シブヤ大学

授業レポート

2012/3/2 UP

一度、ほぐして、また編み直す

授業の前の準備というと、ついついプロジェクターとスクリーンがお決まりのようになってしまっていますが、今回の授業ではパワーポイントによるプレゼンは行われません。
先生のお話と、補足的にホワイトボードに文字を書くだけ。
授業のお決まりを一旦ほぐして、いつもとは違う準備の時間を編み直しました。


今回の授業の先生は、視覚障がいを持つお二人、斉藤恵子さんと菊地祐子さん。
斉藤恵子さんは図書館で、菊地祐子さんは銀行で働いています。
授業では、お二人の現在の、ときに過去の仕事の話を聞きながら、参加者それぞれが自分の仕事を考える、ときに話し合う時間を過ごしました。

【自己紹介】
授業では、まず先生二人の自己紹介、そして、参加者もスタッフもそろって自己紹介となぜ今日この授業に参加したか、を発表しました。
授業に参加した動機はさまざまですが、仕事テーマという方と障がい者テーマという方はいい具合に混ざっていたようです。
この場にいる全員が、一言ずつは声をだし、一度気持ちをほぐしたところで、先生二人の仕事のお話にうつりました。

【先生のお仕事の話】
二人には、最初に同じ質問をしました。
「ここ一週間の中でいつでもよいので、ある一日の仕事の話をしてもらえますか?」

【斉藤恵子さんのお仕事の話】
斉藤さんは図書館で勤めています。仕事の内容は、視覚障がい者向けの録音図書の貸し出しや管理、お客様からのお問い合わせなどを担当しています。
図書館に勤め始めて最初のころ、引っ越しのためにみんなが働いていたのに自分は何もできずに落ち込んでいたら、初めはわからないことだらけだけど、これから覚えていけばいいんだ、と先輩に声をかけてもらったとのこと。

この話を聞いて、障がいをもっている、いないの話ではなく、誰しも最初は何もできない存在として誰でもできることをやり続けていく、そのうちに誰でもできることがその人にとって大事な仕事に変わっていく、そんな自分自身の仕事を始めたころのことを思い出しました。

【菊地祐子さんのお仕事の話】
菊地さんは銀行の営業店舗ではなく、バックオフィスで働いています。朝行ったら、順番にやること決まっている。最初にすることは、PCの電源を順番に入れていくこと。
最初は営業店舗で勤めていたが、視力が低下するのとともに、バックオフィスへと職場を変えることになりました。そして、新しい職場にきてからしばらくは何も仕事がない時期が続きました。できることがなくて、放っておかれる感じ。しかし、少しずつ、自分は何ができて、できなくてということをはっきりと周りに伝えることで、みんなとできる仕事をつくっていたそうです。

この話を聞いて、仕事をしていくと自分でできることの可能性よりも限界が見えてきて、でもその限界が見えたときにどうしていくのかを考えることがまた仕事なのかもしれない、という自分自身の仕事について考え始めたころのことを思い出しました。

二人の話を聞いていると、少しずつ、これは自分にも当てはまるな、これは障がいをもっている人特有の話ではなく、自分自身の仕事を考える刺激になっているのでは、と思うようになりました。
また、二人とも感謝という言葉を何度か使っていましたが、一緒に仕事をしていく人たちに支えられ、ここまで仕事をしてきたことが伝わってきました。それは、障がいを持っているから周りが支えてくれることではなく、自分自身も多くの人に支えられて仕事をしてきた、そんなことを思い返す刺激になりました。
刺激は自分が日々知らず知らずにうちに固めてしまっている考えをほぐしてくれました。

【最後に】
二人の話を聞いて、参加者同士でも感想をシェアしました。人に向けて感想を話すことで、少しずつですがほぐれた糸が絡み合うように編み直されていきます。

また、質疑応答では、「小さいころにつきたかった仕事は?」という質問が参加者から先生にありました。
菊地さんは、教師になりたかったとのこと。
なりたかった、でも諦めた。
理由を聞かなかったら、障がいを持っているから、と安易に考えてしまいがちですが、理由は障がいとは関係ありませんでした。
自分自身も、また多くの人がさまざまな理由で憧れていた仕事を諦めることはありますが、達成するか、諦めるかだけではなく、人は別な夢を編み直します。
菊地さんも編み直しました。自分も編み直しました。

そして、仕事を始めてからも日々、ほぐしては編み直し、またほぐしては編み直し。自分一人だけではなくて、関わり合う周りの人たちと一緒に編み直す。仕事とは就職活動の時に考えたら、それでおしまい、ではなく、面倒だけれども長く考え続けていくパートナーみたいなもの。ほぐしては編み直しての繰り返しなのかな、今までも、今も、そして、これからも。と、授業が終わって、日々の仕事に戻ってそう感じます。

(授業コーディネーター 堀田顕人)



■シブヤ大学音声解説ゼミでの授業レポートはこちら
  http://nijitoneiro.blog96.fc2.com/blog-entry-82.html

■シブヤ大学しごと課のページにて参加者の感想を順次掲載しています。
  http://shibuya-univ.net/shigoto/blog/2012/03/post-248.html