シブヤ大学

授業レポート

2015/11/4 UP

自由な心を育てる“もうひとつの日常”のつくり方

みなさん、
アート、芸術っていうのをどのようにお考えですか?
講師である北澤さんは言いました。

「人間の応答こそがアート」ですと。


北澤さんが発起人となったプロジェクトたち。
信濃川の岸辺に浮いている船上につくった島“浮島”
商店街の空きスペースで行われる物々交換の場“リビングルーム”


そして年に2回だけ団地の中に現れるホテル“サンセルフホテル”



なんだかよくわからないけど、
面白そうだと思いませんか?


これらに通じているのは
“もうひとつの日常”というテーマです。
どうして北澤さんは、もうひとつの日常をつくりだすことになったのでしょう。


北澤さんは、子供のころから
「日常ってなんだろうな」とずっと考えていたそう。


病院に行ったら患者で、家族の中なら次男で。日常という枠組みの中で自分がつくられているような。なんだかちょっと悔しいな…と感じていた北澤さんは考えました。


日常ってものにつくられてしまっているなら、もうひとつ仮につくってしまえばいいんじゃないか。仮につくっちゃえば、自分がその中で新しい自分に出会えるんじゃないか。

≪ありふれた日常から浮いてみる。
  もうひとつの日常をつくってみよう≫


それから北澤さんは様々なアートプロジェクトを生み出しました。
もうひとつの島、もうひとつのリビング、もうひとつの学校…


そこに住む地域の人たちと、もうひとつの日常をつくり続けた北澤さんはあることに気付きました。


「“もうひとつの学校”ってどんなところ?」
という答えのない、訳のわからない状況を提示すると、
「学校?もうここにあるじゃん。でも新しい学校つくるの?訳わかんない。けど面白そう!」
そういうふうに発想が変わってくることを。

そうすると
「普段の街はこうだけど、
もうひとつの街だからこんなこともやってもいいんだよね。お金つくっちゃってもいいんだよね。」


こんなふうに「もうひとつ」っていうキッカケを与えてあげることで、一人一人の想像する心とか喜びが生まれてくる共通性を見つけたそうです。


もうひとつの日常を
いろんな地域でつくることによって、
そこに住んでいる子供から大人まで色んな人たちに答えのない問いを提示してそれぞれひとりひとりの想像する心を呼び起こしていく。
これがアートプロジェクトの基本だそうです。


北澤さんがアートプロジェクトを仕事にし始めて、ある程度の到達点になったというサンセルフホテル。ってなんでしょう。


サンセルフホテルについて


茨城県の取手市にある団地。
約2000世帯4000人が住んでいます。

そこに年に2回だけ現れるホテル。


団地の空き部屋が客室に変わり、
ホテルマンは団地の住人達。


ホテルマンたちは30人。
2歳から88歳まで色んな人が関わっています。


「浴衣着てもらいたいから下駄用意しよう」
「風呂に富士山あったらいいよね」
「こんなタオルハンガーあったら良いかも!」


思い思いの発想で
空き部屋をホテルに変えていきます。


もうひとつのホテルをつくるっていうのと、
もうひとつの太陽をつくる。


このふたつの“もうひとつ”が重なり合っているプロジェクトです。



なので、昼間に特性のソーラーワゴンを使ってお客さん自身が太陽光を集めにいきます。
そして溜めた電気で暮らす一泊二日。
夜には昼の太陽のエネルギーから生まれた夜の太陽が団地の空に浮かびます。


そうやって生まれるもうひとつのホテルがサンセルフホテルなのです。


こういうのを、どうやってつくっているのか、気になりますよね?


もうひとつの日常のつくり方


1.抽象的な思考をする。(リサーチする思考する)
2.合理的な思考をする。
(地域のリソースや社会問題を組み込む)
3.マネジメント的な思考をする。
(持続的システムを考える)


サンセルフホテルが実際に始まったのは2012年の9月。
しかし北澤さんが現場に入ったのは2010年ぐらいから。
実際に2年くらい地域に通ったりしながら、地域の日常を知っていきます。


ここで、どんなもうひとつの日常をつくろうか。



1.まずは抽象的な思考が最初にあります。

そのときに目を向けたのは太陽でした。
太陽と言う自然をもうひとつ自分たちの手でつくることによって、その当たり前に気付きなおしたりとか、その当たり前をもうひとつつくることからいろんなことが始まっていきました。


もうひとつの時間・空間をつくるために太陽と、太陽の下で一時的に表れるもうひとつの生活というのを考えていきました。
そういう提案がさっきの想像する心を引き出します。
抽象的な部分が無いと、想像する心ってできていかない。
ただホテルをつくったって、想像するところまではいかないはずです。


もうひとつの太陽と、もうひとつの生活。


そういう視点が入ってくることによって、“わからなさ”が生じてくるんです。


2.そして、合理的な思考をします。


抽象的な思考をしたまま、
もうひとつの太陽、もうひとつの生活ってあるけど、
それがどうやってこの地域の中でどういう場所を使ってできるかな。
地域のリソースや、現代社会の持ってるような社会的関心を意識します。
それを組み込んでいきます。でも大事なのは抽象的な思考があることです。


「もうひとつの日常、もうひとつの太陽」
これを、合理的な言葉たちと掛け合わせていくってことをします。



3.地域での持続的システムを考えます。


例えば行事のように
継続性があったほうが地域には根付いていく。
だから出現型のホテルにしよう。


毎日あるわけじゃない、時々現れる。
そういうことによって、まさに行事のようになっていくのではないか。


もうひとつの日常を維持するための資金。


続けるためには資金は必要です。
こういう不思議なことを続けていくために、
“お金”というシステムを使ってしまいます。
だから宿泊料っていうのがあるとサンセルフホテルっていうのが維持されていく。


変化をもたらす他者が必要。
それは外からくるゲストがホテルマンたちに新たな刺激を与えてくれるだろう。


住民の主体性。
ホテルマンって役割がつくことによって
「自分がホテルをつくっているんだ!」っていうふうに地域の人たちが思ってくれる。


こういうマネジメント的思考を考えていきます。

最初の抽象的な1番の思考と、


2番のその地域と社会のリソースを引き出す、
そしてさらにはシステムにしていく。


この重要な3つを
「どうやったら一つになっていくかな」って考えて
サンセルフホテルが出てきたそうです。

「2番と3番だけではダメで、
やっぱり1番が無いといけない。
この抽象的な部分をいかに社会が持ってる現実的思考だったり、それを続けていくためのシステムだったりとかで守ってあげるか。想像する心を守ってあげれる社会のひとつの現象をつくっていかないといけない。」


そう、北澤さんはおっしゃっていました。


もうひとつのデパートをつくってみよう!


もうひとつの○○をつくるときのワクワクを皆で感じられたら面白いかなということで、こんなデパートあったらいいな!というのを考えることに!



北澤さんが実際にデパートを歩いて回って紡いだキーワードと、参加者の方々が“やりたいこと”をそれぞれ箱に入れまして…
一枚ずつランダムに引いて組み合わせ、「これってこんな感じ?」と羅列していきました。
そして最後は人気投票!1位~3位を発表します!


1位「ウニを自分で採って食べたい」×「コンシェルジュ」
→相談しにいってもウニのことしかわからないコンシェルジュ


2位「歴史上の人物と会ってみたい」×「非常口」
→タイムスリップ非常口!


3位「髪を振り乱しながらドラムを叩きたい」×「紳士服売り場」
→髪を振り乱す紳士服売り場


なんだかとっても摩訶不思議なデパートになりそうです。



抽象的な思考と、
すでにある社会システムが合体するところに面白さがある!


「わからない」があるから発想する自由が生まれるということ、人の自主性や創造性をつくっていくには、その場づくりが必要なのだと思いました。



また、
「想像することを守ってあげられる社会」
をつくることも、非常に重要だと思いました。


 


(レポート:武富紗弥子)