シブヤ大学

授業レポート

2015/3/26 UP

<時代QUEST> 被災地デイズ
〜復興のジレンマな分岐点〜

 この授業の元となったのは『被災地デイズ』(弘文堂)という一冊の本です。“自分以外の誰か”になりきって、被災地に発生するさまざまなジレンマについて考えるロールプレイングブックスです。

 授業の前半は本の中にも出てくるような問いを、クロスロードというカードゲームを使って考えるワークショップ。生徒一人ひとりに、“Yes”と“No”の2枚のカードが配られ、5人一組のテーブルごとに問いを読み、それに対して“Yes”か“No”自分の答えのカードを同時に出すというルール。奇数なので必ず多数派と少数派に分かれます。問いはEpisode1からEpisode4まで各1問ずつ、エピソードは災害直後、1週間後、1ヶ月後、1年後…と時系列になっています。


 ここからは私が参加したテーブルでのディスカッションの様子をお伝えします。

Episode1 災害直後 Q:あなたは救急隊員です。災害現場に駆けつけると、助かりそうな大人と心肺停止の子どもの二人がいました。まず、子どもから運ぶ?

 結果はNoが多数派でした。Yesは「大人は助かりそうだから子どもを先に助けても大丈夫だと思う」。Noは「救急隊員としては助かりそうな方を優先しなければいけない」という意見が出ました。「もし現場が多くの人に囲まれていたら?その中に子どもの親がいたら?」という条件を追加されると、Noと答えた人も「うーん…」と一度出した答えが揺らぎ始めました。


Episode2 1週間後 Q:あなたは避難所のリーダーです。ここには3,000名がいますが、非常食は2,000食分しかない。非常食を配る?

 この問いはYesが多数派でした。Yesは「非常食があるということが分かっているのに配らないのはパニックになる」、「自分は大丈夫だからと譲ってくれる人を募る」。Noは「一週間だから配らなくてもまだ平気だと思う」という意見が出ました。「この非常食ってどういうものなのかな?」「2,000食を3,000人分に分けることってできないのかな?」とYesでもNoでもない答えはないのかと、発展していきました。


Episode3 1ヶ月後 Q:あなたはボランティアセンターの職員です。現地の世話役はボランティアを必要ないと言っているが、他の住民からは派遣してほしいとの声が直接届いている。ボランティアを派遣する?

 この問いはYesが多数派でした。Yesは「世話役は必要ないと判断しているけれど、心のケアなど、力仕事以外にも必要とされていることがある」、Noは「世話役と他の人で意見が食い違っているということは、コミュニケーションが上手く取れてない。そんな中でボランティアを派遣したら、世話役と住民の溝が深くなってしまう」という意見が出ました。


Episode4 1年後 Q:あなたは自治体職員です。巨大津波の被害を受け、ボロボロになった役場庁舎。そのままの形で残すことが次の世代に歴史を伝えることになるとの意見もあるが、遺族はもう見たくないと言う。このまま残すか?

 この問いはNoが多数派でした。Noは「原爆ドームがあるけど、戦争は人が起こしたもの、それを残すことで二度とこんな事が起きないようにという教訓になるけど、震災は自然災害。人にはどうしようもない」。Yesは「残すことでここまで津波がきたということが分かる。防災意識につながる」という意見が出ました。




 後半は『被災地デイズ』の編著者である矢守先生によるレクチャー。前半のワークショップの解説をしながら、防災についてさらに深く考えていきます。「正解がない問いを知らない人間と考えることに意味がある。被災地にはさまざまなジレンマ─心の葛藤がある。そしてこのジレンマはトレードオフの関係。何かを選んだら何かを捨てることにもなる」

 続いて釜石の津波の映像を見て、全員で問いに回答します。
Q:「見知らぬおじいさん」助けに行く?
ほとんどの人がNoでした。続けて次の問いが出されました。
Q:「自分のおじいさん」助けに行く?
先の問いよりYesの人が増えました。

「他のところで同じ質問をするとだいたい同じ結果になります」と矢守先生。「ところが、小学校で同じ問いを出すと、見知らぬおじいさんでYesを出して、自分のおじいさんでNoになる子もいる。その子に理由を聞くと、自分のおじいちゃんを助けに行って、自分も助からなかったら、家族はおじいちゃんと僕の二人を失う。それよりは自分だけでも助かったほうが悲しまないから…と答えたんです」。

 最後に矢守先生が紹介したのが「てんでんこ」の教え。自分の命は自分で守るというこの教えは、次の4つの意味を持ちます。1.自助原則の協調 2.他者避難の促進 3.相互信頼の事前醸成 4.生存者の自責感の低減。
 中でも4が重要だと感じました。自分だけ生き残ってしまったことに対する罪悪感、サバイバーズ・ギルト。もし自分が死んで身近な人が生き残ったら、その人には幸せになってほしいと願います。そのためにも「てんでんこ」の教えをまわりに伝えておきたいと思いました。


(写真:増沢有里/レポート:鹿沼茉希子)