シブヤ大学

授業レポート

2016/3/2 UP

人に会いに行く旅をしよう。@静岡県 熱海市

皆さんは、「熱海」というと何を思い浮かべますか?
江戸時代に徳川家の庇護を受け、明治に入ると各界の大物の別荘地として栄え、昭和期には社員旅行の定番として賑わった温泉地、といったことは広く知られていると思います。
バブルが弾けて以降かつての賑わいはありませんが、ここ数年、新しいまちづくりの動きが始まっているそうです。

1泊2日で地域のキーパーソンを訪ねる「人に会いに行く旅」。
今回は熱海の歴史に新たな時代を築きつつある主人公たちにお話を伺ってきました。


旅のコーディネーターは熱海ファンの先輩!


1日目の朝9:30。
渋谷を出発したバスは21人の参加者を乗せて、東名高速を西に向かいます。同乗したのは現地コーディネーターの勝田さんと山崎さん。今回の旅を受け入れてくださるguest house MARUYA(ゲストハウスマルヤ)のスタッフです。島根県出身の勝田さんはIターンで熱海に移住して活動をし、山崎さんは横浜と熱海の二拠点生活をしています。

今回の旅では、おふたりを含め、現地コーディネーターの皆さんに大変お世話になりました。



コーディネーターの勝田さん。


車内では熱海にまつわる○×クイズを出題!熱海への期待感が高まります!!


登場!熱海の街の仕掛け人! 


 14:00
熱海についた私たちはお刺身の昼食を済ませた後、guest house MARUYA にチェックインしました。MARUYAは熱海の中心市街地「銀座通り」にあるゲストハウスで、昭和25年に建てられた建物は、喫茶店・パチンコ店として使われ、ゲストハウスができる前は干物屋さんの倉庫として使われていました。京都の町家と同じように奥に細長いウナギの寝床のような構造で、正面からバースペース・ラウンジ兼ダイニングキッチン・宿泊スペースと区切られています。


マルヤが位置する「熱海銀座商店街」


guest house MARUYAの入り口。木材を使った温もりのある外観です。


各々、部屋に荷物を置くと、ラウンジを教室に今回の旅の一限目の始まりです。イントロダクションも兼ねて、guest house MARUYA の仕掛け人にして熱海のまちづくりのキーパーソン、市来広一郎さんにお話を聞きました。

東京からUターンして地元・熱海に帰ってきた市来さん。「観光と移住の間の多様な暮らし方をつくる」をコンセプトに、まちあるき企画やマルシェイベント、カフェやゲストハウスの企画運営を手がけています。「全国に温泉地は数多くあれど、中心市街地があって人の暮らしが見える温泉地は熱海くらい。街なかに住んで働く、お店を出す。そんな人が増えたらいい」と語ります。

Uターンして始めたのが、銀座商店街に建つカフェ「CAFÉ RoCA」。名称はRenovation of Central Atamiの略だそうです。元・証券会社の建物をリノベーションして開店したのは2013年のことでした。このカフェを拠点にして、街の内外の人々が集う交流の場が生まれ、この3年間で若い住民や事業者が増えているそうです。

そして昨年2015年9月、guest house MARUYAを開業しました。「泊まると熱海がくせになる」がコンセプト。ヨガや祭りや飲み屋といった街の資源とゲストとをつなぐ役割と、一期一会のゲスト同士をつなげる役目を担っています。



参加者に活動の説明をする市来さん


熱海のまちづくりのキーパーソンをもう1人ご紹介しましょう。Guest house MARUYAの大家さん、小倉一朗さんです。江戸時代から熱海で続く丸屋喜助商店の6代目。大学でコンピューターシステムの勉強をした後、父親の急逝を機にUターンしました。

合宿形式で遊休不動産の活動を考え、不動産オーナーに事業提案をする「リノベーションスクール」という企画があります。2011年に北九州市で始まり、全国で開催されている企画ですが、熱海では2013年11月に第1回が開催されました。

その折に対象物件になったのが、現在 guest house MARUYAが入居している丸屋ビルでした。参加した市来さんと小倉さんがゲストハウスとして丸屋をリノベーションするプランを作って意気投合し、開業へと突き進んでいくことになりました。「街に必要なものを自分たちで作っていく。リノベーションスクールで大きな刺激を受けました」と小倉さんは語ります。


小倉さんからのプレゼン。小倉さんの本業はIT事業。医療を切り口に地域振興を行うNPO法人の理事長でもあります。


フィールドワークその1 歩いて楽しい街・熱海


15:00
レクチャーが終わると、ふた手に分かれて熱海の街歩きを行いました。熱海を拠点に現代アートの活動をする戸井田雄さんにご案内いただきました。

坂の街・熱海を丘から海岸まで一巡り。スナックや小料理屋など夜が楽しみになるお店が沢山あります。バブル後に居抜きになって空いている物件をリノベーションして店舗やアーティストのアトリエにする動きも進んでいるそうです。


熱海の街には昭和を感じるレトロな建物が立ち並びます。現役で営業しているお店もたくさん。宝物探しの感覚です。


フィールドワークその2 魚の感触をリアルに感じる!干物作り体験


16:00
まちあるきの流れで銀座商店街の干物屋さん「釜鶴ひもの店」へ。ここでは、5代目店主の二見一輝瑠(ふたみ・ひかる)さんと職人の皆さんのご指導でアジの開き作りを体験しました。

冷凍の魚を使うのが一般的な干物ですが、釜鶴さんでは地元産の生の魚にこだわっています。参加者には普段は料理をしないという人もたくさん。それでも職人さんの手ほどきで綺麗な開きが並びました。


アジの開き方をレクチャーする二見さん。



真剣な表情で作業中。上手に開くには丁寧さが必要です。



開かれたアジは店先で一夜干しにします。


東京の大学でマーケティングを学んだ二見さんは、大学卒業後に築地で修行。銀座のブティックでも接客を学びました。Uターンをしてからは、工場で3年働いた後、常務を務めています。

まちの活動と関わるようになったのは、同級生の市来さんが企画した「熱海温泉玉手箱(オンたま)」というイベントで街歩きのガイドを頼まれたのがきっかけ。以来、市来さんたち若い世代と上の世代とのつなぎ役としての役割を果たして来たそうです。

釜鶴は高い品質と、「旅館の中居さんがお客さんにすすめる干物」という戦略で販売を伸ばしているそうです。また、1次産業をより強くすることが干物文化を支えると考える二見さんは、魚市場で魚まつりを開催。地魚の競り値を上げて、漁師が熱海に水揚げをする環境整備をしています。

「自分の商売に繋がるように付加価値を高める活動を考えていく」
二見さんの活動からは、地域が元気でいることが自分の商売にも直結する、地元の企業経営者の感覚を知ることができました。


お風呂からの懇親会!そして夜は更けていく・・・。


17:00
熱海といえば温泉!MARUYAから徒歩10分「日航亭・大湯」さんへみんな揃ってでかけます。レトロな風情のあるお風呂で、いいお湯加減でした。


MARUYAの宿泊者がよく使うという「日航亭・大湯」さん。素朴な風情が漂います。


温泉から戻ってくると、MARUYAのラウンジを会場に懇親会がスタート!
市来さんや小倉さんだけでなく、今回のプログラムに関わってくださる熱海のキーパーソンにお越しいただき楽しい会になりました。
そして、二次会は3つのチームに分かれて夜の熱海の街へ繰り出しました!!


小倉さんの音頭で乾杯!


フィールドワークその3 リノベの現場を見に行こう!


6:00
熱海のサンビーチからは日の出が見えます。海まで早起きして行った人もいるそうです。(私は睡眠中でした・・・)
7:30
朝ごはんは美味しい干物!!
通りを挟んだ向かい側の「釜鶴ひもの店」は朝から開店していて、好きな干物を購入することができます。それをMARUYAのBBQグリルで焼いてほかほかご飯とお味噌汁と一緒に頂きました!
これがもう、美味!朝ごはんが充実しているのはいいお宿の条件ですね!


基本的にセルフです。MARUYAのスタッフさんが焼き方を教えてくれます。


10:00
朝食後、この日の授業のスタートです。
はじめに市来さんから改めてリノベーションまちづくりのお話を伺い、銀座商店街の一角「佐藤油店」さんの見学をしました。店の間口は大きくないのですが、中に入ると広い空間が広がっていて使われていないスペースがかなりあるビルでした。市来さんによると、熱海の中心部でも2F以上は空きになっている建物が多いとのこと。ここを店舗や事務所・住居スペースとして生まれ変わらせようとしているそうです。
街の遊休不動産をリノベーションして街に新たな風を吹き込むリノベーション。「空き家ツアー」もしばしば開催しているとのことです。


ビルの2F。建てられてから一度も使われたことがないとのこと。


Iターン移住者に聞いてみた! 介護タクシー経営 河瀬夫妻


11:50
MARUYAのラウンジにて、東京から熱海に移住して介護タクシー会社「株式会社伊豆おはな」を立ち上げた河瀬豊さん・愛美さんご夫婦にお話を伺いました。
熱海で中古のマンションを買ったのは2011年のこと。もともと自然が好きなご夫婦。震災があり物件価格が下がるなどの条件が重なった機会に、東京と熱海の二拠点生活を始めました。
週末移住から完全移住へ。それには地元の方々に受け入れてもらったこと、特にCAFÉ RoCAの存在が大きかったそうです。豊さんはRoCAでの出会いを通して、「熱海で仕事をしている人を多く知った」「東京での生活と熱海の生活の違いを知った」と語ります。
特に市来さんと出会って、「自分らしい生活を自分もできる」と背中を押される思いがしたそうです。
そして、東京での生活に区切りをつけ熱海に移住。13年12月に夫婦で介護タクシーの会社を立ち上げました。
坂の多い熱海で、身体の不自由なお年寄りの外出を支援する仕事。朝が早く、介護報酬の値下げを受けて収入も大きくはありません。「事務仕事も多く、大変な仕事です。それでも続けたい仕事です」と豊さんは語ります。なぜなら、利用者からの「ダイレクトな感謝」があるから。介護タクシーがあることで、病院にも行けずに家にこもりがちだったお年寄りに外出する意欲が生まれる。それがやりがいにつながっているそうです。


アロハシャツがお似合いなご夫婦。ビーチクラブも交流の場になったと語ります。


CAFÉ RoCA で見た目も健康的なマクロビランチ!


13:00
さて、待ちに待ったランチ!はMARUYAの向かいにあるCAFÉ RoCAで頂きました。
銀座商店街では2ヶ月に1度「海辺のマルシェ」を開催しています。伊豆周辺で創作活動を行っている、作家さんや農家さんを応援するためのクラフト&ファーマーズマーケットで、作家さんたちの「起業の0次ステップの場をつくる」ことが目的です。(市来さん談)
マルシェに参加した1人がマクロビのお店を作りたいという夢を持っていて、CAFÉ RoCAに合流して料理を担当することになったそうです。
チャレンジする人を応援する街。地域の面白さ、心強さは応援してくれる人の存在にあると感じました。


野菜と玄米。もりもり食べて元気になれます!


挑戦できるフィールドはアーティストにも!


14:00
午後、この旅の最後の授業は戸井田さんからアートプログラムのお話を伺いました。
戸井田さんは武蔵野美大院を卒業後、教育系ベンチャー企業を経て大学の非常勤スタッフとして働いていました。その間、様々な地域のアートプログラムと関わってきたそうです。そんななかで市来さんと出会い、熱海に移住する運びとなったそうです。
現在は「アーティストが地域で活動する為の段階的なステップを作る」事を目的に、トークイベントなどを開催しています。


アートの取り組みを語る戸井田さん


振り返り


15:00
最後は旅を振り返っての振り返りタイムです。

「地元の人と触れ合えて非常に満足した」
「街の魅力は人の魅力」
といった熱海の人に関する感想や、
「お店が地域に根付いているところが素晴らしいと思った」
「空き物件に絶望ではなく可能性を見出す点が面白い」
といった、キーパーソンの方々の活動についての感想が出ました。

私の印象に残ったのは
「またいつでも来れる所が良い。このメンバーで週末熱海行こう!って気軽に誘い合って行ける」
という感想でした。

今回の旅はまだまだ熱海の玄関口。
いろんな人には会えたけれども、駆け足のプログラムでお一方お一方に深く話を聞くという具合には行きませんでした。夜の街でも行きたいスポットはたくさんあります。
もう1度2度訪れて、ゆっくりと熱海に浸りたいと私も思います。


3人1組で振り返りをしました。


外から戻ってきた市来さんというキーパーソン。
そんな市来さんが仕掛けた場所で生まれた外との交流が熱海に新しい風を生んでいます。
そして、市来さんだけでなく、商店街の色んな方々が協力してくれる、そんなオープンな土壌があるのもこの地域の魅力。
人が人を呼び、そしてまた人を呼ぶ。プラスのサイクルは流れが生まれるとぐるぐると回っていくように感じます。
そのサイクルの中に私も加わっていきたいと、この旅を通して思いました。

歩いて、泊まって、語らって楽しい街・熱海。
また近いうちに遊びに来ようと思います!




CAFÉ RoCAの前で集合写真



(レポート・写真:大竹悠介)