シブヤ大学

授業レポート

2024/4/26 UP

はじめてのクリムチェク

〜韓国絵本の世界〜

今回は、韓国の絵本「クリムチェク」をテーマに授業を開催しました。さっそくですが、みなさんは韓国の絵本を読んだことはありますか?私は今回はじめて韓国の絵本に触れました。宝物のように緻密で繊細な絵は、「絵本は子どものためのもの」という固定観念を壊してくれました。 韓国の絵本には、日本の絵本と比較してどのような違いがあるのか?このレポートでは、そんな視点から思ったことを書いてみたいと思います。

まずは、参加者のみなさんの自己紹介から授業が始まりました。女性の参加者が圧倒的に多く、「コロナの期間に韓国ドラマにハマって、、」「韓国のアイドルの影響で韓国語を勉強していて、、」といった”韓国”という切り口から授業に参加してくださった方。また、「子どもが幼いときに絵本の読み聞かせをしていて、、」「韓国に行ったときは、必ず絵本を買ってきます!」といった”絵本”という切り口から参加してくださった方もいました。みなさん教室に入ると、机いっぱいに並べられた韓国絵本に興味津々。授業開始前から、思い思いに絵本を手に取り、夢中になって読んでいる姿が印象的でした。

今回授業を担当してくださった先生は、渡辺奈緒子さん。渡辺さんは、幼少時代を韓国のソウルで過ごしました。当時の韓国は、日本に比べ韓国の文化は遅れている!という時代だったようで、渡辺さん自身も日本の文化を必死で追いかけていたそうです。日本に帰国後、改めて韓国語の勉強を開始した渡辺さんは、どんなに韓国語の勉強をしても、いつになっても小説が読めるようにならないことに疑問を感じます。「勉強方法を変える必要があるのかもしれない」と、様々な言語の勉強法を調べている中で、「多読」という方法に出会い、そこから「韓国語多読の会」をスタートさせます。その際にまず手に取ったのが、韓国の絵本でした。韓国の子どもと同じように、内容が簡単な絵本から徐々に読む量を増やしていくことで、効果が現れるのではないかと考えたそうです。ご自身の勉強ツールとして絵本を手に取ったところから、今では、多読の会や翻訳を通して、韓国の絵本や児童書を日本に紹介する活動をされています。

渡辺さんからは韓国の絵本の歴史と現状についてもお話がありました。韓国の絵本の歴史は、1988年から始まります。驚いたことに、まだ30年ほどの歴史しかないそうです。歴史が浅いのには、長く続いた植民地支配や朝鮮戦争などの様々な理由が重なっており、韓国には「絵本を読んでこなかった大人」がたくさんいるというのも驚きでした。そんな中、2000年代に入ると、韓国の絵本が世界の原画展で入賞を続けるようになります。韓国の地下鉄の切符や路線図をコラージュした作品や、韓国の伝統衣装を解説した作品など、既存のスタイルにとらわれない斬新なアイデアがその魅力です。ページ数や本のサイズ、画法に至るまで、基準がないまま自由に作品が作られていきました。こうした作品が次々に生まれたのは、歴史が浅いからこそお手本となるような絵本がなく、どんな絵本も受け入れられる土壌があったことが背景にあるのではないかということです。

一方日本では、絵本のページ数やサイズなど、独自の基準が確立されています。そのため、韓国絵本は日本で翻訳出版することが難しい一面もあるとのこと。オリジナリティあふれる斬新なアイデアが受け入れられる環境で発達してきた韓国の絵本業界。机の上に並んだ、かたちも厚さも異なる多種多様な絵本の秘密が分かった気がしました。
さて、渡辺さんのお話に夢中になっていると、気づけば残り時間が少なくなってきました。ここからは、目の前にあるたくさん絵本から好きなものを選んで、実際に「多読」を体験してみる時間です。今回は授業のタイトルの通り「はじめての」クリムチェクということで、渡辺さんがハングルが読めなくても楽しめる絵本をピックアップしてくださいました。どの絵本もキラキラと輝いており、限られた時間で何を読むか迷いに迷いました。

何冊かを読み比べてみたり、渡辺さんから作家さんの情報を聞いたりしながら夢中になって読んでいると、あっという間に終わりの時間です。最後一人ずつ、お気に入りの一冊とその理由を共有していただきました。参加者の声には、「韓国の絵本は、日本の絵本より大人向けの作品が多い気がする」「ハングルは読めないけど、絵だけで楽しめる絵本が多い」「韓国の昔の風景は、どこか日本に近いものがあり、見たことはないはずなのに懐かしさを感じた」など、興味深い意見が共有されていました。 韓国の絵本と出会って、私自身「絵本は子どものためのもの」という勝手な思いこみを持っていたことに気づきました。そして、本当に魅力的な絵本は、子どものときも面白く、大人になるともっと面白くなるような作品なのではないかと感じました。大人になっても楽しめる要素がちりばめられている韓国の絵本。是非みなさんも本屋さんで韓国の絵本を探してみてくださいね。
(授業レポート:中村ひかる)