シブヤ大学

授業レポート

2018/2/16 UP

教えて!わかるを生み出す理解のしくみ

「認知科学」という言葉を聞いたことはありますか?

私は今回の授業で初めてこの言葉を耳にしました。
認知科学とは、知性を中心に、心の働きを解明しようとする科学のことです。
「心理学 」「人工知能」「言語学」「人類学」「神経科学」「哲学」の諸学問が交わって関わる学際領域で、様々な分野が交わることで、顔認識や自動翻訳、AI、ロボットなどの技術的な成果を始め、知性や知識、学習、人間の考え方などを解き明かしています。

言葉だけを聞くととても難しそうな内容で、大学の講義のような雰囲気があります。
でも、そんな学問を「理解の仕組み」から紐解いて説明をしてくださったのが、栗津俊二先生です。

普段は実践女子大学で講義をされている先生が、大人のために行ってくださった講義はまさに「理解する仕組み」を理解できる授業でした。


理解するってどういうこと?

理解とは、相手の言いたいこと(メンタルモデル)を自分のメンタルモデル(理解したこと)として作り直すこと。

(例)パソコンのコールセンターのやりとり
相談者:「コンピューターが動きません」
担当者:「どのような環境でお使いですか?」
相談者:「日の当たるところです」

このようなやりとり、場面は違えど、似たような経験をしたことはありませんか?
質問の意図が伝わらず、イライラしてしまうこと。
これは、メンタルモデル(話全体の意味)、伝えたいことに対して、聞き手がたてた、話の仮説が間違っているケース。質問の意図が理解できていれば、何故動かなくなったのか、原因を確認するためにされた質問だと理解し、回答したでしょう。

そう思うと、相手とメンタルモデルを共有するということは、理解する受け手だけでなく、伝え手も分かりやすい質問をすることが必要になってくることがわかります。


言葉を理解するときの頭の中はどうなっているの?

言葉を理解するとき、頭の中では言語に関わる様々な脳部位が動いています。
そのため脳梗塞などで倒れて障害が残る場合も、どの部位が破損してしまったかで障害の種類が変わるそうです。
また言語の意味は実際の経験と同じ神経回路で理解されており、経験の有無で理解も変わってきます。
例えば、「4回転ジャンプ」という言葉をただ知っているAさん。
TVで羽生選手の演技を見て感動したBさん。そして実際に飛ぶことができる羽生選手。
「4回転ジャンプ」という言葉から各自の脳の働く場所、理解の深さは経験の有無によって大きく変わるのです。経験があることで、より深く言葉を理解することができるので、実際にやってみることが理解を深める大切な作業になります。
それを聞くと教科書を読んでもまったく覚えられなかった言葉が、実験を通してイメージができ記憶に残っていることも納得ができました。
私も知らず知らず「認知科学」体験をしていたようです。


ややこしいことを理解できる人は何をしているの?

授業の冒頭に、最近自分の身に起きた「理解できなかったこと」を各自が付箋に書いて張り出しました。その中に「携帯電話のプラン説明がややこしい」「税理士さんの話」がありました。これはまさに話がややこしくて理解できないという状態。
では、理解するにはどうしたらよいでしょうか?

ややこしい話を理解するためには、明示されていない内容も含めた全体の理解が必要になります。精緻化推論といい、意識的に注意を向けて考えます。
例えば、
他の情報、自分の知識との比較、結合。
言葉や概念、物事の関係について考える。
不足する内容の補足。
図や表、別の文への変換
などが有効です。

授業では、ある文章を読んでなんの話を説明しているかを推測しました。
答えは「洗濯」だったのですが、洗濯と聞くまでは話がぼんやりしていてややこしいのですが、「洗濯」だと理解していると、これは洗いの説明、これはすすぎの説明だなと、先ほどとは嘘のように文章が理解できるようになりました。

推論は、思いついた答えと語句の意味が矛盾しないように意味解釈をします。スキーマと呼ばれる「およそこういうもの」という知識で理解、推論をしていくので、ややこしい話も既存のスキーマで理解できるもの、似たようなスキーマが発動すれば理解可能になります。逆に知っていることと合わない話は、既存スキーマがうまくはまらず混乱し、理解しづらくなってしまいます。そんなときはスキーマの再構築をすると、理解できるようになるのです。

難しい、馴染みのない話だと思ったら、
聞いた話に合わせて自分の経験を再解釈して、その考えを作り直す、理解のPDCAを回していきます。

話を聞く(D)

わからない・・(C)

こういうことかな?別の説明?(A)

仮説を試してみる(P)

正確にはDCAPになりますが、自分の経験内で再解釈し、確認してみると理解がしやすくなります。

説明が上手な人を見て、どうしてあんなに分かりやすく説明ができるんだろうと?と疑問に思っていましたが、難しい話ほど、相手が分かりやすいように身近な例に置き換えたり、始めに結論を言ったりとたくさんの工夫が見えました。理解する仕組みを知ることで、相手が理解しやすいためにはなにをすべきか?を学ぶことができました。


物覚えが良い人は何をしているの?

脳にしっかりと記憶させるには、「長期記憶」として保存する必要があります。
そのためには「リハーサル」と呼ばれる、繰り返しなんども行うことが大切です。
また「精緻化」という意味を考える、他の知識と関連づけるなどが有効になります。
ただ漠然と見聞きしていても効果がないので、見た目や音についても意味を考えると長期記憶になりやすいので、子供が「なんで?」をたくさん聞いて知識を吸収しようとする姿はとても理にかなっているのです。大人になっても「なんでだろう?」という好奇心がたくさんある人はどんどん長期記憶が増えていくので、結果的にたくさんの知識を身につけることができます。
わかったつもり、聞くのが恥ずかしいと思ってしまう人は、脳への栄養補給と考えてみると良いかもしれません。


曖昧な指示でできる人は何をしているの?

授業の後半では、調理室のようなキッチンの写真を基に、このキッチンで「コシャリ」という料理をつくるために必要な手順・準備・段取りを書くという、グループワークを行いました。
どのグループもコシャリがなにかわかりません。でも、検索をしながらコシャリの正体をつきとめ、紙に記入をしていきます。
そしてできあがった指示書を横のグループに回し、この紙を見ただけで小学生がコシャリをつくることができるのか?という視点で、評価をしていきました。するとどのグループも「これではつくれない」と指示書に赤を入れていきます。

これは、誰のためにつくるのか?という視点が加わったことで、「小学生でもわかるようにするならもっと細かく書かないと!」というように意識が変わったことでの行動でした。このように何か指示を出された際に、誰から見た目標解決なのか?を考えることで曖昧な指示が具体的なアクションにつながります。

やり始める前に、
「なにをするのか?」:問題の表象
「どうやるのか」:手段
「できているかどうか確かめる方法」:評価
について考えることで、問題の正しい意図を汲み取ることできます。

また仕事に応用した具体例として、「飛行機の機内でドアに鍵がかかっているか、見落とさずに確認せよ」という問いに対し、鍵に目立つタグをつけてタグがあるかで忙しい中でも時間をかけずに問題を解決した例がありました。
このように問題の本質を見抜き、簡単な問題にならないかと考えることも重要だということを学びました。
何が問題で、何が解決か?捉え方が色々ある場合ほど、始めの問題設計が重要になってくるのです。


まとめ。人間にしかできない、知性のある行動を

授業の冒頭に「知性とは?」という問いがありました。
頭の中の知識や能力だけではなく、他者や道具なども含めて、その環境で適切に適応的に行動すること、それができる仕組みを知性と定義していました。

行動するためのものなので、考える、推論するなど能動的活動によって機能し、使っていくうちに「わかる」「できる」のスキルはあがっていきます。まさにスポーツのように。

現在のAI技術では、自分の行動とそれによる物事の変化をどこまで具体的に想像、考えられるか。また無数の可能性をどこまで考慮、配慮するのかを判断できないことが課題のようです。でも、もしかしたら数年後にはこの課題すらも解決できるAIやロボットが誕生してしまうかもしれません。

私たち人間にしかできないことってなんだろう?ふと疑問に思ってしまいました。
どんどん技術が進歩して、今ある暮らしがさらに便利になり、多くの仕事がAIやロボットに変わることもあるかもしれません。

でも、私は自分が誰かの役に立ったり、必要とされる働き方をしたいと思っています。
作業が人からロボットへ変わる分、幸せを生み出す仕組みを考えることが人間の仕事になるのかもしれません。

理解の仕組みを知ることは、自分を知ることにも繋がっていました。
たくさんのチャレンジと学びを繰り返し、知性を伸ばしていく。そんな人間らしい行動をしていきたいと思います。

(レポート:伊藤扶美子、写真:菱山久美)