シブヤ大学
誰もが働ける社会を作る ソーシャルファームを知って、考えて、働きたくなるワークショップ

ソーシャルファーム(Social Firm)という存在をご存知ですか?

誰もが楽しく働くことができるような職場。挫折があっても、失敗があっても、困難があっても、障害があっても、働きたいと思っている人は多い。そうした人々が働くことができる場所が「ソーシャルファーム」です。

でも、ソーシャルファームは特別な場所じゃないんです。どんな会社でもソーシャルファームになることができる。

このワークショップは、ソーシャルファームとはどういうものか、どんな会社が取り組んでいるのか、どんな人がどんなふうに働いているのか、どうやってソーシャルファームになれるのか、さまざまな人々が楽しく働くことができるソーシャルファームの思想と実践を知り、未来の社会を考え、作る場所です。

2025年 第1回テーマ「働けないってどういうこと?
働くってどういうこと?」

2025年7月8日(水)19:00〜21:00

2025年最初の授業は、過去2年間に学んだ“ソーシャルファーム”とは何かという振り返りから始まりました。「ソーシャルファームは大きくは利益追求と社会課題の解決の双方を目指すソーシャルエンタープライズ(社会的企業)と言われるものの中のひとつで、労働市場で著しく不利な立場にある人々---例えば、障害者はもとより、ひとり親だったり元受刑者だったり引きこもりだったり---の雇用を創出する企業で、“労働統合型の社会的企業 / Work Integration Social Enterprise(WISE)”とも言われます」と近藤先生。

大事なのは「さまざまな社会的排除のある人たちをインクルージョンしていくという考え方。日本には障害者に対する支援はありますが、その他の人々に対する国としての支援制度はまだありませんが、東京都をはじめ、各自治体が独自にソーシャルファーム的な取り組みをおこなっている企業に助成金などの支援をおこなっています。こうした動きが多発的に広がっていくと、今後、国としてもソーシャルファーム制度ができてくるかもしれないという期待も高まりつつあります」など、わかりやすく説明してくださいました(詳しくは過去のアーカイブをご覧ください)。

ゲストに来ていただいたのは、認定NPO法人育て上げネットの伊野滉司さん。引きこもりなどの若者の就労支援を行う育て上げネットは、一昨年に登壇いただいたディースタンダード社と協力して、引きこもりを経験した若者の就業を支えています。

伊野さんは、「育て上げネットを経由する若者に関していうと、就職するまでにかなり多くのステップがあります。10人いれば10通りのステップがある。それぞれの特徴もあるし、抱えている困難性も異なるので、基本的にはほぼ個別の対応が必要です。その後、就職した先の企業もさまざまで、ディースタンダード社のように受け入れ体制が整っているところもあれば、これからやっていきたい、とおっしゃる企業もある。企業の方とも、就職した若者とも話し合いながら進めています」。

地域に根ざした中小企業などの多くは、地域を盛り上げたいとか地域に還元したいという思いを持ってそうした若者を雇用するケースが多いが、最近では、人手不足から新しい働き手を求めている企業もあるそう。育て上げネットとしては、「人生で初めて働くかもしれない若者のマッチングにはかなりサポートが必要だと思いますし、慎重にしなきゃいけないことだと思っています」。伊野さんによれば、社会から孤立している若者は大体17人に1人。およそ200万人近くいるわけです。

多様な働き方が可能な現代社会の中で、さまざまな企業、組織で働けるというところも含めて応援したいと思っているのだと伊野さんはおっしゃっていました。

参加者の中には複数回参加したという人もいましたが、大多数は初めて。過去の振り返りと伊野さんとのトークを聞いての意見交換では、活発な発言が飛び交いました。「ソーシャルファームはひとつだけあってもしょうがない。要はプラットフォームとなって、“この会社では合わないけれど、ここの業界だったら合うかも?”みたいになるとハッピーが広がるのではないか」、「障害者、元受刑者、外国籍の人たち……本当の意味でインクルーシブとはなんだろう」、「収益を上げつつ人を育てられるビジネスセンスとは」、「短時間で働いてみるとかのスモールステップを刻んでいくなど、困難を抱えてる方が活躍できるチャンスをどうつくっていけるかが会社の発展にも繋がるんじゃないかなと思う」、「障害者手帳を持っていないグレーゾーンの方の受け入れは非常に難しいなという話もでた」、「去年4回聞いてすごく勉強になった。誰でも話せる状況が整っているので、“それからの話”を一緒にしていきたい」、「働きたいけれど働けない人がどこに助けを求めればいいのかがいちばんわからない」等々。

会場から出てきたさまざまな課題は、“働く”ということに対して社会が抱えている複合的な問題が背景にあります。伊野さんは、「私たちは引きこもりの若者の支援を得意としているNPOですが、女性を支援する団体もあれば、障害支援の団体もある。困難を抱えるというというカテゴリーで言えば、おそらくとんでもない数がある。一方で、ソーシャルファームの中でもレイヤーがある。全方位分かっている企業はたぶんない。それぞれの専門性の高いところと組んで、中長期的な観点でやっていけたら」とおっしゃっていました。

「いろいろな問題が構造的にありますよね」と近藤先生。「ソーシャルファームは桃源郷じゃない。会社なんです。ただの会社なんだけど、経営者がソーシャルな観点を持っていて、“一緒に働こうぜ”という枠を持っている会社です。もともと日本にはソーシャルファーム的な会社はありました。けれども、可視化されてこなかった。ただ、いまもやっている企業もあるし、NPOもある。もしかすると会場の中からやっていこうという方が出てくるかもしれないし、もうやってらっしゃる方がいるかもしれない。そうすると、ネットワーク化していったり見える化していったりして、もっと大きなフレームワークみたいなものが必要なのかもしれない。そこにはたくさんの育てる人もいればビジネスセンスがある人もいるかもしれない。会場からの活発な意見、とても嬉しいです。みなさん、次回もぜひ来てくださいね」。議論はまだまだ始まったばかり。“これからどうしていこう?”を話し合う熱気の中で、第一回目は熱気とともに終了しました。

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