シブヤ大学

授業レポート

2015/10/21 UP

”母の味”を通して学んだ、”本当の”イスラム教。
(オスマンさんとたのしいラマダン
〜食べる/食べないことから知る、アラブの日常〜)

【あなたに平和がありますように】


「まずは挨拶からいきましょう!リピートしてください!アッサラーム アライクム!」
 アッサラーム アライクム!
「この挨拶は、いつでも使える挨拶です。意味は、”あなたに平和がありますように”。それに対しての返事は、ワ アライクム アッサラーム!」
 ワ アライクム アッサラーム!
「この意味は、”あなたにも平和がありますように”です」

素敵な挨拶から始まった「オスマンさんと楽しいラマダン」。
”イスラム教”、”ラマダン”、と聞いて、あなたはどんなイメージを持ちますか? 実はよく知らない、という人がほとんどなのではないかと思います。私もそうでした。
今回の授業、それは、驚きと感動の連続でした。 宗教や人種を越えて、私たちはみんな、幸せになるために生きている。 そう感じる、素晴らしい授業でした。

【みなさんは、なぜ今日来たのですか?】




さて、今回の授業は二部構成。
まずはサウジアラビアからの留学生・オスマンさんから、時折冗談をはさみながら祖国について、そしてイスラム教とラマダンについて、教えていただきました。

―まずは、近くに座っている方と、なぜ今日この授業に足を運んだのか、共有してみましょう! なぜ、来たのですか?

「海外旅行が好きなのですが、サウジアラビアは旅行で行きづらいイメージ。なかなか知る機会がないので、参加しました」
「食に興味があるが、まわりにイスラム教の人がいなくて、何も知らないので」
「ニュースを見ていて、良くも悪くもイスラムのイメージがある。でも、本当のところがよくわからないので、知りたくて」

【サウジアラビアって、こんなところ!】


ということで、サウジアラビアについて。

「サウジアラビアって、とっても広いんです。世界で13位の広さで、日本の約5倍です。私の住んでいたところと、ナセルの住んでいたところも結構違って…。たとえば、私の住んでいたところはスタバがあるけど、ナセルのところはスタバ無いとかね(笑)」

オスマンさん、このあともちょいちょいスタバのあるなしを挟んできます。日本でもこの例えはよく使われますよね(笑)。

「サウジアラビアって、みなさん暑いイメージがあると思いますが、ここ数年の間に、実は雪が降るようになったところもあります。でも、基本的には暑いです。日本の夏は、『涼しいなあ』と感じる時もあります。極端に聞こえるかもしれないですが、どれだけ暑いかと言うと、以前、車のシートにカセットテープを置いて三時間後に戻ったら、カセットが溶けていたことがあるくらいです。これ、どこかの美術館に飾ろうかなと思ってるんですけどね(笑)」

「サウジアラビア出身と言うと、『ラクダで通学してたの?』とか言われるんですけど、なんでやねん、って(笑)!!そんなわけないです。私の住んでいたところにはスタバもありますし、きれいな街ですよ。砂漠ばかりで厳しい環境とよく言われますけど、緑も多く、アシールというところは一年中雨が降ったりします。北と南、東と西、全然違います。サウジアラビアと言っても一概には言えません。スタバがあるところや、スタバがないところもあります。ナセルのようなイケメンもいるし、私のような残念な人もいます…(笑)」

オスマンさん、イケメンですよ(笑)。参加者のみなさんも、オスマンさんの冗談に笑顔がこぼれます。

「イスラム教徒の一日の流れはこんな感じです。たとえば今日ですと、お祈りの時間は

こんな感じです。朝お祈りして、7時に出勤して、16時に帰ってくる感じです。日本も8時間勤務ですよね。朝は早いけど、それと一緒です。」

【ラマダンって?】


「ラマダンは、約一ヶ月間、日の出から日没まで飲食を断つことです。(ちなみに調べてみると、今年は6月18日から7月16日だったそうです)そして、お祭りでもあります。国によっては夜に派手に祝ったり、、断食が終わった後の食事が豪華だったり。ラマダンって、”もっといいことをしよう”っていう日なので、寄付の金額が増えたりもします。」

ラマダンを行う理由には大きく2つあるのだそう。
ひとつは、“貧しい人の気持ちを理解する”ため。もうひとつは、”カラダにいいことをする”ため。 断食によって、自分がいかに恵まれているかを実感し、そして、カラダをキレイにしていく。
私たちはどうしても、宗教的な“修行”や“儀式”のイメージが強いですが、実は人の暮らしや営みそのものを振り返るための大切な時間だったんですね。(ちなみに、カラダにいいのは、科学的に証明されているんだとか!)

【イスラム教は柔軟性を大事にします。】


ここからは、約一時間、オスマンさんとナスルさんに質問時間が設けられました。
「なんでも聞いてください!」の声に、幅広い質問大会が繰り広げられました。



Q. 日本に来て驚いたことは何ですか?

A. イスラム教の人たちは、コミュニティをとても大事にします。 日本に来て驚いたのは、近所に誰が住んでいるかわからない、ということ。 私もいまのところに住んで三年経ちますが、未だに隣にどんな人が住んでいるかわかりません。 イスラム教では、左右、ナナメ、上下と、隣人を気にするのは当たり前です。

Q. イスラム教は豚を食べてはダメとされているが、なぜですか?
A. イスラム教は、カラダに悪い事をしてはダメだ、という考えがあるからだと思います。豚がダメなのは…豚は何でも食べますし、しっかり火を通さないと食べられない、ということもあるからだと思うのですが、豚はカラダに害を与える、と考えられているんです。

Q. それは、ムハンマドが決めたのですか?
A. いえ、ムハンマド預言者は、神の話を伝える人間であるので、アッラ(=神)が決めたことです。

Q. ほんとにアルコールはダメなんですか?
A. ダメとされていますが、守る人もいれば、守らない人もいます。一切口にしない人もいますし、料理に入れるとおいしいからと、いれる人もいます。飲んでしまったからといって罰則があるとか、そういうわけではないです。

Q. サウジアラビアでは、お酒を売っているお店はありますか?
A. ないです。私は見たことがありません。

Q. ラマダンで「寄付の金額が増える」とありましたが、どういうことですか?
A. ラマダンでは、良いことをもっとしようということで、寄付もその一つの良いことだとされます。 だから、普段の一年中より、皆さんが積極的に寄付をするようになり、通常より寄付の金額が増える訳です。
 また、イスラム教の教えでは、ザカートというものがあれます。日本語に訳すと「喜捨」という言葉があります。このザカートとは、たとえば自分の口座に100万あるとして、一年間、一円も使ってないとすると、その100万の2.5%、二万五千円を寄付する、という感じです。法人はまた違いますが、個人では2.5%と考えます。誰かに強制されているものではないですが、みんなそうやっています。
 寄付する相手は、例えば親戚に貧しい人がいればその人に寄付しますし、いなければ、社会貢献のために様々な活動で利用されます。例として、学校をつくったり、モスクを建てたり、アフリカに井戸を作ったり、色々です。寄付は当たり前、という考えです。


Q. 日本だと、礼拝はどういうところでやるんですか?
A. 安全な場所で、人の邪魔にならないところであれば大丈夫です。サウジアラビアだとモスクがたくさんあるのでモスクでやります。日本だと、しょうがないので、私の場合は研究室ですね。きれいな場所だったらどこでもいいです。あと、メッカの方向を向いていれば。そういえば、新宿の高島屋に礼拝室が出来ましたね。
 メッカの場所は、北の西なので、私はiPhone使って場所をみます(笑)。それか、コンパスを使って。でも、たとえ間違ってても仕方ないですし、飛行機の上でする人もいますし、寝たきりの人は寝たままでいいですし、お祈りはココロでするものなので、その人の体力、状況に応じて対応ができる柔軟性をもったものです。そのために違っても問題ありません。


Q. ラマダンが14歳以上ということは、14歳以下が子供、という意味なのでしょうか?
A. 大人になるのは18歳から、という考えなのですが、14歳から社会の一員になる準備をする、というイメージです。あくまでもイメージなので、13歳からやる子もいますし、15歳、16歳からやる人もいます。大人になりたいから一緒にやる、という感じです。体力的に無理な方、体に支障が出る方は、やってなくても問題ないですが、18歳になったときにみんなが断食している中で人前で食べるのは良くないですね。それは、他の人に配慮する、という意味で。

Q. サウジアラビアは、観光客を受け入れていますか?
A. 毎年200万人以上の巡礼観光を受け入れています。日本からのツアーも、人数が集まればあります。観光のときに日本人が気をつける事は、服装ですかね。モスクに入る時は、短いスカートなんかはダメです。これは、イスラム教の教えというよりは、それぞれの国の【文化】に対する尊重です。サウジアラビアでは女性はスカーフを被るのが基本的な考え方です。それに対して、エジプトではスカーフを被らないとならないという文化と被らなくてもよいという文化もあります。

Q. イスラムで生まれた人が、他の宗教を選択することはありますか?
A. あります。ただ、その人のご両親の思想にもよります。無宗教になる人もいますし。イスラム教は柔軟性を大事にし、人を自由にするために存在する宗教なので、その基礎概念と反することはしません。 それを反対するのは、イスラム教ではなくて、【文化】であって、イスラム教自体は、強制していません。

 慶應義塾大学に奥田先生という方がいます。奥田先生は、イスラムのことを三つの視点から教えています。
 一つ目は、マスメディアによるイスラム。ダブルスタンダードをはじめとするマスメディアの都合のいいようなことを報道するというパターンです。これによって、イスラム教について何も知らない一般的な人にとって、誤解が生まれる場合があります。
 二つ目は、イスラム教の人を見て決まる、イスラム教。今回の私たちを見て決めるイメージですね。
 そして三つ目は、イスラム教を勉強して知るイスラム教。これが一番本当のイスラムを知る事です。 イスラム教は柔軟性を大事にする宗教で強制はしません。
 是非、今日をきっかけにイスラム教についてさらに、調べていただけたらと思います。


Q. 恋愛はどんな感じですか?
A. ナセル、恋愛してる?(笑)。普通にありますよ。ただ、純血を大事にするので、部族が違うと「結婚」にはならないかも知れないですね。サウジアラビアでは、部族を気にする人もいます。部族は50以上あると思います。

Q. 日本では仕事を優先する傾向があるが、サウジアラビアでは?
A. 一番優先するのは、自分たちが信じているイスラム宗教です。その次が家族、そして次が仕事という順番ですが、イスラム教の基本的な概念として、世の中をよりよいところにしようということで、仕事を積極的にするように、怠けることを消極的な認識になります。

Q. サウジアラビアの平均寿命は?
A. 暑いことと、車社会ということもあって、正確な統計データはないのですが、おそらく65歳くらいですかね…。女性の方が長生きです。 ちなみに、医療費や教育費(大学まで!)はタダです。

Q. 貧富の差はありますか?
A. たとえばホームレスを一つの基準にしたとして、ホームレスはほぼいないと思います。私は個人的にみたことがありません。貧しい人がいたとしても、住む場所がある、とか。それはイスラムの人が隣人を気にするのが当たり前だからだと思います。ホームレスの人がいても、「自分には関係ない」とは思いません。なので貧富の差があったとしても、激しくはないです。

Q. サウジアラビアの社会問題は?
A. 産業が遅れている点です。やはり、石油に頼っている。 なので、いま私たちのような国によって派遣されている国費留学生が世界中にたくさんいます。今現在、約20万人くらい。日本には400人くらい来ていると思います。アメリカは10万人とか。彼らがいつかサウジアラビアに帰って、産業を起こすという目的です。日本でいう明治維新のような感じです。あと、サウジアラビアは若い人が多いのですが、雇用問題が生じはめており、失業率の問題もあります。

Q. なぜ、留学先として日本を選んだの?
A. その質問は500回くらい聞かれていますね(笑)。ナセルは?
ナセルさん「私は、アニメが子供の頃から大好きで、興味があったからです。それと、食べ物や着物などの文化にも惹かれて。ちなみによく見ていたアニメは、ハイジと、キャプテン翼です。(サッカーが国民的スポーツなので)」
 私は、英語圏じゃないところへ行きたいなと。アメリカへ行っている友人よりも何か強みを持ちたいと思ったのと、日本の製品にとても興味があったからです。


Q. サウジアラビアの女性は働いていますか?
A. 働いています。女性の方が優秀です。キャリアもトップの人がたくさんいますし、昔からそうですね。そういった点は、他の国よりも進んでいると思います。

Q. 女性の車の運転はNG、一人旅もNGと聞いた事がありますが?
A. はい、ダメです。それは宗教とは関係ないです。いつも家族が一緒なので心配なんです。女性は基本的にはお嬢様扱いです。例えば、仕事へ行くとき、運転させられないのでドライバー付きとか。女性が運転してはダメという法律ではなくて、社会の空気ですかね。でも、運転すべきだ、という声もあるので、徐々に運転しても良くなるかも知れないですね。

Q. お休みの日は何をしていますか?
A. 数日あれば、みんなでキャンプへ行きます。車に材料とかを詰め込んで…ちなみに車はトヨタです(笑)。夜の星空がとっても綺麗なんですよ。あとは、ゲームしたり、ジョギングしたり、サッカーしたり。基本的にみんなおしゃべりが大好きなので、友人と過ごすことが多いです。あ、日が出ているときは暑いので、寝ます(笑)

Q. 学校にいじめはありますか?
A. あります。基本的な社会現象は一緒です。

Q. 東京でおいしいアラブ料理は?
A. 東北沢、神田、横浜。。。多分、このワードとアラビア料理で検索したら、出てくると思います(笑)


第二部【ナセルさんと料理をつくろう!】


というわけで、班に分かれて料理実習開始! 料理を作るって、こんなにコミュニケーションが生まれるんだなあというのも、発見でした。







スパイスって聞くと、なんとなく「辛い」ものをイメージしてしまいますが、 カプサは肉付きチキンの出汁が効いて味わい深く、辛くないし食べやすかったです。 サラダはパセリとレモンが効いてとってもサッパリ!サラダとカプサを一緒に食べるとさらに美味しい! デザートはまるでティラミスに似た味で、サックリともしっとりとも違う不思議な食感でとってもおいしかったです!
オスマンさんが入れてくれた珈琲も、日本の珈琲とは異なり黄色と茶色を混ぜたような色をしていて、豆の風味が強く、甘いデザートにぴったりでした!!おいしかったなぁ〜。

【お母さんの味を食べて欲しかった】


では、最後に一言お願いします!

ナセルさん「今日は、私のお母さんの味をみなさんに食べて欲しかったので参加しました。みなさんに”おいしい”と言ってもらえて、本当に嬉しいです。ありがとうございました!」

オスマンさん「今、世の中で騒がれている中で、こういった文化の面からみなさんにお伝えすることが出来て、とってもよかったです。メディアで言われていることと、今日私たちと接してわかったことと、色々感じてもらえたのではないかと思います。僕ももっと勉強して、よりよい世の中にしていきたいと思います。今日は本当にありがとうございました!」


温かい拍手に包まれて、今回の授業が終了しました。
私はお二人の素敵な言葉を聞きながら、ちょっと泣きそうになりました。 私は何も知らなかったし、ちょっと誤解していたところもありました。 国や宗教が違っても、同じ人間だもの、みんな感じる事は、同じですよね。 オスマンさんもナセルさんも、愛情深いなあ。優しいなあ。 私だったら…、今日のお二人のように、自信を持って、自分の国や文化のことを、他の国の人に伝えられるだろうか?と、考えてしまいました。

そんなことを思いながら教室を出ると、向かいの中学校から練習試合を終えて出てきた中学生たちが、門の前で荷物を置いて整列していました。何をやってるんだろう?と見ていると、大きな声で、 「ありがとうございました!」「ありがとうございましたーーっっ!」と、ぺこり。
私たち大人が、しっかりしなきゃなぁ。

(レポート:吉川真以、写真:奥山真広、高橋祥子)