シブヤ大学

授業レポート

2016/2/25 UP

〝耳〟で映画を観よう!
~若手監督4人のショートムービー~

みなさんは、目が不自由だったら、どうやって映画を観ると思いますか?

わたしは、この授業に参加するまで考えたこともありませんでした。
映画館に行って、席に座って、映画をみる。
何気ない日常のような気もしますが、実際はどうなのでしょうか。

そのひとつの答えが、今回の授業の映画音声解説です。
「音声解説」とは、目の不自由な人が映画を見るときにどんな映像が映っているのかを
説明するナレーションのことで、耳だけでも映画が楽しめる解説づくりをしています。

今回は、シブヤ大学の第4期映画音声解説ゼミのメンバーが、
音声解説の原稿やナレーション、録音をすべて担当しています。
また、4つのショートムービーということで、4人の監督にも音声解説の製作段階から
関わってもらい、アドバイス等も受けながら作品を仕上げたそうです。

ショートムービーは以下の4つでした。
・瀬戸祐介監督 「LIMIT」
・多胡由章監督 「管材屋の唄」
・村上智監督 「砂の上の男」
・朴美和監督 「いたいのいたいのとんでいけ」


私にとっては初めての音声解説、
音声が流れるラジオを受け取り、いざ上映が始まりました。

1本目は瀬戸祐介監督の「LIMIT」。
もともとがセリフのない(音楽や環境音はある)映画のこの作品、
2人の男のトイレ争奪戦が描かれています。
映像を見ていると切迫した表情や2人の間に、思わず息をのんだり笑ったりしてしまいます。
ですが、今回は音声解説付き。目を閉じて「聴いて」見ることにしました。

初めて聞く音声解説は、うまく間がとってあって聞きやすいものでした。
耳からの情報だけで、最初は想像するのが難しかったのですが、だんだんと慣れ、
自分の中に映画が作られていくような、そんな気持ちになりました。

トークセッションでは、瀬戸監督から「音声解説の内容が、自分の意図を
汲んでくれていてよかった」と言葉をいただきました。
解説を付けた石井絹香さんは、はじめは壁に当たったこともあったようですが、
「やっているうちに楽しくなっていった」と充実感を話されていました。
会場の視覚障害者の方からは、「あのシーンはどうなったの?」と質問が飛び、
お互いにどう見えていたか、共有することができました。



2本目は多胡由章監督の「管材屋の唄」
実家が管材屋で、大手商社でサラリーマンとして働く昇が、
父の死を機に実家の店を閉めることを決意するが、店で30代の父が現れる…という内容。
※管材とは、水や空気などの配管材料のこと

昇がいる現在と、父の若いころという時間軸が交互に現れる内容で、
目を閉じて音声解説で聞いていると、その時間軸の行ったり来たりをうまく表現していて、とても感動しました。

トークセッションでは、多胡監督から「映画はいかに映像を作るか。音声解説で改めて、そう感じてもらえるのか、
と思った」と、音声解説で見えてくる一面を語ってもらいました。
また、この作品は視覚障害のある西田さんがナレーション、モニターを担当しました。
点字のテキストを読んだというナレーションは、とても優しい語りで、この映画にとてもマッチしたものでした。



3本目は村上智監督の「砂の上の男」
 とある刑務所で、触れたものの命を奪う砂浜での死刑を巡る物語。
シリアスな場面も多く、目を閉じて音声解説を聞いていても、空気感が伝わってきます。

トークセッションでは、朴監督から「英語字幕で見るイメージで作ったので、音声解説は難しかったのでは?」とありました。
音声解説を担当した竹内さんからは「動きが多く難しかった。」とあり、説明するものが多い中でも
切り詰められた言葉で伝える難しさを感じました。

4本目は朴美和監督の「いたいのいたいのとんでいけ」
小学生の加奈が、不仲の両親のために行動を起こす物語。目に見える傷と見えない傷をテーマにして、
加奈の優しさが胸にくる映画でした。

トークセッションでは、原稿を担当した石井さん、平塚さんから、「表情での演技が多いこの作品に、
ガイドづくりの大変さがあった」とコメントがあり、音声解説は奥の深い作業だと実感させられました。


4つの作品を通して、音声解説は私にとって新しい世界で、映画を耳で見る楽しさに触れることができました。
また制作過程では、たくさんある情報の中から削っていく作業が大変だと分かりました。

会場の視覚障害のある参加者からも、「おもしろく観れた」「ひとつひとつが大切にされていた」
と感想があり、「心でみる」映画の面白さ、奥深さを感じました。
みなさんも、映画を「耳で観る」体験をしてみると、新しい世界が開けるかもしれませんよ!

(レポート:菅井玲奈/写真:星野真希子)