シブヤ大学

授業レポート

2012/8/7 UP

生きるように働く ~300人以上の働き方に接して気づいたこと~

「働き方、生き方のヒントを得たい」「自分の仕事について見つめ直す機会が欲しかった」生徒さん達の授業参加前の声だ。皆さん、仕事に対して何らかの不安や不満を抱えていらっしゃるのでしょうか。仕事と個人とを切り離して考える人が多いこの世の中で、先生の中村健太さんが問題提起を行う。

『シゴトとヒトの間を考える』。本授業で扱う教科書のタイトルであり、またテーマでもあります。求人サイト「日本仕事百貨」を手掛ける中村さんは、自身のシゴトを通じて300人以上の働き方に接し、そこで共通する「何か」を見つけた。彼らの原動力は職種でも企業名でもお金でもない。シゴトとヒトの間にある「何か」が共通するらしい。それを中村さんと考えるのが本日の授業だ。

 本講義は5部構成となっている。ここで、授業を振り返ってみましょう。

1.「日本仕事百貨」とは?
 生きるように働く人が仕事探しできる求人サイトです。中村さんは、他にはない求人サイト作りにこだわっていて、シゴトに携わる人々のいつもの雰囲気が伝わるようなページを心掛けているそうです。だから、働いている人の想いやそのシゴトの大変な面も言葉に落としていく。正直にシゴト状況を読者に共有することで、本当にそのシゴトに「合った」人が見つかると言う。
 中村さんは「日本仕事百貨」のみならず、今後インターネットなどのメディア媒体は「コミュニティ」としての役割を果たすとお考えになる。気が合うもの同士の関わりあいが契機となって、商売に発展する可能性もあるのだとか。けれども、そのビジネスはお金ではない「何か」のやりとりが大事だとおっしゃっていました。もちろん、お金も大事ですが。

2.なぜ(中村さんが)この仕事をはじめたのか
 中村さんのご家庭は転勤族だったらしく、引っ越しを何度も経験していたために、地元がない、自分の居場所が欲しいと考えていたそうです。そこで、徐々に「場づくり」をしたいという想いを強めるようになりました。大学生になり、建築学科で勉強し、建築会社に就職。働いていくうちに違和感を覚え、仕事の疲れを取るために毎日バーに通うように。ふと、ある瞬間考えた。「なぜ、毎日このバーに通っているのだろうか?」
 どうやら、その場にいる「人」が肝になっていると気付く。自分はバーテンダーや常連さんに会いにいっているのだと。その問いをきっかけに人と場を結びつけることは出来ないかと考え、その結果、求人サイト「日本仕事百貨」ができた。

3.いい仕事とは
 ここでは、中村さんが取材してきたいくつかのシゴトを具体例として取り上げる。そこで気付いた、シゴトとヒトの間にある「何か」を大切にしている人たちに共通して見られる仕事観を生徒さん達に共有した。

 「今を大切にしながら
  隣の人に
  贈り物ををするように
  自分ごととして
  生きるように働く」


イキイキと働いている人たちは、自分が本当にイイと思ったモノ、想いを提供し、そのあとに結果がついてくるそうです。周りの人に贈り物をあげ、またもらい、互いに協力し合える関係を構築してはじめて「生きるように」働ける。

4.仕事との出合い方、つくり方
 中村さんは、仕事の見つけ方・作り方を説明するにあたっていくつかのキーワードを生徒さんたちに贈ってくれました。その一つに、「ボキャブラリー」という言葉があります。「どういう仕事をしたいか分からない。」という相談に対し、「ボキャブラリーを増やせばいいのでは」と提案しているそうです。なぜならば、そもそも世の中にどんな仕事があるのか知らなければ、仕事を選択できないからです。大学生の受講者に対し、「ボキャブラリー」を増やす具体的手段として、インターンシップを経験すること、親の職場に行くことをお勧めしていました。大人が働いている姿をみることは勉強になるし、働く「実感」が湧くそうです。
 
5.シゴトヒト文庫
 中村さんは生き方、働き方を紙媒体でも伝えるためにシゴトヒト文庫を立ち上げ、そこで完成したのが本授業の"教科書"でもある『シゴトとヒトの間を考える』です。この本の第3章を生徒さん達と一緒に読み進めつつ、その行間や背景について中村さんから説明がありました。


 以上のような流れで授業は進んでいきました。しかし、先生だけがしゃべる一方通行の授業ではありません!授業の合間合間に、お隣さん同士で授業を聞いて感じたことを共有する時間を設けたり、先生への質問タイムが用意されていました。最初は緊張からか、ぎこちない雰囲気の生徒さん達でしたが、次第に笑い声が聞こえるようになり、活発な意見交換がなされていました。皆さん、中村さんから得た「学び」が多くて、「わくわく」感に満ち溢れているのでしょうか。


 最後に、中村さんがこんなメッセージを贈っていました。
「ぜひ、この本にメモを書いていただければうれしいです。」と。人の言葉をそのまま習得するよりも、自分が読んだり、経験したり、感じたことをそのまま「自分の言葉」にする方が大事だとお考えだそうです。
 皆さん、お気付きになりましたか。中村さんは、授業中にシゴトとヒトの間にある「何か」が何であるか、明確な答えは教えていません。それは皆さん自身が考えること。それぞれが中村さんのお話を聞いて感じた「何か」、それが答えなのかもしれません。


(ボランティアスタッフ: 矢永 奈穂 )