シブヤ大学

授業レポート

2006/11/6 UP

        

渋谷区は松涛。一歩足を踏み入れると、先ほどまでの喧騒が嘘かと思うぐらいの落ち着き。
2回目を迎える「やきもの鑑賞入門編」。会場は前回と同様、戸栗美術館。
『先人の叡智を、私の心の中に。』と銘打って行われた今回の授業。やきものというと、どうしてもアナログなイメージが付きまといますが、それを払拭するかのような生徒の年齢層。これは面白い授業になりそうです。
歴史を辿ると、産業革命以後の世界は大量生産&大量消費が常態化し、人の手で作られたものは疎んじられてきたような気がします。今回の授業を通して、人の手によって作られたものの素晴らしさを、改めて考えてみることの意義はとても大きいように思います。
今回は主に、「やきものの歴史」「陶器と磁器の違い」などについて学びました。

【やきものの歴史】

やきものの歴史は古く、その起源は今から約1万2000年前だと言われています。今では考えにくいですが、やきものの発明(発見)はかなり画期的な出来事でした。人類は、たき火をした後に地面が硬くなっていることに気づきます。ということは、土で作った何かをたき火の中に入れれば、道具が出来るのではないかと思うわけです。賢いですね。きちんと応用が出来ています。これまで石器を用いてきた人類が、「火」を使って初めて科学的な道具を作るという歴史的進歩を実現したのです。さすがに縄文人には会えませんが、この「縄文土器」、実は身近なところで目にしています。植木鉢です。いまでこそ100円均一で買えますが、やきものとしては歴史的第一歩なのです。

【陶器と磁器の違い】

授業の冒頭に先生から質問がありました。
「皆さんは、陶器と磁器の違いって分かりますか?」
生徒は首を傾けていましたが、確かに何が違うのだろう?そもそも、磁器って何?
陶器は聞きなれた言葉ですが、磁器というのはあまり馴染みがない言葉ですよね。

陶器…素地(きじ)に吸水性があり、光沢のある釉(うわぐすり)を施したもの
磁器…陶器よりも高温で焼くことで素地がガラス化し、吸水性がなく硬いもの

このふたつを完全に区切ることは難しいらしいのですが、前者がやわらかい質感であるのに対し、後者は硬い質感を醸し出します。(現物に触れば納得がいくはず…)
磁器の歴史は意外と浅く、日本では17世紀に肥前・有田の地で誕生しました。この有田で焼かれた磁器を伊万里焼と言い、特に古いものは古伊万里と表現します。有田で焼いたものなのに、伊万里の港から各地へ運ばれたため、伊万里焼と表現したのですね。ちょっと有田がかわいそうな気もしますが。実際に古伊万里に触れられるということで、生徒も喜びを隠せない様子。歴史を学んだ後なので、単に見た目だけではなく、質感や当時の文化を感じながらの鑑賞となりました。実際に使われていた器ですから、当時に思いを馳せるのもうなずけます。

【格言】
「素材や技法を知ってから現物を見ると、感覚的に鑑賞することができる」
実際に展示品を見に行く前、先生がおっしゃった言葉です。それもあってか、器を見て回る生徒一人ひとりの目が輝いて見えました。五感をフル活用して見入っている様子は、みなさん真剣そのものでした。

今回の授業で学んだことは、日常生活に活かせることだらけです。普段使っている器は、どこで誰が作ったものなのだろうか?こう考えるだけでも見方が変わってきますよね。楽しみが増えるというか。この授業のテーマ通り、「先人の叡智を、私の心の中に」感じさせる幸せな授業でした。

(ボランティアスタッフ 松森拓郎)