シブヤ大学

授業レポート

2009/4/29 UP

   

六本木通り沿いにある、老舗シャンソン・バー「青い部屋」。
薄暗い部屋に埃のかぶったキャンドル、戸川昌子など往年の名歌手が歌ったといわれるこのバーでお酒を楽しみながら静かに授業が始まりました。

今回お越しいただいた先生は、音楽評論や漫画評論、小説などを手掛ける湯浅 学さん。
本人も自称するほどのレコード通らしく、授業コーディネーターの佐藤さんとともに、78rpmの世界へといざなってくれました。

まず、1920年末~50年代の音楽シーンの中で大きな影響を与えた女性シンガー、ビリー・ホリディとエディット・ピアフの2人に注目すると同時に、なんと2人の歌手に合わせて2つの蓄音機を用意してレコードをかけるというこだわり!同じ曲でもレコードや蓄音機によっては音が微妙に違うそうなのです。
針とこすれて音が奏でられるレコードは決して一生かけ続けることはできないため、
湯浅先生は「針とレコードが削りあう犠牲的な音楽なんです(笑)」と話せば、「レコードの方が根性ある!」と佐藤さん。

アナログの持つ希少性や、今現在主流になっているCDに比べると情報量や性能でいえば劣ってはいるが、もともと保存に特化するために作られたCDはキズができればすぐダメになってしまうところから、必ずしも現代のデジタルな音楽だけが肯定されるわけでもないということ、そもそも今でも言われているアルバムやオムニバスの語源も、この当時の音楽シーンから生まれたなど、デジタルでは調べられないような情報を湯浅先生と佐藤さんが交互にホリディとピアフのレコードをかけながら話す姿は、まるでベテランラジオMCのよう、2人のやり取りがゆっくりと会場を温め、20年代からさかのぼるようにして当時の音楽に耳を傾けました。

すべてが「生音」といった形で、まだ電気で音量を調節できる時代でなかったため、ボーカルやサックスが自分のパートになってはマイクに近づき、音を拾い、それぞれが動きながら収録するという、レコードへの録音にも匠の技が感じられるSPレコードの奥深さ。

そんな奥深さを感じながら目を閉じて世界へ入っていく生徒さん、全10曲に渡る、ホリディとピアフの楽曲の後は、生徒さんが持ち込んでくれたレコードを再生し、最後に12月にちなんだ一足早クリスマスソングをプレゼント。

ちょっと大人っぽくてとっつきにくいと思われていたアナログの世界でしたが、洗礼された深い音楽を愉しむことができるおもしろさを感じることができました。

(ボランティアスタッフ 福嶋 努)