シブヤ大学

授業レポート

2013/9/21 UP

日本の雇用と絆をつなぐオパール毛糸

2011年3月11日。
あの日のことを思い出すと、今でも信じられないような気持ちになります。
この授業の先生、梅村マルティナさんは、東日本大震災を機に、人生が変わった方の一人。
なんと、ドイツ人女性です。

震災当時、京都で暮らしていたマルティナさん。
ドイツからは、「日本は危ないから、ドイツに帰ってきなさい」と心配の声が。
しかし、それに対し、当時小学生の2人の息子ははっきり言いました。
「僕たちは日本から離れたくない。僕たちだけ逃げたら、裏切り者になってしまう。」

息子たちの声に、日本に留まることを決心したマルティナさん。
被災した方々のために、自分にできることは何かと模索し始めます。

地元で編物教室を開いていたマルティナさんの頭に思い浮かんだのは、
「避難所生活を送る方々のために、毛糸を送ろう」ということでした。
なぜ、毛糸か。
それは、手を動かして何かを作ることで、辛いことを忘れられるからです。
被災地に編物セットを送れば、編物に没頭することで、幸せになれる人がいるかもしれない。
そう考えたのでした。

息子たちに手伝ってもらって、可愛いイラスト入りの説明書をつくり、
毛糸と針とセットにして避難所に送ったところ、
ゴールデンウィークの頃に、気仙沼市唐桑町の小原木中学校避難所から、
「心の癒しと交流の機会になり、とても助かっている。もっと毛糸を送ってほしい。」という連絡が入りました。

6月には、家族で気仙沼を訪れ、避難所の中学校で、編物教室を開きました。
その後も単身で何度か気仙沼を訪れ、「小原木タコちゃん」という可愛いチャリティー人形を作ったりしました。
編物作品の販売で得たお金は、それを作ってくれたおばあちゃんたちのお小遣いになりました。

ところが、気がついたことがあります。
それは、若い人、とくにお母さんの雇用が少ないということです。

そこで、気仙沼で会社を経営する斎藤さんという方に、「会社を作ってください」とお願いしました。
なんと、斎藤さんと初めて会って5分後の出来事だそうです。
そしてさらに、本当に3か月以内に会社ができたのです!

マルティナさんは、本気であることを証明するために、
住民票を気仙沼に移し、家族が住む京都と気仙沼の往復生活を始めました。

3人のお母さんたちと共に会社を始めると、
「高見荘」という民宿の一部を借りて、編み機を設置してアトリエとし、編物制作を始めました。

今年1月には、無償で土地を貸してくれる人が現れ、コンテナハウスのアトリエを持つことができました。
現在は、社員6人と在宅アルバイト5人の、いずれもお母さんが、この会社で働いています。

マルティナさんは、お母さんの働きやすい環境を作るため、
勤務時間は10時~3時まで、
子供が熱を出したときなどは、いつでも休んでいい、
家で仕事しても良い、
といった働き方ができるようにしているそうです。

マルティナさんの会社で作られた編物製品は、とてもカラフルで、可愛らしいものばかり。
実は、その秘密は、「オパール毛糸」にあります。

オパール毛糸は、いろんな色がミックスされたドイツの毛糸で、
編んでいると次々に色が変わっていき、自然に柄が生まれます。
私も初めて見たときは、模様を編み込んでいると思ったのですが、
実は、普通のメリヤス編みでも、糸の色の変化に合わせて、柄が現れてくるのです。

マルティナさんは特に、ドイツの毛糸会社にお願いをして、気仙沼の特注カラーを作ってもらいました。
気仙沼の海を現すブルー系の毛糸、
気仙沼の森を現すグリーン系の毛糸、
それから、季節をイメージしたもの、家族をイメージしたものなど。

マルティナさんの行動に、始めは反対していたご主人も、
今は会社のパンフレットの作成をしてくれるなど、協力してくれるようになったそうです。
家族の協力があってこそ、活動を続けられると、マルティナさんはおっしゃいます。

最後に、マルティナさんからのメッセージ。

私たちが、今、被災地のためにできることは何か?

それは、「忘れない」ことだそうです。
メールを送ってあげる、ブログにコメントする、Facebookに「いいね!」する。
そういう小さなことで良いのです。

私たちにもまだ、できることがあるんですね。

(ボランティアスタッフ 田中万里子)