シブヤ大学

授業レポート

2014/8/1 UP

伝統産業のこれからに旅をしよう。
~"伝統工芸×デザイン"で世界に拓く、高岡「能作」のものづくり~

みなさんの身の回りに”日本の職人さんが作ったもの”はどのくらいありますか?
自分の部屋、自宅の居間やキッチン、学校の教室やオフィス等の風景を思い出してみると
意外と見つからないのではないでしょうか。
僕は海外旅行が趣味なのですが、日本で作られたものが世界中で評価されていることに驚きます。
そして、日本の”ものづくり”の素晴らしさを再認識して、毎日の生活に取り入れたいと感じるのです。


 今回の授業は、株式会社 能作 代表取締役社長の能作 克治さんと、同社と商品開発でコラボレーションされている
デザイナーの小野 里奈さんをお迎えして、世界や現代に受け入れられる”日本の新しい伝統工芸”についてお話を伺いました。


”ものづくりの街”として、地域の歴史や文化を活かした伝統工芸や産業の発展に積極的に取り組んでいる富山県高岡市に『株式会社 能作』はあります。


能作さんが入社した頃は400年前から伝わる鋳造技術を使って、仏具や茶道具の製造を行っている会社だったそうです。1990年代以降、消費者のライフスタイルが多様化、日本の伝統産業が苦戦していくなかで、
能作さんは”的確な商品を市場に投入できていない”ことに危機感を感じ、様々な取り組みに挑戦し始めました。


能作さんが特に大切にしたことは、”お客さまや販売店とのコミュニケーション”。


デザイン・開発・制作・販売までのプロセスを分業制で運営していた伝統的な制作会社では、これまで商品の評価が制作者まで伝わりにくい問題がありました。
国内外の展示会への出店、販売店スタッフの声を積極的に商品開発に取り入れる等の努力を続けることで市場と制作会社の距離は縮まり、会社の業績は大きく改善、2014年には海外での販売が大きな割合を占めるようになったそうです。


株式会社 能作が世界に知れ渡るきっかけとなった商品の1つ、”曲がるKAGO”。


高岡市伝統の鋳造技術を利用して開発されたこの商品は、錫(すず)の特徴である柔軟性を活かして、使用者の好みや用途に応じて自由自在に変形させることができる画期的な金属製のカゴで、海外の著名なホテルやレストランでも採用されているそうです。


 デザイナーの小野さんによると、この”曲がるKAGO”が能作の商品となったのは幸運だったとのこと。


当時、高岡市のワークショップに参加していた小野さんが、仙台市で毎年開催されている
”七夕祭りのあみ飾り”のイメージを参考にして出品した”錫のカゴ”を、会場にいた能作さんが偶然見初めたのがきっかけだったそうです。
小野さんの発想にビックリした一方、”製造の難しさ”も感じたという能作社長の印象通り、実際の商品化には数年を要したとのこと。
『私たちデザイナーが生んだ作品をメーカーの皆さんがお金と手間をかけて育ててくれている。』
『それは夫婦の関係の似ていて、お互いにどのように成長していきたいのか?...をとことん話し合って仕事を進めることが大切なんです。』という小野さんのお話に、生徒の皆さんがうなずく姿が印象的でした。


 授業の後半は参加者の皆さんによるグループワーク。


“錫を使った株式会社 能作の新商品開発”というテーマで、各グループが能作の商品を手に取りながら、
お互いのアイディアを話し合いました。
『生活者としての自分の思いや感覚をアイディアに取り入れる』という小野さんのアドバイスのもと、
各グループからはメガネ、お弁当箱、すだれ、子供の玩具等、沢山の新商品案が提案され、能作さんや小野さんも参加者の発想を楽しまれていました。

 『能作のブランドとは、”もの・こと・こころを正直に伝える”ことです。』


『”競争の時代から共創と共想の時代”へシフトしていき、地域社会への貢献と世界に通用する商品の開発に取り組んでいきたい。』
能作社長の優しく、そして凛とした一言一言に、日本の伝統産業が持つ可能性と力強さを感じました。


 
授業の最後には高岡市の高橋市長から、参加者の皆さんへのお礼と高岡市の魅力についてお話を頂きました。
授業をきっかけに、日本の伝統産業や高岡市への魅力を感じて頂いた方も多かったのではないでしょうか?


 “株式会社 能作”と”ものづくりの街 高岡市”のこれからがとても楽しみですね!


 (テキスト:ボランティアスタッフ 奥住健一/写真:ボランティアスタッフ・池田愛)