シブヤ大学

授業レポート

2014/12/5 UP

人に会いに行く旅をしよう。
〜同じ土地で親から子へ続く仕事・塩尻編〜

1日目:2014年9月27日(土)


07:30 渋谷発 


眠い眼をこすりながら渋谷に集合。行きのバスの中では、自己紹介や塩尻クイズをして楽しみました。塩尻クイズでは、塩尻市役所のナビゲーター、山田さん&海津さんペアから今回訪問先でもある丸嘉小坂漆器店のワイングラスプレゼントもあり大いにもりあがりました。


事故渋滞にまきこまれるというハプニングがあり、塩嶺高原行きを夜に変更して、まずは塩尻名物の「山賊焼」のお店へ。普段はランチ営業をしていない名店が特別なおもてなしをしてくださり、利益度外視で、山賊焼きから、地元野菜のおつけもの、馬刺までふるまっていただきました。塩ソムリエの加藤さんも駆けつけてくださり、毎年1万人を動員する大門商店街のハロウィンのお話などもしてくださいました。昼食後は大門商店街を歩いて、図書館や市役所機能を併設する複合施設「えんぱーく」、山田さんを中心とするメンバーが運営するコミュニティスペース「なのだ」・「アトリエなのだ」を見学しながら、目的地の「東座」へ。


14:00 【名画東座】合木さん親子のお話〜「FROM EAST 上映会」特別編


塩尻市に唯一残る映画館・「東座」では、映画館主の合木こずえさんとお母様の節さんがお出迎え。こずえさんによる、上映作品「めぐりあわせのお弁当」の前説を聞いた後、ホールでお話をお伺いしました。 


こずえさんは女優を目指して上京、海外の映画作品を日本のテレビ局に売る仕事を経て、塩尻にUターンした経歴の持ち主。


「3年前に先代の父がなくなったことを機に地元に戻り、映画館主を引き継いで母とともに運営をしています。自分が惚れ込んだ映画のみを上映するというこだわりを持っており、売れるもの、ではなく、良いものをえらんでいきたいと思っています。ミニシアター系の丁寧に作られた作品が多いのもそのためです。都内からのお客さんも多く、“ここでしかやってなかったので見に来ました”という声をきけるのは嬉しいですね。映画の世界にお客さんを連れて行く工夫として、自身が映画の世界観を表現するような衣装を着て前説をしたり、映画に合わせてお弁当講座をやったりと様々なイベントもやっています。」


また、お母さんの節さんには、映画館をつくった想いや当時の塩尻の街の様子などをお伺いしました。


「よそにないものをやっていこう、人と違うことをやっていこうという想いで主人とはじめました。チンドン屋をやったり、宣伝カーをつくったりと、自分たちで工夫をしながらなんでもやりました。塩尻の冬の寒さは厳しくて、ポスターをはる仕事ではあまりの寒さにのりが凍ってしまったりしたこともありましたが、必ず終わった映画のポスターは貼らない、など自分でルールを決めてやっていました。昔は人が入りきれないほどにぎわっていたこともあったけれど、塩尻駅の移転や時代の変遷で、人の流れやお客さんのニーズは変化しているように感じます。しかし、どんな時代であっても頭を下げてお客さんにありがとうございますというのは変わらないし、これからもよそにないものを、娘とやっていきたいと思っています。」


お二人のお話からは、映画への深い愛情と、映画をみて終わりではなく映画の世界観にどっぷり浸かり感想をシェアできる”ここでしかできない映画体験”を感じることができました。


 


15:30 移動(大門→桔梗ヶ原)


16:00 【井筒ワイン】塚原さんより畑とワイナリー見学&試飲


ぶどうの良い香りがするワイン工場へ到着すると、塚原さん親子が出迎えてくださいました。井筒ワインは1933年の創業以来、ぶどうの栽培から醸造まで一貫して行い、150軒もの契約農家と連携して塩尻を日本有数のワイン産地として牽引する、土地に根差したワイナリー。


入社して54年になります、というご挨拶からはじまった代表の塚原嘉章さんのお話。


「ワインという飲み物自体が日本で珍しかった頃から、ワインづくりをしています。塩尻という場所は、昼夜の気温差が大きく、標高が高いということでぶどうの栽培に適した土地なのです。創業当時より、ナイヤガラ、コンコードといった地元特産のブドウを用いた、純国産のワインをつくってきました。近年はいろいろな賞をいただいたこともあり、20代〜60代まで、様々な世代の方がワイン作りを学びにきているんですよ。」


会社の歴史をお伺いした後は、ご子息であり取締役総務部長を任されている塚原嘉之さんに、ぶどう畑や工場の案内をしてもらいました。


「栽培の仕立て方、棚仕立てか垣根仕立てかで収穫時期が違います。基本的に、木は小さくつくって、実を多く付けるようにしています。ふさの上の方が甘いので、そのあたりのものをつまんで食べてみてください。」などなど、ポイントポイントで立ち止まりながらお話をお伺いしました。「よいワイン作りに近道みたいなものはないんだと思います。馬鹿正直にいいものをつくろうと手をかけ、努力を重ね続けることが、自分の仕事であり父の仕事に対する姿勢から学んだことです。」


という言葉がとても印象的でした。


最後はお待ちかねの試飲タイム。ワイン好きの参加者も多く、自分好みのワインについて糖度と酸味のバランスなどの質問を投げかける場面も見られました。


 


17:30 移動(桔梗ヶ原→塩嶺高原)


18:00  【信州塩嶺高原開発/信州塩嶺高原カントリー】山田さん親子のお話


BBQ前の時間に山田さん親子のお話を聞けることに。まずは代表取締役社長の山田正治さんのお話。


「22歳のときに不動産賃貸の会社をはじめたのですが、限界集落に働く場所をつくるために、塩嶺高原の開発の仕事をすることにしました。元々は農家の方が45名就職してくださったのを覚えています。私は長男で名古屋出身ということもあり、ゴルフ場が一段落したら地元へ帰ろうと思っていたのですが、お金のないときにお世話になった銀行さんから”白馬のスキー場をなんとかしてくれないか”と声をかけられたんです。そもそも私はスキーをやったことがなかったのですが、地域の中心となる場所は魅力のあるものでなければならないという想いから、スキー場の再建も手がけました。実はゴルフもやったことがなかったけれど、経験が無い方がいいのではないか、自分がわからないというのは強みで、専門の人に力をかりることができるのではないかと思います。今自分がここに居るのは、出会った人が非常に良かったのと、みんなが同じ方向をむいて頑張ろうと思ったことが大きいです。今、塩尻商工会議所の会頭もやっているけれども、昔から変わらないのは、地域とともにやっていくということですね。」


次に、ご子息の山田祥雄さんからも一言いただきました。


「今までゴルフをしたことの無い方々にも、まずは知ってもらって、いろいろな使い方をしてもらいたいと思っています。デイサービスの方々に来てもらって芝生の上を歩いてもらったり、クラッシックのコンサートを開催したりと、今までに無いものをやっていきたいと思っています。」


祥雄さんはお父さまの会社に入って5年目。新たな取り組みにチャレンジしていきたいという意気込みを語っていただきました。


 


18:40 夕食&地元の皆さんと懇親会 


本日会った方々も駆けつけてくださり、「食肉卸クボタ」久保田さんのお肉でBBQがスタート。「トムズレストラン」友森さんと「Brasserie のでVin」古田さんによる塩尻の食材を用いたオードブルから、「レーヌ」仲田さんの洋菓子・「雲居鶴」大田さんの和菓子まで、ここでしか食べられないお料理に舌鼓をうちました。また、塩尻商工会議所青年部の皆さんより、城戸ワイン、山雅ビールなど、ワインを中心とした特産のドリンクのおもてなしもあり、夜遅くまで盛り上がりました。





2日目:2014年9月28日(日)

06:20 目覚めに、自然の中でストレッチ講座


2日目のスタートは、伊豆牧子さんによる自然の中で行うストレッチ講座。昨日の夜から合流してくれた伊豆さんは、ナビゲーターの山田さんと同級生。茨城の大学に進学し、体育の先生になろうと思っていたけれど、コンテンポラリーダンスに出会い、その道に進むことを決意したそうです。ゴルフ場の真ん中に場所をとり、ストレッチを開始しました。呼吸を骨のひとつひとつにいれるように深く息をすったり、目を閉じて鳥のさえずりを聞いたりと、清々しい時間を過ごすことができました。


朝食はベーカリー麦の穂のパンと、友森シェフお手製のナイアガララッシー、スクランブルエッグ、鮎の塩焼きを食べ、おなかいっぱいに。


 


08:20 移動(塩嶺高原→広丘)


09:00 【サイベックコーポレーション】平林さんのお話 〜 地下「夢工場」見学


自動車部品や医療部品など、超精密加工を行うサイベックコーポレーション。仕事と家庭、どちらも大切にしたいという想いから、毎朝3時に出社し、18時には家に帰ってお子さんとご飯を食べるという、代表取締役社長の平林巧造さんにお話をお伺いしました。


「うちの会社は父が29歳のときに脱サラしてつくった会社で、自分は2代目になります。最初から父の会社に入りたかった訳ではないのですが、アメリカ留学資金のために4ヶ月父の工場で働いた時とてもやりがいを感じ、帰国後、父にお願いして入社しました。偶然にも、私も29歳の時に継いで代表になりました。
”No Fun, No Challenge, No Success.” 挑戦無くして成功は無い、はよく言われることですが、さらに楽しみ無くしては成功は無いと思っています。なので、将棋盤や地域のバレーボール大会の優勝トロフィーなど、仕事とは別のものづくりも推奨しています。」


巧造さんのお話を伺ったあとは、”夢工場”と呼ばれる、地下工場を案内してもらいました。白を基調とした設計に、塩尻の魅力を伝えるパネルや社員の方の制作物の展示まであり、工場という概念をくつがえす清潔感のある空間でした。


参加者から、巧造さんの夢はなんですか?という質問に対し、


「アメリカンドリーム、ならぬ、ジャパンドリームな会社を目指しています。アメリカは個人が賞賛されるけれど、輪で賞賛されるのが理想です。なので、社員が幸せであってほしいし、ひいては、うちの社員と結婚すると幸せになると言ってもらえたり、社員の子供たちが会社に入ってくれたら嬉しいですね。自分が父の働く姿をみて育ったということもあり、お父さん・お母さんの働く姿をみる機会を作りたいと思い、企業参観というものを行っています。また、トップダウンはつまらないので、経営戦略セミナーを定期的に開き、夢年表をつくってこれからの事業についてのビジョンや方向性を共有するようにしています。」


というやりとりも。一貫して会社や家族への愛情を感じる訪問でした。


 


10:30 移動(広丘→楢川)


11:20 昼食(NPO法人信州そばアカデミーによる実演!手打ちそば)


昼食は手打ちそば。4段の腕前をもつNPO法人信州そばアカデミーの木下さんによるデモンストレーションを見学し、打ち立てのそばをいただきました。「そばが採れたときの水分量、そばを打つときの温度と湿度によっても違いがあり、水の加減が一番難しいです。ここで10cc水を入れればいいというようなレシピがある訳ではないので。きちんとそば打ちができるようになるまでに、7〜8年ぐらいかかると思います。」という説明も。木下さんは、酒屋を営む傍ら、商工会議所の副会頭もつとめていらしゃるとのことで、そばに関してはもちろん、普段のお仕事についても参加者から質問を受けていました。


 


13:00 【丸嘉小坂漆器店】【伊藤寛司商店】/【酒井産業】見学 


午後は、酒井産業の会社見学コース、漆器店舗&工房見学コースの二手に分かれて見学に。


丸嘉小坂漆器店では、二代目の小坂康人さんと三代目の小坂玲央さんが出迎えてくれました。玲央さんのお話を紹介します。


「漆塗りにはいくつもの行程があり、初代は漆の下塗りの職人でした。父は2代目で後を継いで座卓の鏡面仕上げの職人としてやっていたのですが、時代のながれとともに仕事がぱったりなくなったことがありました。このままではいけないと思い、ガラスに漆を塗る新商品を開発し、ワイナリーフェスタの参加者に漆塗りを施したワイングラスをプレゼントしたり、デザイナーとコラボレーションして百色というテーブルウェアのブランドつくったりと新しい取り組みをしています」


1階の店舗でお二人のお話をお伺いした後は、2階では漆のベッドやベンチ、漆で仕上げたフローリングやキッチンも見学しました。


次に、伊藤寛司商店へ。伊藤さんのお話をお伺いしながら、作業をするための土蔵、借景が素敵な中庭も見せていただきました。


「漆を1%でも使っていれば漆塗りと言われます。手を抜こうと思えばいくらでもできるのですが、使えば使うほど美しい本物の漆ぬりを続けています。当店オリジナルの塗りは、艶を抑えた黒っぽい朱色で、使い込んでいただく内に艶を増し、明るい色になってきます。徐々に明るさを増していく茜空にちなんで、古代あかね塗と命名しました。メンテナンスもできますので、ひとつのものを大切に長く使ってもらいたいと思っています。」


漆塗りの作業場は、ほこりが入ってしまうといけないので、普段はなかなか作業場をみることができないということで、貴重な体験となりました。


 


木のおもちゃ販売でシェアナンバーワンの酒井産業へ行ったチームは、会社内部やサンプルの商品を見せてもらい、木のぬくもりを感じる会議室でお話をお伺いしました。


「はじめは漆関連の事業を行っていましたが、徐々に事業内容を転換してゆきました。木の伐採、製材からグループ企業で行い、ほとんどがオリジナルのおもちゃを制作しています。ここで行っているのは配送業務が主です。かつては配送システムをつくったこともありましたが、商品の形や重さは多種多様なので、今はすべて人の手で送り出しています。今後は木の大切さを子どもに教える”木育”にも力をいれていきたいと思っており、塩尻市内の保育園で木のおもちゃを使ってもらうなどの取り組みもはじめました。」



15:00 「写真日記」の編集・作成〜お互いにシェア


シェアタイムでは、3〜4人にわかれ、どんな旅だったか感想を話す時間を設けました。その後、自分が担当する訪問先についての「写真日記」を作成。全体で感想をシェアする、まとめの時間に入りました。感想の一部をご紹介します。


「場所・食べ物もですが、なんといっても人が良かったです。塩尻の人も、参加者の人も、都内ではできない出会いがあり、新しいつながりができ良かったです。」


「密度の高い旅行でした。自分の視野の範囲だけでない刺激があり、価値観が大きく変わりました。」


「塩尻の皆さんのおもてなしの心を端々に感じました。BBQの際には普段話せないような人生相談もできて貴重な体験でした。」


「自分の仕事に誇りを持っている方々に会えてよかったです。生き方のフォームのようなものを学ぶことができた旅でした。」


「自然が豊かで空気がきれい、ではない、地方の魅力を伝えたいと思っていました。自分も住む地域に帰ったとき、人の魅力を言えるようになりたいです。」


最後に、井筒ワインの塚原さんよりワインのサプライズプレゼントがあり、みんなで撮った写真のラベルを貼ってオリジナルボトルを完成させ、帰路につきました。


 


今回の旅を通し、塩尻で迎えてくれた塩尻の方々からメッセージも。


ツーリズムの人が訪れたことで、親子ではなかなか話さない仕事の話を聞けたり、改めて自分が大切にしていきたいことの棚卸しができたりと、嬉しい声が続々とナビゲーターの山田さんの元に届いていました。参加者にも塩尻の人々にも、様々な変化が起こっていきそうな、余韻の残る旅となりました。 


 


(ボランティアスタッフ・花輪むつ美)