シブヤ大学
誰もが働ける社会を作る ソーシャルファームを知って、考えて、働きたくなるワークショップ

ソーシャルファーム(Social Firm)という存在をご存知ですか?

誰もが楽しく働くことができるような職場。挫折があっても、失敗があっても、困難があっても、障害があっても、働きたいと思っている人は多い。そうした人々が働くことができる場所が「ソーシャルファーム」です。

でも、ソーシャルファームは特別な場所じゃないんです。どんな会社でもソーシャルファームになることができる。

このワークショップは、ソーシャルファームとはどういうものか、どんな会社が取り組んでいるのか、どんな人がどんなふうに働いているのか、どうやってソーシャルファームになれるのか、さまざまな人々が楽しく働くことができるソーシャルファームの思想と実践を知り、未来の社会を考え、作る場所です。

2024年 第4回テーマ「ソーシャルファームのリアル
(雇う人と支える人の目線から)

2024年12月16日(月)19:00〜21:00

11月に開催した第3回「ソーシャルファームのリアル(働く人の目線から)」に来ていただいたのが株式会社拓実建設で働く社員のおふたり。おふたりとも、刑務所内で受刑者向けの求人誌『Chance!!(チャンス)』に掲載されていた会社内容と社長のメッセージを見て、「ここでやり直す」と思い極めて手紙を書いたことがきっかけだと話してくれました。第4回は、株式会社拓実建設代表取締役の柿島拓也さんと、『チャンス』を発行する株式会社ヒューマン・コメディ代表取締役の三宅晶子さんにお越しいただきました。

拓実建設は、従業員の4割が出所者・出院者で、柿島さんは毎週どこかの刑務所、拘置所、少年院などを回り、就職希望者との面接や就業支援イベントなどに顔を出しているそうですが、採用はほとんど『チャンス』経由。2018年の創刊からずっと掲載しつづけている拓実建設は、いま最も受刑者に人気のある就職先なのだそうです。

一方、『チャンス』は、それまでハローワークの求人票しかなかった刑務所の就労支援に一石を投じた求人誌。「求人票って条件とか給料とかはわかるけれど、どんな会社なのかわからない。彼らが一番気になるところって、お給料はもちろんですが、そこに自分の居場所があるかどうかということだと思うんです。なので、その会社の空気感みたいなものを伝えたくて、写真や社長のメッセージを掲載する、求人誌というよりは会社紹介に近い」と三宅さん。創刊当時13社程度だった掲載企業も、現在は常時30社以上。いまでは類似の求人誌も登場しているほどとなりました。

柿島さんが出所者・出院者の雇用を始めたのは、採用活動の一環で、たまたま刑務所・少年院の子を採用することになったのがきっかけ。「“雇ってあげる”ではなく、最初から戦力として考えていますから。本人が頑張ればもちろん昇給もするし、やる気になれば、仕事は元請さんから指名でもらえる。本人も会社もwin-winの関係だと考えています」。と柿島さん。前回、従業員が、“社長は本音で話してくれる”と言っていたのも、柿島さんは「現場に出ている人間ってやっぱり本音で話をするんで、そこは裏表がないからこそ、こちらも思っていることを言ってあげればwin-winになれる」と思っているからこそ。誹謗中傷や失敗に不寛容な現代社会の中で、出所者にもひとりの人間として接し、“やり直したい”という気持ちで働くということに真正面から向き合う柿島さんの姿勢にはぶれがありません。

三宅さんが『チャンス』を創刊したのは、親から虐待を受けていた女の子とある施設で出会い、その後少年院送致となった彼女の身元引受人となったことがそもそものきっかけ。「人生で選択肢ってすごく大事だと思う。選択肢がないと、人は“やらない・できない”の言い訳にしてしまうと思う」という三宅さんは、現代に足りないのは想像力だと指摘されました。相手の、その背景にある事情を想像する、たまたま犯罪をせず生きていることに感謝する、自分を大切にする。「私はそんなことが、単純だけど必要かなって思っています」。そう言う三宅さん自身、自分も居場所をずっと探し続けてきた、とおっしゃいました。そして、『チャンス』をつくっているヒューマン・コメディを、自分の居場所として見つけたんだな、と。“ヒューマン・コメディ”という社名は、「どんな悲劇も喜劇になる」と思って生きているからだそう。「犯罪はネタにしちゃいけないし喜劇にならないけれど、出てから一生懸命頑張って生きて、それで笑って死ねたら、それはネタだと思うし、喜劇だなあと思うんです」。

おふたりの話は、参加者の方々にも深く染み渡っていたように思います。「人助けをしたいとかいう大きな理由じゃなくて、出会いとかきっかけがあったからいまこうなっているんだ、というお話が新鮮だった」「『あなたのためにやってあげてるんです』じゃなくて、『自分のためにやってるんです』というスタンスがすごくいいねと話し合った」、「居場所があることが大切なんだろうな。自分を受け入れてくれる場所があれば、生きやすくなったり働きやすくなったりするんじゃないかと思った」「辞めた方たちはいまどうしてるんだろう」「『やってあげてる』っていう構図が生み出す搾取みたいなものについて考える必要があるのかなと思った」「おふたりとも誰かのためにやっているんじゃなくて、もう当たり前にやってらっしゃる。縁があったからやっている。自分のためにやっている。win-winだからやっている……そういうことなのかなっていうことで、何かこう、腑に落ちた感じがしています」。ワークショップの後のグループ発表からはこのような感想がありました。

最後に柿島さんがおっしゃっていたことが心に残っています。

「いまうちに14年刑務所に入っていた人がいます。罪名は強盗、強盗致傷、強姦。この3つが加算されるとすっごい悪い奴で近寄り難いイメージがあると思う。でも冗談も言うし、笑うし、絵もうまい。彼は『もう絶対にもどりたくない』と言う。被害者もいるので割り切れない気持ちは僕にもあるけれど、でもその笑顔……やっぱり本当にやり直せるんだなと思います。“絶対に再犯しない”というのは自分の意思でしかないけれど、そういうことだと思うんです。一緒に飲んで、冗談を言って……それが一番自分にとって幸せですし、本人にとってもそれが一番幸せなのかな、と思うんです」。