シブヤ大学

授業レポート

2014/2/20 UP

自分ゴトのまちづくりの未来 ~まちづくり×フューチャーセッション~

火曜日の夜7時、渋谷ヒカリエ8階の「8/(ハチ)」というスペースに、約80名もの方が集まりました。その多くは、仕事帰りのビジネスマン、キャリアウーマンの方々。平日の夜にも関わらず、仕事を早く片付けてこの授業を受けに来るという、「フューチャーセッション」に対する期待の高さを感じさせました。


 この授業の先生であるフューチャーセッションズの野村さんには、シブヤ大学で今までにも何度かフューチャーセッションを開いていただいたことがあり、その際に多くの参加者から「自分ごとの未来」を引き出していただきました。このように実績を積み重ねていくことにより、地域や企業における様々な問題解決のために、フューチャーセッションという手法を活用しようとする方が増えてきているようです。


 なぜ、「フューチャー(未来)」なのか。
普段の生活の中で私たちはつい、過去の積み重ねで未来を描きがちです。
今の学力では、これくらいの学校しか受からないだろう。
このままこの仕事を続ければ、来年は主任に昇進するだろう。
これを「フォアキャスティング(確率の高い未来を予想すること)」と呼びます。


 これに対して、フューチャーセッションが取っている立場は「バックキャスティング」。
これは、まず「欲しい未来」の姿を描き、そこに向かって行動を取っていくことを言います。
例えば、少年が「プロ野球の選手になりたい」という夢を描き、そのために毎日一生懸命練習するのも、バックキャスティングの一つです。


 一般的に、子供の頃は、できない理由ではなくできたときのことを考えて行動する「バックキャスティング」をしているものの、大人になるにつれて、できない理由に囚われて予測できる範囲のことしかしなくなる「フォアキャスティング」になっていく方が多いと言います。


 そこで、「フォアキャスティング」から「バックキャスティング」へ考え方の方向を転換しようとしているのが、「フューチャーセッション」なのです。


 この手法は、実際に「まちづくり」の現場で役立てられています。
東日本大震災の被災地である大槌町や東松島では、これからのまちづくりを行っていくためにフューチャーセッションが開かれ、市民の声をまとめて市長にプレゼンするということも行われているそうです。


 行政に対して、私たちは「サービスをしてくれる」ものと思っていないでしょうか?
地域のことは、行政が決めてくれて、私たちはそれに従うだけ、と思っていないでしょうか?
やってくれて当たり前、やってくれなければクレーム。考えてみれば、自分だってそうでした。


 でも、それで良いのでしょうか?


 自分の街でもっとこんなことができたらいいのに。
そう思ったら、自分から動いて、必要とあれば行政に働きかけて、その想いを実現させていけばいい。
それを野村さんは「未公認のまちづくり当事者」と表していました。


 フューチャーセッションでは、想いを共有する方たちが集まって、コミュニティを作り、実際の行動を起こしていきます。
一人だと、視野が限られているので、なかなか活動が広がりません。
でも、複数の方と協力すれば、視野を広げることができますし、活動にいろいろな意見を取り入れることで、軌道修正をすることができます。
最初の一人の強い想いと行動を”起点”に、周りの方の共感を集め、巻き込んでいくことができれば、その想いはより実現に近づいていきます。


そして、実際に活動を行っていく上では、コミュニティのメンバーをはじめとする人々の声を集め、形にすることのできる「ファシリテーター」の存在が不可欠です。
ファシリテーターの役割は、対話を促進すること。
そのためには、多くの人々に考えてもらえるような「問いかけ」を発することが大切です。
フューチャーセッションを、もっとまちづくりの現場に取り入れられるようにしていくには、このファシリテーターの養成も必要となってきますね。


 この授業の参加者には、すでにまちづくりに関わっている方が多いようでしたが、実際の社会の中には、地域のことに興味はあっても、何をしたらいいかわからない、という方が多いと思います。


「家」と「学校」、「会社」の往復しかしていないという方、日本には多いのではないでしょうか。
そういう方たちに、何らかのきっかけを与えていくこともまた、大切だと思います。


 地域の活動に参加し、まちづくりに主体的に関わって「未公認のまちづくり当事者」になっていく。
地域の中で、何らかの活動に関わり、役割を与えられることで、その地域にはその方の居場所ができるんだなあって。


 一部の政治家や政治を志す方の間ではすでに、まちの人々の声を広くインターネット上のツール等を使って集める取り組みが始まっています。
行政の側にも、まちづくりのファシリテーターになろうという方が少しずつ増えてきています。 


「行政」と「市民」を、「サービスを提供する側」と「サービスを受ける側」として分断するのではなく、「一緒にまちづくりに取り組む仲間」として互いに力を合わせて行動していくことが、これからの「まちづくり」なのだなと思いました。


(ボランティアスタッフ:田中万里子)