シブヤ大学

授業レポート

2012/5/1 UP

“おせっかいではなく、幸せな事故の誘発になるように 本をすすめる”

4月というには肌寒く、あいにくの小雨となった週末・夕暮れの渋谷、
「ディクショナリー倶楽部」という閑静なオープンスペースにて、
今回の授業は行われました。

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本日の先生はBACHという会社でブックディレクターを勤める幅允孝さん。
本と人の新しい出会い方をコーディネートされているとのこと。
授業は「人に本をすすめる」というときの、幅さんの作法についてお伺いしました。

本屋はもちろん、病院や空港など、様々な空間に本のコーナーを創る幅さんのお仕事は、
言い換えれば「本を手に取るオポチュニティを世の中に点在させてゆく」ということ。
そんな時に幅さんが心がけているのは、
「おせっかいではなく、幸せな事故の誘発になるように 本をすすめる」ことだそうです。
例えば療養中の患者さんに本をすすめる際には、
相手の状況に耳を傾けてそのあふれ出る声を聞き、「寄り添う」ということに、
子どもたちがまだ知らないであろう本を紹介するときには、
彼らの身近な関心や感覚に近づけて「つなげる」ということに、心を砕くとのこと。

印象的だったのは、幅さんの創るブックコーナーが、
出版社/筆者ごとに本を並べるのではなく、
本のコンテンツ毎に本をまとめて見せる、ということでした。
ぼくは本屋に立ち寄っても、
わき目もふらず、お目当ての本や著者の名前ばかりを探してしまいがちですが、
それでは本との「幸せな事故」は生まれないだろうなと思います。
“宇宙モノ”とか“冒険モノ”とか“東北モノ”とか、
そんな風に本を並べる本屋さんだったら、
きっと自分が知らなかった、
それだから興味ももてなかったような本との偶然の出会いにぶつかることができるでしょう。


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幅さんのお人柄あふれるお話を伺ったあと、
今度はぼくたちがそれぞれ持ち寄った本の紹介タイムとなりました。
このワークショップ、4~5人のグループにわかれて、
90秒でその本を紹介するというものなのですが、
これが意外と難しい!!!
会場ではそれぞれの熱い、厚い、アツい!思いのこもった紹介が行われています。
世界の家とその家財、そしてそこに住む人々を写した写真集、
落語に生きるその半生を綴った自叙伝、
茶道に関わる著者の日常を見渡すエッセイなど、
紹介される本は様々、そしてぼくの世界にはなかった本たちばかりでした。
紹介者の本にまつわるエピソードや熱い思いの兆しが見え始める頃に、
90秒はあっという間にその時を終えてしまいます。
幅さんいわく、そのコツは「一言で言うと」と、はじめに相手に伝えることだそう、なるほど!
溢れんばかりの伝えたい思いがひしめきあって、会場はどんどん盛り上がります。

それぞれのグループで最も共感を得られた猛者たちが、
その紹介の仕方にグループでさらなるブラッシュアップを試みた後、
決勝戦として、全員の前でアピールバトルを行いました。
ぼくたちのグループからは、夏目漱石の『三四郎』を「営業のバイブル」とアツく語る営業マンの方が出場!
ユーモアと経験知に満ちたブックトークで会場をわかせてくれました。
優勝したのは、「この本との出会いが人生を変えた!」と、力強いブックアピールをしてくれた男性で、
島への旅のススメに関するポップな雑誌を紹介してくれました。
本を通じて垣間見れるその人のドラマや、本が紹介者の中に生きづいているその気迫に、みなさん感心している様子。
優勝した男性とグループを中心に、写真撮影をして、今回の授業は大盛上がりの中おしまいに。
授業後にはなんと自主的な読書会の発足も!
今後の素敵な本と人との「幸せな事故」に心が踊ります。


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友だちと喫茶店や居酒屋に行った時、本の話をするのが、ぼくは好きです。
それは本が間に挟まって、相手の大事にしていることや気持ちを、一歩踏み込んで察することができるから。
そんな普段の楽しみに、今回の授業は「幸せな事故の誘発」という素敵な輪郭を与えてくれました。
まだまだ「おせっかい」みたいな時が自分には多いのだけど、
「人の読みを知るのは最高だね!」と、控えめにどっぷり、本と相手の語りに寄り添い、
本をコミュニケーションの間に据える幅さんの作法から得られた発見を、これからの学びにしていきたいと感じています。

幅さん、生徒の皆様、そしてコーディネーターの皆様、
充実した時間を、どうもありがとうございました!


(ボランティアスタッフ 平松和旗)