シブヤ大学

授業レポート

2014/10/10 UP

暮らしを彩る九谷のうつわ
ーその魅力と絵付け体験ー

 「九谷焼」と聞いて皆さんはすぐにイメージできますか?焼物と聞くと骨董品など専門的で少しとっつきにくいイメージをお持ちの方もいるかもしれません。
 今回の授業では、午前中に元九谷焼美術館学芸員の師岡先生からレクチャーを受け、後半は気鋭の九谷焼作家の山本先生と一緒に絵つけを体験させていただきました。

 まずはじめは、九谷焼の歴史や特徴についてのレクチャーです。
 「焼物(陶磁器)」は、原料により「陶器(土から作るざらざらした質感の器)」と「磁器(石から作るつるっとした器)」に分けられるそう。九谷焼は繊細な磁器の器が一般的で、職人による装飾的な絵つけが特徴です。
 九谷焼の始まりは、1650年頃の石川県の大聖寺付近と言われています。古くから美術的にも技術的にも高い評価を得ており、当時から多くの知識人の間で大切にされてきました。しかしその生産は突如途絶え、100年ほどの時を経て、先進地である京都の職人を招いて遠く離れた金沢で復活を果たします。復活後は産地も広がり、ついには、かつての古九谷の産地・大聖寺でも生産が再開されるようになりました。
 この100年の空白は九谷焼の歴史に大きな変化をもたらします。「古九谷」とも呼ばれる1700年頃の九谷焼は青手(黄色・緑・紫の3色を用いる)や色絵(黄色・赤・紺・緑・紫の5色を用いる)に代表される、全体を塗り埋めるような絵つけが特徴でした。しかし、1800年頃に復活した九谷焼は、赤絵と呼ばれる赤1色を用いて「細描」による繊細な絵つけが行われるようになり、徐々に主流となって行きました。色絵具を使うという九谷焼の特徴こそ残していますが、モチーフや絵具の使い方まで全く異なっており、今でもそれぞれのタイプの九谷焼が作られています。また、今では現代作家の作品も増え、洋食器への絵つけなど新たなスタイルの九谷焼も広がっています。
 伝統的な九谷焼の特徴は、器の中心まで絵がびっしりと描き込まれていること。これは「ハレの日のお皿」で特別なごちそうを、最後まで残さず食べてほしいという「おもてなしの気持ち」から生まれた特徴だと言われています。スタイルや使い方は変わっても「思いやりを絵で表現したい」という職人の気持ちは今も脈々と引き継がれ、現在まで360年という長い歴史の中を生き抜いてきました。

 九谷焼についての知識が深まったところで、お茶会などでの焼物の鑑賞ポイントを教えていただきながら、実際に器を見せていただきます。今回は青手のお皿と赤絵の徳利の2つをご用意いただきました。
 鑑賞する時は指輪などの貴金属は外し、繊細な器は細い部分を持たないよう注意します。注意事項を守ったらあとはそれぞれ思い思いにお皿を手に取ります。ここまでの授業ではスライド写真を見ながらお話を伺ってきましたが、実際に手にとってみると、絵具ののりやすさを左右する陶器の質感、塗り重ねた絵具の厚みなど、手から伝わる様々な特徴を感じることができます。繊細な筆遣いの赤絵と、丁寧ながらも勢いを感じる筆遣いの青手、比べることで違いもよりはっきりと感じることができました。
 交代で焼物の鑑賞をしている間、それ以外の生徒さんは山本先生の絵具の準備を見せていただきました。絵具は鉱物の化学変化を利用したもので、どの色も800度前後で焼くと色が変わるよう調合されています。透明なガラスの板に角判のような白い陶器の道具を使って、粉末の絵具の元に水を混ぜて擦り合わせるように混ぜていきます。先生からはさらりとポイントとどれぐらい混ぜればよいかを教えていただきましたが、素人の私たちにはそう簡単にはいかないようです。


 ここでお昼休憩をはさみ、午後の授業に入りました。午後は実際に絵つけ体験です。
 15㎝の小皿に鉛筆で下書きをし、呉須と呼ばれる輪郭線に使う黒い絵の具で線を描きます。800度の窯で焼くと、呉須や鉛筆の線は消えてしまうため、その上から線を隠すように色の絵具を重ねていきます。黄色・緑・紺・紫の絵具にはガラスが含まれており、焼くと透明感が出て線が透けるそうです。でも、絵付けの時点ではどの色も砂を混ぜたように全体的にグレーがかっており、完成図を想像しながら絵付けするのはなかなか難しいものでした。また、絵具同士は混ぜないこと、赤い色と他の色では絵具の重ね方が違うことなど作品づくりを行う上での意外なポイントについても知ることができました。
 先生がお手本に、繊細な赤絵の伝統柄や龍の絵を描いて見せて下さいましたが、生徒さんもそれに負けない個性的な作品づくりに励んでいました。今回は焼く作業を石川県で行うため、後日完成作品が自宅に送られることになっています。絵付けを終えた、今はまだ全体にグレーっぽい作品がどんな鮮やかな形で完成するのかを楽しみに、最後は恒例の記念撮影と片づけを行って、授業は終了しました。


 1日がかりの授業でしたが本当にあっという間で、九谷焼の歴史や技術に驚き、実際の絵つけの楽しさも体験することができました。みなさんお皿の完成をお楽しみに。


 


(ボランティアスタッフ:山田里美)