シブヤ大学

授業レポート

2018/5/1 UP

思いやりが社会を変える
〜ソーシャルアクションから生まれたジュースを飲みながら、やりたいことを社会につなげてみよう!〜

最近運動不足だなぁ、そろそろ健康に気をつけたいなぁと思う人はいませんか?
私もその一人です。。。
そんな現代人にとって今、ジュース売り場を目にする機会が増えてきています。
1杯のジュースからスタートする健康的な暮らし、それを支えているのは共に社会に生きる誰かなのかもしれません。

今回の先生は、2016年にグッドデザイン賞を受賞した「マザージュース」をプロデュースした羽塚順子さんです。
「マザージュース」とは、その生産と販売に障がいのある人が関わることで「飲む人・つくる人・売る人」が互いに支え合う仕組みを作っていこうという新たな取り組みです。


授業では、羽塚さんがこの活動に至った経緯や、現在取り組まれている様々な活動に対する想いをうかがい、実際にジュースを飲みながら、共に「マザージュース」プロジェクトを担う加藤さんのお話も交えつつ最後に参加者のみなさんとのワークショップを通じて、これからのソーシャルアクションについて考えるという、大変内容の濃い時間になりました。

教室となったのは、マザージュースを販売しているカフェがある渋谷区笹塚の福祉施設「渋谷まる福」(ホープ就労支援センター)の一室です。
参加者の皆さん、やはりどんなジュースか飲んでみたくて!という方も多く注目度は抜群でした!


1.羽塚さんのソーシャルアクション

羽塚さんは公立中学校の特別支援学級で自閉症児を指導後、結婚・出産・子育てなどを経て、
転職後にフリーランスとなり、様々な人と出会うなかで、それまでも関心を寄せていた福祉の分野に取り組み始めます。
そして社会的に弱い立場にある人々と共に生きる社会をつくることを自らのライフワークとして、
これまでの福祉をさらに前へ前進させ、皆が支え合う社会づくりのため日々活動されています。
羽塚さんが立ち上げ、プロデュースを手掛けたものは多岐にわたりますが、授業ではその一部が紹介されました。
児童養護施設からの進学を応援する奨学金支援プログラム「カナエール
職人さんやデザイナーさんと福祉作業所が組み合わさることで、適正な商品価値を持つ製品を作りだそうとする
ウェルファエトレードプロジェクト「GOEN enen PROJECT
羽塚さんの活動は、これまで福祉とはあまり関わることになかった人や企業も福祉の世界に取り込みながら、
新たな福祉のブランディングに意欲的に取り組まれている姿にたくさんの刺激をもらいました。


2.「マザージュース」の取り組み

マザージュースは、丁寧に作られたジュースを消費者が購入して消費することだけが目的のジュースではありません。
羽塚さんたちは、飲む人(消費者)、つくる人(生産者)そして売る人(販売者)それぞれが相互に支え合う関係づくりを目指しています。
普段は周囲から支えられる側である障がいをもつ人々が、販売などを通じて、飲む人の健康を支える側になり、また、販売者だけでなく消費者もファンディングによるイベントなどを通じて農作業に参加することで、生産者を支える役割を担うという双方向の取り組みによって、この活動は支えられている点が大きな特徴です。

羽塚さんがこの活動に込めた想いの1つに、 「ソーシャルファーム」という考えかたがあります。
「ソーシャルファーム」とは ハンディがある人や社会で生きにくい人たちが混ざり合って働く場のことです。
ヨーロッパではすでにこのような場づくりの試みが始まっているそうです。
日本でも混ざり合って働く人同士が支え合える場が増えてほしい、「ソーシャルファーム」と呼べる場づくりを目指して、マザージュースのプロジェクトは作られています。


3.飲んでみよう!語り合ってみよう!



たっぷりと羽塚さんとマザージュースのお話を聞いた後は、いよいよジュースの登場です。
みなさんの前に大地のケールジュースと太陽のにんじんジュースが登場、その色の鮮やかさに驚きの声があがります。
マザージュースをひと口飲めば、まさに今収穫したてなのかと思うような新鮮な味が口の中に広がります。
無農薬の畑で丁寧に作られたにんじんが生み出す甘さは、ずっと飲み続けたくなるおいしさです。

ジュースを飲みながら、本日のもう一人の先生、加藤敦さんのお話がはじまりました。
加藤さんはこのジュースを販売する「ホープ就労支援センター」の代表をされていますが、ずっと福祉の現場で働いてきた人ではありません。様々な職業を経験し、いろいろな縁がつながって、現在の障がい者支援のNPO法人を立ち上げられました。
加藤さんのお話は、福祉施設の運営をする側として、福祉作業に対する労働対価の低さをどうにかしなくてはいけないという現状、そしてその改善のためにも、今までとは違うアプローチで福祉の可能性を広げていく試みのひとつとしてマザージュースの活動があり、それ以外にも様々な挑戦をされている真っ最中でした。
羽塚さん加藤さんそれぞれに、現状をよりよくしたいという熱い思いが伝わってきました。

お2人の想いをしっかりと受け止めた後は、
最後に参加者の皆さん自身でソーシャルアクションについて考えるワークショップが行われました。

まず先生から与えられたのは「あなたのなかにある資源を見つめる」というテーマ。
小さなグループに分かれて、先生の以下の4つの問いに対する答えをそれぞれメモに書き、一枚の紙にみんなで貼っていきます。

①あなたの好きなこと、得意なことはなんですか?
②あなたが直面した困難だったことはなんですか?
③あなたの力になってくれる周囲の仲間、友人、家族はだれですか?
(単なる知り合いではなく、より深くつながっている人は誰ですか)
④あなたが持っているモノはなんですか?(物理的、金銭的、知識的資源は何ですか)

答えをそれぞれに対して5つ以上出さなくてはいけないので、うーんうーんと必死に考えるひと、書くことがありすぎて手が止まらない人など、皆さんそれぞれの中にある資源を、1枚ずつ紙の上に広げていきます。



最後に全ての答えが出そろったところで、4つの問いからあきらかになった自分の資源をつかって、
〈誰に〉×〈何を〉×〈どのように〉 の視点から、
自分ができるソーシャルアクションを設定してみたらどうなるか、グループそれぞれで発表し、最後は全体でシェアすることができました。

なかなか普段考えない視点から自分を見つめることで、普段の自分とは違う一面を知り、自分の可能性が新たな視点から開けていく感じがしてとても面白かったです。


この授業を通して、私たちの周りには様々な人たちがいて、多種多様な資源であふれていることに改めて気がつくことができました。
マザージュースをはじめとした、様々な立場の人たちが思いやりをもってつながるソーシャルアクションが、今後ますます増えていくのを期待してやみません!
明日につながる、一人ひとりのソーシャルアクションを今こそ始めてみませんか?

(レポート&写真:木村芙佐子)