」ことの裏返しでもあります。大人が気軽に文化に触れる機会って意外と少ないのではと思っています。大学生の頃は文化施設とかの入場料も安いし、周囲のお節介な教授たちが面白い本や展示などを教えてくれました。大人になると、誰も教えてくれないし、自分で探して一人で知らない演奏会などに行くのはハードルが高い。

シブヤ大学では、文化に触れる初めての一歩となる講座を無料で行っていて、それも興味を惹かれた理由です。メジャーな芸術だけでなく、マイナーなカルチャーへの入り口を作っていることもやっていたので、そういう大人がいつでも文化にアクセスできるための機会づくりに興味を持って、シブヤ大学に入ることにしましたね。

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2回目以降は、ミッションへの思い、これから目指したいことについてお届けします。