シブヤ大学

授業レポート

2015/3/26 UP

「これいいね!」を、もっと伝えるために大切なこと
〜ソーシャルプロジェクトのPRの仕事から〜

【わたしの学び】


・広報は外に対してのものだけでなく、内に対しても時には必要だということ。
・自分の仕事を「好き」といえる空気が大事だということ。
・PRは相手を好きになって、相手の「好き」を一緒に磨くことだということ。




PRコンサルタント、放送作家、greenz.jpプロジェクトマネージャー、などなど。
今回の先生は様々な方法で「伝える」をお仕事にしている編田博子さんです。
今回の授業では、編田さんが今まで携わってこられたソーシャルプロジェクトのPRから、伝えるその前にある大切なことを学びました。


■先生の紹介


PRコンサルタントとして「伝える」をお仕事にされている編田さんですが、そんな先生がそもそも伝えることにハマったきっかけは中学校の頃に参加した弁論大会だそうです。
青年海外協力隊に参加していたお父さんの影響で知った当時のネパールの現状を発表した編田さんは、いままで関心を持っていなかった男子生徒が身を乗りして自分の話を聞く姿をみて、伝えることにのめり込んだと仰っていました。
そうして伝えることの虜になった編田さんは、NHK秋田放送局で情報番組のキャスターとして「伝える」仕事に就きます。しかし、テレビだけでなくより多くの伝える手段を学ぶためPR業界に転職します。キャスターからPR業界へと、伝えるというキーワードを軸に、現在ではPRコンサルタントとして独立しソーシャルプロジェクトのPRに数多く関わっています。
続いては、そんな先生がいままで関わってこられたPRの実際の事例をご紹介です。


■商店街のPR-関係性をつくる-


人通りも少なく、お店も点々としかない、私の地元にもちょっと元気のないそんな商店街があります。編田さんがまずお話してくれたのは、そんなシャッター通りと化してしまった商店街のPRについてでした。商店街の方からの要望は空き店舗にお店が入るようにしたいとのこと。しかし、編田さんにはその前に気になったことがありました。それは、商店街に流れるどこかギスギスとした空気。商店街が抱える本当の問題は、空き店舗が増え人が少なくなってしまったことだけではなく、商店街内でのコミュニケーションが活発でないことだと編田さんは考えました。
そうした問題意識から編田さんはとあることを考えました。それはフリーマガジンの制作です。商店街の情報をまとめて、冊子にすることにしたのです。しかし、このフリーマガジンは商店街の外に向けた広報ではありません。それは、なによりも商店街の人たちに自分の商店街を好きになってもらうためのフリーマガジンでした。だから出来上がった冊子は写真もプロのカメラマンに撮ってもらい、デザインも作りこみ、クオリティには妥協しなかったそうです。そこには、冊子の中で商店街を綺麗に見せることで、商店街の人たちの意識を変える狙いがあったのだと思います。
フリーマガジンを作ったからといって商店街の集客が爆発的に増えたわけではないんです、と編田さんは仰っていました。けれど、商店街に対する住人の方の意識はたしかに変わりました。フリーマガジンという共通の話題をもとにご近所同士で話すことでコミュニケーションが活発になったのです。そしてそれは直接商店街の活気にも繋がるのだと思います。
フリーマガジンを通して商店街に話題を投げかけ活気をつくる。PRとは単に情報を伝えることが目的ではなく、伝えるものそのものを改めて見つけ出し磨きだすことから始まるということだということに気が付きました。


■気仙沼『かに物語』のPR-自慢できることを磨く-


気仙沼にある『かに物語』というカニ専門店。このお店はディープシーレッドクラブというナミビアで捕れるカニを販売しています。もともとはBtoBの取引が中心だったそうですが、3.11の大震災により大きな打撃を受け、一般顧客への販売も行うBtoCへとその形態を転換することになりました。編田さんは、この転換期に偶然に出会ったそうで、いろいろと話をする内にPRという手段でお手伝いをすることになりました。
早速企画書を作り、気仙沼の会社に向かった編田さんは、改めて社員の方々からお話をお聞きしたそうです。そのなかで出てきた問題は、オンラインショップから商品が売れないということでした。一般顧客への販売を開拓したいのになかなかオンラインショップからの販売が伸びない。たしかにそれは問題です。しかし、編田さんがよくよく話を聞いてみると、ひとつの事実が浮かび上がりました。それは、社員の方々はあまり自社のオンラインショップを見ていないということでした。
ウェブからの販売が伸びないということには様々な原因があるかもしれません。しかしその前に、ウェブ上の店舗であるオンラインショップを、自分たちであまり見ていないということにひとつの問題があるのではと考えました。
そこで編田さんは、社員の皆さんと一緒にオンラインショップをつくることにしました。
それぞれが好きでよく読む雑誌や、よく見るオンラインショップを探してきてもらい、そうして社員の方々が持ち寄ったイメージから『かに物語』にマッチするものを皆で考える。そうして自分たちがオンラインショップの制作に実際に手を動かすことで、ウェブにまず関心をもってもらい自分事にしてもらう。このいわばワークショップ形式のオンラインショップ制作にはそうした狙いがあったのだと思います。
そうして皆で考えるなか、ひとつのコンセプトが浮かび上がってきました。それは「”特別”をもっと身近に。」今までハレのものとして捉えられてきたカニをもっと日常的に食べられる身近なものにしよう、というものでした。
オンラインショップを皆で考え、コンセプトを皆で考え、そうすることで仕事が自分事になり仕事に自身と誇りを持てるようになる。実際メディアの方をお呼びした食事会の際、社員の皆さんは自分の言葉で商品についてや会社について、そしてコンセプトについてを語っていたそうです。
たしかにコンセプトをどう定めるのか、そして最終的にどういったオンラインショップになるのかということは大切だと思います。しかしそれ以上に、社員の方々に自分の仕事を「好き」と言える空気をつくることの方が大事なのではないでしょうか。「カニももちろん美味しかった。けど、堂々とプレゼンする社員の皆さんも素晴らしかったです」編田さんはメディアの方からそんなお話を聞いたそうです。


■自分の好きなことを伝えてみよう。


PRは自慢することからはじまります。フリーマガジンを使っての商店街活性化もかに物語の事例も、どちらも自分自身が自慢出来る空気を作ることで伝わるPRを形つくっていました。
そこで、そうした編田さんのお話をうけて、今度は実際に参加者の皆さん同士でのワークショップが始まりました。
二人一組になって、ひとりは自分の好きなことを相手に伝えてみます。そして対する聞き手は相手の好きなことを聞きながら更に掘り下げて引っ張り出します。みなさんほとんど初対面同士でしたが、好きなものの話は尽きないようで、どのペアも制限時間いっぱいまでお話されていました。
PRで大事なことは相手の「好き」を見つけて磨くこと。短い時間ではありましたが、皆さんお互いに相手の好きを見つけ出して、初対面の相手のPRマンになれたのではないでしょうか。

PRの意味を調べてみると、それは単なる情報の伝播ではなく、その情報による信頼と理解の獲得という目的があるそうです。たしかに編田さんのお話はどれも単なる情報の発信に留まってはいませんでした。まず、何を伝えるべきかを考え、時には伝えるべき良さを掘り出してそれを一緒に磨く。そうして相手の「自慢」を見つけていく。そして、そうして見つけ出された「自慢」だからこそ、それは血の通った情報になり、結果的に信頼と理解を獲得出来るのだと思います。私は今回の編田さんの授業で、PRという仕事の広がりと、伝えることの可能性を知ることが出来ました。


(ボランティアスタッフ:春日 拓也)