シブヤ大学

授業レポート

2014/4/30 UP

「フェジョアーダ」から学ぶ!ブラジルの食文化

ブラジルでは2度目のワールドカップブラジル大会が6月12日から開催されます。東京もブラジル国旗やトロピカルに彩られたディスプレイが目立つようになりました。
ブラジル料理で思いつくものは?と聞かれると「シュハスコ」と答える方が多いと思いますが、ブラジル国民に最も親しまれている料理は「フェイジョアーダ(Feijoada)」です。今日の授業は日系三世の平田マリさんを先生に国民的料理のフェイジョアーダについて、そして現在のブラジルについて、授業打ち上げではマリさんお手製の大盛りフェイジョアーダをいただきながら、自然と生徒さん同士たくさんの輪ができ、ブラジルの話で盛り上がりました。

● 平田マリさん
常時笑顔のマリさんはラテン気質100%のブラジル料理の美味しさを伝道する数少ない一流のフードコーディネーターです。
ご本人はフードコーディネーターの肩書きは少しお気に召さないご様子でしたが、とはいえサンパウロの五つ星ホテルではパティシエを務め、日本では和菓子を学び、パリに渡れば三ツ星レストランでフレンチの修業を積み、ル・コルドン・ブルーを主席で卒業、その上、パリで最も予約が取れない3つ星レストランアルベージュアランパッサールで1年修行という素晴らしい経歴のマリさん。見た目の癒し系とは正反対のアグレッシブな経験をされています。


● Gastro Motiva という社会貢献活動
マリさんは今までの経験活かし、日本を拠点に母国ブラジル料理、ブラジルの食材の良さを活かしたレシピの開発に携わりながら大好きなブラジル人のためにブラジルと日本との懸け橋となる活動も熱心に続けていますが、特にブラジルでは食が人を支える、人を育てるプロジェクト Gastro Motiva という活動に参加しているそうです。

低所得層が集中している「ファベイラ(スラム街)」では、就学率、就業率が低く、特に若年層において犯罪に影響を受けやすい環境であるため、このコミュニティーに食に関する学校を建設し、ただ食べ物を与えて空腹を満たすことからもう一歩発展させて、ここで料理を通じた講義を行い知識と技術を伝授し、危険な道から抜け出せるよう就業までを見据えたサポートをしていくプロジェクトだそうです。

マリさんの話を聞いて、以前テレビで見たシルク・ド・ソレイユがブラジルのファベイラでおこなった社会貢献活動を思い出しました。プロフェッショナルな方々が、彼らたちにも無理なく、相手にも押しつけでなく、そしてお互いがハッピーなことを続けていく活動を見て、これはカトリックの教えからくるものが核なのかもしれませんが、ブラジルが大好きという気持ちからこういう活動が自然発生するのかな?と思いました。


● フェイジョアーダとは
伝統的なフェジョアーダはフェイジョアーダ・コンプレッタ(完璧なフェイジョアーダ)と呼ばれ、黒い豆と豚の脂身、干し肉または燻製肉、"リングイッサ"という生ソーセージ、豚の内蔵などたくさんの材料を一緒に煮込み、ニンニクと岩塩で味付けした、こってりした豆の煮込み料理です。名称は「フェイジャオン(豆)を使った料理」という意味で、フェジョアーダよりも少ない材料で作られる豆料理は、フェジョアーダとは呼ばれず単にフェイジャオンと呼ばれるそうです。

フェイジョアーダは19世紀にリオ・デ・ジャネイロで生まれたとされていますが、諸説あるそうです。
一般的な説は、奴隷としてアフリカから連れてこられた黒人たちが、農場主らのために豚の上質な肉を取った残りの部分(主に内臓、そして耳や鼻、足、しっぽなど)に豆などを加え食べた説(暑熱の中で強制労働に就く奴隷の塩分を補う食事でもあったため、現在も一般に塩が効いているのはその影響だそう)。

ただ豚の足などはとても貴重な食材であったので、この説には異論もあり、ポルトガルやフランスの支配者層が煮込み料理「カスレ」を南米で調達しやすい材料で作って、その後ブラジルに入植した各国の民の料理法が混ざり合って、今のフェイジョアーダに進化した、という説。

ブラジル料理の面白さは、さまざまな国の食文化が複雑に混じり合った多国籍性にあります。その誕生における歴史的・民族的・文化的背景と、国民食になった理由を考えると、ブラジルの格差社会や、ファベイラ(スラム)の存在が現れます。先住民族が暮らしていたブラジルは1500年代から植民地化を進めたポルトガル人、アフリカから奴隷として連れてこられた黒人たち、さらにイタリア、スペイン、ドイツ、レバノン、ポーランド、そして日本などからの移民が続々と流入し、多様な食材や料理法が持ち込まれました。それが融合を繰り返した結果、「フェジョアーダ」に進化していったのが自然だと思う、とマリさんはお話ししてくださいました。どちらにしても、現地ブラジルの黒豆と様々な部位のお肉の組み合わせはブラジル独自の調理方法であることには間違いなく、ブラジル国民にいちばん愛されているブラジル代表料理であることは間違いないようです。

フェジョアーダは少し脂っぽいので、必ず付けあわせが用意されるそうです。繊切りにして炒めたコウヴェ(ケール)、ファロファと呼ばれるバターやベーコンで炒めたマンジョッカ芋(キャッサバ)の粉、オレンジのスライス。
まさに箸休め的な小さな気遣いは日本人の影響を受けて進化したのかな?と思いました。私たちも授業の後にフェジョアーダを山盛ご馳走になったのですが、これらのトッピングのおかげでぺろりと平らげてしまいました。

フェジョアーダはとても手間のかかる料理なので、今は週末に作ることが多いそう。ラテン国に手間のかかる料理があるなんてイメージできなかったのですが、ブラジルにも日本同様にそのままでは食べれないものをしっかり時間をかけて調理する習慣があるようです。

● マンジョッカ芋(英語ではキャッサバ)
マリさんの授業の中で「マンジョッカ」という単語が何度か出てきました。マンジョッカとはブラジル人の食生活に欠かせないお芋で、フェジョアーダには粉にして炒めたものをかけて食べます。
実はこのマンジョッカはもちもちした小さなパン「ポンティケージョ」の原料の粉だったり、パールティーに入っている「タピオカ」に変身したり、もちもちした触感を出すにはこのマンジョッカ芋粉が使われているそうです。あまり知られてないのですが、私たちも食べ親しんでいる食材なのです。

ただ食用とするためには毒抜き処理が大変で、今でもその下処理に失敗し死亡するケースもあるそうです。とはいえ発育が早く、悪環境下(乾燥地、酸性土壌、貧栄養土壌)やこれまで農地とされなかった場所での栽培が可能な地球にやさしい植物なのだとか。葉を発酵させて毒抜きし飼料として利用したり、アルコール発酵によりバイオ燃料(バイオマスエタノール)を製造するなどの用途も最近は注目を浴びています。


自分が好きなものや惹きつけられるものを見つける機会を作る、本当にステキな活動だと思いました。
ブラジルの食や人や自然の豊かさをたくさん感じ、ブラジルに行ってみたくなる授業でした。


(ボランティアスタッフ:高木夕子)