授業レポート
2018/2/16 UP
選択肢は1つじゃない。
女性の多様な生き方を肯定する「場所」づくり
今回の教室は cocoti SHIBUYA内にある347CAFE&LOUNGE。店内にあるバーカウンターに生徒さんが並び、先生はカウンターの中へ!授業に来たというよりも、仲間と仕事終わりに飲みに来たような雰囲気が漂います。
先生は「She is」編集長の野村由芽さん、プロデューサーの竹中万季さん。
お二人に「She is」がどのようにつくられているのかお話しいただき、授業後半には、生徒さんも参加しての公開編集会議が行われました。
■She isについて
WEBサイトの制作、メディア運営、イベント企画など、多岐にわたる事業を行なっている株式会社CINRA。そこで働く野村さんと竹中さんが、CINRA初の女性ターゲットのメディア「She is」を立ち上げました。
She isは編集部のみが発信する一方通行のメディアではなく、女性クリエイター・アーティストといった有名な方から、素敵な考えを持つ一般の方まで、魅力的な女性たちの声を集めて、その想いを「ウェブマガジン」や「ギフト」に活かし、考えを深めていくコミュニティです。
She isには毎月、特集テーマがあります。
9・10月「未来からきた女性」、11月「ははとむすめ」、12月「だれと生きる?」…
ウェブマガジンでは特集テーマを深く考察するコンテンツや、様々な連載コンテンツを読むことができます。
そして、Members(有料メンバー)になると特集テーマからインスピレーションされたギフトが送られてきます。
ほかにも、She isはイベントも主催していて、WEBにとどまらず、フィジカルなコミュニケーションも行っているのだとか。
■上辺の言葉遊びによろめかない
She isがどんなメディアかが紹介されているaboutページには、端的に言い切る説明は書かれていません。簡潔でないからこそ、二人の思いが、それを思う情景が、湧き出てくるようです。
どんな思いで「She is」が始まったのか…それは、野村さんが書いた「無数のなめらかな選択肢を選べるハッピーエンドへ」の中にも綴られています。
「『言葉にならなかった思いは、どこにいくのだろう? そして、生まれて消えていった思いはどれだけたくさんあるのだろう?』子どもの頃、後ろの席からクラスメイトを眺め、彼らの頭からふきだしが見えたときにこう感じて以来私は、飼いならされていない、その人をその人たらしめている個人的な思いを肯定したい、と考えるようになりました。
(中略)
She isという名前は、彼女は存在する、という意味をこめました。She isに集まった彼女たちの記録や、記憶や、情緒というのは、上辺の言葉遊びによろめかない、彼女たちが彼女たちであるために独りで存在している深い海のような場所から生まれた強さがあります。彼女たちらしい心のかたちが、ここを訪れてくださった人を包みこみますように。」
(無数のなめらかな選択肢を選べるハッピーエンドへ/この場所をつくるに至った編集長のつれづれ雑記 より)
She isでは、書くことで身をたてていない人にもコラムをお願いしたり、読者の方からSNSのハッシュタグを通して意見を集めたりもしています。
「自分たちのよりどころをつくろう」とした時、そこに載せるのは最新の情報ではない、と考えたという野村さん。あらゆる人の視点の入った最新情報ではなく、二人が本当にいいと思っている人たちが紡ぐ「時間をかけてつくられるもの」を載せようと決めたのだとか。その思いのひとつひとつは小さくたよりないかもしれないけれど、She isはそれらを集めることで、新しい姿を見ようとしています。
■自分にも、社会にも必要なもの
そもそも、社長に自らプレゼンをして事業を立ち上げた二人。誰から求められたわけでもなくつくるということに、不安や迷いはなかったのでしょうか。
「一番のターゲットが自分だから、確信がありました。こう思うのはわたしたちだけじゃないはず、という根拠のない自信もあって」(竹中さん)
とはいえ、「会社にとってメリットがある形とは?」「マネタイズはどうする?」…会社の中で事業を立ちあげるには、乗り越えなくてはならない課題がたくさんありました。
そのために、国内外の女性をとりまく状況を調べ、SNSに点在しているユニークな人達を繋げるコミュニティの必要性がわかるデータを集めたのだとか。
また、二人とも違う業務をしていたので、どう両立するのかも含め、約一年間かけて考えたそうです。
She isのウェブマガジンを読んでいると、一見、女性の思いが溢れる情感的な文章が多いように感じます。でも、そこにひとりよがりなナイーブさを感じないのは、つくり手の二人が、社会に必要なものを見極めているからかもしれません。
■公開編集会議・みんなの「超好き」
授業の後半は、公開編集会議。She isの2月のテーマは「超好き」。他の人には理解されないかもしれないけど、大切にしたいもの。そんな「超好き」を持っている人や、自分自身の「超好き」をみんなで書き出してみました。
ビートルズが超好き、パイプオルガンが超好き、神社が超好き、自分のことが超好き!…それぞれの大切な思いが語られました。
「自分のことが超好き」という方は、セルフポートレートを撮り、1年間毎月一冊ZINE(個人で制作する冊子)をつくろうと決めた、と話してくれました。
「きもちわるいとか変とか言う人もいるけど、自分は世界でひとり。それが不思議で」
すると他の方からも、わたしもZINEをつくっている、という声が!(彼女のZINEには「さかさまつげは進化の一端なのかもしれない」…など素敵な読み物や写真でいっぱいでした)
写真を撮ったり、エッセイを書いたり、それ自体はありふれていることでも、実際に自分の手でかたちにしていく人は少ない。
「それをやるかやらないかは段違いに違う」、と野村さんは言います。
■いつも近くにいるわけじゃない。でもたしかに存在する。
授業に参加して、野村さん、竹中さんが自分たちの生きる先を見据え、そこに求められているものを懸命にかたちにしているのをひしひしと感じました。
そんな人たちがつくる「She is」の中に入ると、
「私も『こうじゃなきゃいけない』じゃなくて『こうしたい』を大切にしたい。『これがいい』をつかみたい」という気持ちになります。
でも、行動するにはとてもエネルギーがいるから、身近な声に影響されて、ひとりだと気持ちが折れて霞んでしまいそう…
そんなときにShe isを訪れると、孤独を包んでくれるようなあたたかさや、ピリッとした刺激、明日も「私」を生きようと思える心強さ…様々な気持ちがふたたび湧き上がります。
以前、昆虫が好きなことでいじめられていた少女の母親が、そのことをSNSに投稿したところ、その子のもとに世界中の虫博士から支援の声が届いたというニュースがありました。
「みんなと同じでないといけない」という同調圧力から、自分の気持ちを正直に言えないこともあります。今では、身近に共感しあえる仲間がいなくても、SNSやインターネットによって遠い環境にいる人たちと自分の大切な気持ちを共有できるようになりました。でも、実際に会ってコミュニケーションをとれないと、繋がっているリアルな感覚は持ちづらいかもしれません。She isはウェブマガジンの情報発信だけでなく、イベントを開いたりギフトを届けたりすることで、Membersの方々に自分が自分らしくいられる場所があるという実感をもたらしているような気がします。
いつも近くにいるわけじゃないけど、たしかな存在を感じられる。私の存在を認めてくれる。
She isからそんな魅力を感じる、バーでのひとときとなりました。
(レポート:中野恵里香、写真:青木優莉)
先生は「She is」編集長の野村由芽さん、プロデューサーの竹中万季さん。
お二人に「She is」がどのようにつくられているのかお話しいただき、授業後半には、生徒さんも参加しての公開編集会議が行われました。
■She isについて
WEBサイトの制作、メディア運営、イベント企画など、多岐にわたる事業を行なっている株式会社CINRA。そこで働く野村さんと竹中さんが、CINRA初の女性ターゲットのメディア「She is」を立ち上げました。
She isは編集部のみが発信する一方通行のメディアではなく、女性クリエイター・アーティストといった有名な方から、素敵な考えを持つ一般の方まで、魅力的な女性たちの声を集めて、その想いを「ウェブマガジン」や「ギフト」に活かし、考えを深めていくコミュニティです。
She isには毎月、特集テーマがあります。
9・10月「未来からきた女性」、11月「ははとむすめ」、12月「だれと生きる?」…
ウェブマガジンでは特集テーマを深く考察するコンテンツや、様々な連載コンテンツを読むことができます。
そして、Members(有料メンバー)になると特集テーマからインスピレーションされたギフトが送られてきます。
ほかにも、She isはイベントも主催していて、WEBにとどまらず、フィジカルなコミュニケーションも行っているのだとか。
■上辺の言葉遊びによろめかない
She isがどんなメディアかが紹介されているaboutページには、端的に言い切る説明は書かれていません。簡潔でないからこそ、二人の思いが、それを思う情景が、湧き出てくるようです。
どんな思いで「She is」が始まったのか…それは、野村さんが書いた「無数のなめらかな選択肢を選べるハッピーエンドへ」の中にも綴られています。
「『言葉にならなかった思いは、どこにいくのだろう? そして、生まれて消えていった思いはどれだけたくさんあるのだろう?』子どもの頃、後ろの席からクラスメイトを眺め、彼らの頭からふきだしが見えたときにこう感じて以来私は、飼いならされていない、その人をその人たらしめている個人的な思いを肯定したい、と考えるようになりました。
(中略)
She isという名前は、彼女は存在する、という意味をこめました。She isに集まった彼女たちの記録や、記憶や、情緒というのは、上辺の言葉遊びによろめかない、彼女たちが彼女たちであるために独りで存在している深い海のような場所から生まれた強さがあります。彼女たちらしい心のかたちが、ここを訪れてくださった人を包みこみますように。」
(無数のなめらかな選択肢を選べるハッピーエンドへ/この場所をつくるに至った編集長のつれづれ雑記 より)
She isでは、書くことで身をたてていない人にもコラムをお願いしたり、読者の方からSNSのハッシュタグを通して意見を集めたりもしています。
「自分たちのよりどころをつくろう」とした時、そこに載せるのは最新の情報ではない、と考えたという野村さん。あらゆる人の視点の入った最新情報ではなく、二人が本当にいいと思っている人たちが紡ぐ「時間をかけてつくられるもの」を載せようと決めたのだとか。その思いのひとつひとつは小さくたよりないかもしれないけれど、She isはそれらを集めることで、新しい姿を見ようとしています。
■自分にも、社会にも必要なもの
そもそも、社長に自らプレゼンをして事業を立ち上げた二人。誰から求められたわけでもなくつくるということに、不安や迷いはなかったのでしょうか。
「一番のターゲットが自分だから、確信がありました。こう思うのはわたしたちだけじゃないはず、という根拠のない自信もあって」(竹中さん)
とはいえ、「会社にとってメリットがある形とは?」「マネタイズはどうする?」…会社の中で事業を立ちあげるには、乗り越えなくてはならない課題がたくさんありました。
そのために、国内外の女性をとりまく状況を調べ、SNSに点在しているユニークな人達を繋げるコミュニティの必要性がわかるデータを集めたのだとか。
また、二人とも違う業務をしていたので、どう両立するのかも含め、約一年間かけて考えたそうです。
She isのウェブマガジンを読んでいると、一見、女性の思いが溢れる情感的な文章が多いように感じます。でも、そこにひとりよがりなナイーブさを感じないのは、つくり手の二人が、社会に必要なものを見極めているからかもしれません。
■公開編集会議・みんなの「超好き」
授業の後半は、公開編集会議。She isの2月のテーマは「超好き」。他の人には理解されないかもしれないけど、大切にしたいもの。そんな「超好き」を持っている人や、自分自身の「超好き」をみんなで書き出してみました。
ビートルズが超好き、パイプオルガンが超好き、神社が超好き、自分のことが超好き!…それぞれの大切な思いが語られました。
「自分のことが超好き」という方は、セルフポートレートを撮り、1年間毎月一冊ZINE(個人で制作する冊子)をつくろうと決めた、と話してくれました。
「きもちわるいとか変とか言う人もいるけど、自分は世界でひとり。それが不思議で」
すると他の方からも、わたしもZINEをつくっている、という声が!(彼女のZINEには「さかさまつげは進化の一端なのかもしれない」…など素敵な読み物や写真でいっぱいでした)
写真を撮ったり、エッセイを書いたり、それ自体はありふれていることでも、実際に自分の手でかたちにしていく人は少ない。
「それをやるかやらないかは段違いに違う」、と野村さんは言います。
■いつも近くにいるわけじゃない。でもたしかに存在する。
授業に参加して、野村さん、竹中さんが自分たちの生きる先を見据え、そこに求められているものを懸命にかたちにしているのをひしひしと感じました。
そんな人たちがつくる「She is」の中に入ると、
「私も『こうじゃなきゃいけない』じゃなくて『こうしたい』を大切にしたい。『これがいい』をつかみたい」という気持ちになります。
でも、行動するにはとてもエネルギーがいるから、身近な声に影響されて、ひとりだと気持ちが折れて霞んでしまいそう…
そんなときにShe isを訪れると、孤独を包んでくれるようなあたたかさや、ピリッとした刺激、明日も「私」を生きようと思える心強さ…様々な気持ちがふたたび湧き上がります。
以前、昆虫が好きなことでいじめられていた少女の母親が、そのことをSNSに投稿したところ、その子のもとに世界中の虫博士から支援の声が届いたというニュースがありました。
「みんなと同じでないといけない」という同調圧力から、自分の気持ちを正直に言えないこともあります。今では、身近に共感しあえる仲間がいなくても、SNSやインターネットによって遠い環境にいる人たちと自分の大切な気持ちを共有できるようになりました。でも、実際に会ってコミュニケーションをとれないと、繋がっているリアルな感覚は持ちづらいかもしれません。She isはウェブマガジンの情報発信だけでなく、イベントを開いたりギフトを届けたりすることで、Membersの方々に自分が自分らしくいられる場所があるという実感をもたらしているような気がします。
いつも近くにいるわけじゃないけど、たしかな存在を感じられる。私の存在を認めてくれる。
She isからそんな魅力を感じる、バーでのひとときとなりました。
(レポート:中野恵里香、写真:青木優莉)