シブヤ大学

授業レポート

2015/11/2 UP

重要な部分は見えないところにありました。
歴史ドラマと現代劇に通じること。
(歴史ドラマの脚本作りを学ぶ)



 歴史ドラマ作品の脚本がどうやって創られているか、今回の授業の内容を聞くまで考えたこともありませんでした。
 今回は『武士の家計簿』と『武士の献立』という、チャンバラの無い時代劇ということでも話題になった作品を手掛けられた柏田先生に、前半は脚本・創作の方法や裏話、後半は参加者の皆さんに、お題を基に脚本を書いてもらう授業が開かれました。

~綿密な調査、そして想像~



 脚本づくりには、テーマとキャラクターが重要で、『武士の家計簿』も当初は父子鷹の話にする案もあったそうですが、最終的には家族の物語に落ち着いたのだとか。キャラクターは、原作からはうかがい知れないため、“こういう仕事をしていた人はこんな性格だったんじゃないか”と、残された史実と当時の文化や慣習などから想像で作られていきます。
 実は“そろばん侍”という言葉は、文献にはなく柏田先生が今作のために作った造語。という感じで、作品に関するトリビアもいくつも紹介され大いに盛り上がりました。

 『武士の献立』が生まれたのは、文献を調査しているなか、当時の加賀料理の詳細な歴史書(レシピ)が残っていたことがきっかけだそうです。そもそも、郷土料理などについては昔から伝わっていますが、お殿様や武士が“どういった食事をしていたのか”については、あまり知られていませんでした。それらを紐解いていくと、お殿様の料理に求められていたのは“豪華さ”ではなく、体に良い“健康”な料理に重きをおかれていたようです。ちなみに、時代劇に出てくる「毒見係」は実在して、10人くらいいたこともあったとか。
 そして、『武士の家計簿』のテーマが“親子”だったのに対して、今回は“内助の功”というテーマと加賀藩で起こった“お家騒動”も絡めていきました。また、今作でも柏田先生が作品のカギとなる “包丁侍” という言葉を作ります。当時は意外にも離婚率が3~4割程度あったこと、大奥にいたことが結婚の際に有利になることなど、史実を詳しく知る人だからこそ教えてもらえるトリビアを、たくさん聞ける機会になりました。


■前半のまとめ


 柏田先生が“そろばん侍”という言葉を作ったことで、歴史のひとつとして認識されていることを思うと、歴史ドラマ作品は、「見えない部分をどうやって創るかで、それを伝える人によって変わるし、変えられる」のだなと思いました。


~発想は自由、十人十色の物語~


 後半は参加者のみなさんが脚本を書くワークショップを実施。
 脚本づくりの基本として、①柱(場面や自国の指定)、②ト書(行動、目に見える部分)、③セリフ の3つがあります。

登場人物は男女2人、
南悠子:OL、27歳。寿退社がきまり、婚約者と待ち合わせて式場に行くところ。 浩一とは3年前まで恋人同士だった。
宮田浩一:サラリーマン、29歳。デザイン会社の営業。悠子と付き合っていた頃は、デザイナー志望だったが、今は夢を捨てた。 クライアントから契約を打ち切られ帰社するところ。

悠子が夕方の表参道の交差点で信号待ちをしているところに、浩一が隣に立ち、 互いの顔を見てアッとなる。

という設定から始まり、いくつかのセリフのやり取りが合って、

信号が青になり二人歩き出した後に、セリフ。

 2人のセリフとタイトルを自由に決めてもらいました。
 みなさんならどういった脚本を考えますか?

 発表された脚本には、
・ 「読めない女」
 迷子になったという悠子を案内した浩一、現地で婚約者と会うとは知らず、顔を合わせた浩一が、お前は昔から地図も空気も読めないよなというお話。
・ 「人生の交差点」
 デザイナーになったと嘘をつく浩一を、昔から嘘をつく時に眼鏡を触るよね?と悠子に見透かされてしまった。。。

 など、豊かな想像力でそれぞれに個性のあるミニ脚本が出来上がりました。

 柏田先生からは眼鏡や指輪、ネクタイなどの小道具や髪型などを使うことによって、セリフだけでは表現できない深さが出せること、季節感を出すと情緒を感じられるなど、“なるほど!”とうなる発見が盛りだくさん。映画はスクリーンに集中して観てもらえるため、セリフが少ない場面でも表情や他のしぐさなどでも成立しますが、TVドラマは何かをしながら見ることもあるためどうしてもセリフを増やさざるを得ない事情などもお話して頂きました。明日から、何気なく見ていたTVドラマや映画の見方が変わって来そうです。

 柏田先生が次に手がけた作品『大江戸事件帖 美味でそうろう』が12月にBS朝日で放送されます。
 江戸の食文化と剣術、更にミステリーと一体どんな脚本で描かれているのか、楽しみです!


 今回の授業で時代劇でも自由度が大きいこと、想像力の重要さ、 時代劇がどうして人の心を惹きつけるのかが少し分かった気がします。


(レポート:高橋 正 / 写真:小野寺理香)