シブヤ大学

授業レポート

2020/6/11 UP

みんなが納得するまで、対話を重ねること
それが民主主義のプロセス

自分にとっての「学び」とは何か?
学ぶことが自分にとって、社会にとってどんな意味があるのか? をみんなで話して、考える。
3回シリーズ授業の第2回目です。

"デモクラ筋"......身体のどこかの筋肉?
いやいや、そんなの聞いたことないぞ......?
ドキドキワクワクを携えて、授業がスタートしました。


【フォルケホイスコーレとシブヤ大学】
今日の授業の先生は、一般社団法人IFAS共同代表の矢野拓洋さん、山本勇輝さん、杉山旬さん。そして今回もシブヤ大学の学生に加え、デンマークのフォルケホイスコーレに留学中の方が6名参加してくれました。

まずIFASの矢野さんから学長・大澤へ、シブヤ大学に関する質問タイム。大人の学び場を提供していること、自らが欲しい機会(授業)を手探りで対話しながら作っていくこと、そのプロセスそのものが学びであること、多様性を大事にしていること......シブヤ大学とフォルケホイスコーレの共通点が見えてきます。

続いて、今日のテーマ”デモクラ筋”のお話です。


【"デモクラ筋"って一体なに?】
"デモクラ筋"とは、デモクラシー=民主主義を構築・維持するのに必要なスキルのようなもの。
デンマークのフォルケホイスコーレでは、学生が共同生活を送る中で大きなことから小さなことまで絶えず議論して物事が決められているそう。
そう、彼らは日常的に"デモクラ筋"を鍛えているんです。
例えば筋トレをやめると筋肉が落ちたりするように、"デモクラ筋"も普段から使っていないと鈍ってしまいます。そして運動するときに筋肉がないとうまく身体を動かせないように、この"デモクラ筋"が身についていないと、民主主義のプロセスに参加することが難しいのです。

フォルケホイスコーレは、まさにこの"デモクラ筋"を鍛えられる場所です。全校70名〜100名ほどの小さな社会の中で、自ら意見を伝え、対話を積み重ね、やりたいことを形にしたり、時には妥協することも経験したり。お互いの価値観や考えをぶつけ合い、引き出し合い、時間をかけてすり合わせていく中で、楽しさや安心感と同時に難しさや苦しさも体験します。それを通して、卒業する頃には"デモクラ筋"がしっかり身につき、少々のことではへこたれない自分になるのだそう。
"デモクラ筋"を鍛える場所は、フォルケホイスコーレという教育現場にとどまりません。デンマークではある企業が"DEMOCRACY FITNESS"というトレーニングコースを開講しており、ヨーロッパにも拡大しているそうです。ゲストの一人であり、フォルケホイスコーレで先生をされている山本さんが考えた"デモクラ筋"という言葉も、ここから生まれていたんですね。

なんとなく理解したところで、いよいよ実際にワークショップで"デモクラ筋"を鍛える練習です!


【あの有名な一家が大変なことに!?】
ワークショップの題材は、日曜夜にお茶の間に現れるサザエさん一家。
お題は「フネが、明日出家したいと言い出した」。
もしもあなたが波平(夫)/サザエ(長女)/ワカメ(末っ子)/マスオ(義理の息子)だったら、フネの出家に賛成する?反対する?というテーマを、グループごとに役になりきって言語化してみます。

・フネの存在は家族の中でとても大きいから全面的には賛成できない
・これまで一所懸命家族を支えてきたんだから、決断を尊重したい
・その決断に至るまでの理由を教えてもらえないと、賛成も反対もできない
・もしフネがいなくなったら、家事とか大変じゃないかな
・ワカメはまだ小さいからさみしいはず
・マスオさんはサザエさんの意見を尊重するかも
・在宅出家なら意見は変わるかな?(斬新な視点......!)

などなど、実に多様な意見が飛び出しました。
興味深かったのは、「賛成とも反対ともいえない」という意見が大半を占めたこと。明確に白黒つけられるものではないことがわかります。

続いてグループの組み合わせを変えて、今度は各チームにそれぞれの役割が集まって家族会議。
果たしてそれぞれの家族(グループ)は、フネの出家に賛成なのか反対なのか?

......最終的な結論は、多くのグループが「どちらかというと反対」でした。
ただしここで大事なことは、結論に至るまでの過程です。それぞれの立場で意見が異なることは当たり前で、人の意見を聞くことで自分の意見が変化することもあれば、その逆も然り。意見を交わし合う中で一番いい答えを見つけていくことが"デモクラ筋"を鍛えることなのです。


【デンマークで起きたこと】
デンマークでは、幼稚園でも「あなたは今日何をしたいの?」と聞かれるように、小さい頃から"デモクラ筋"を鍛えるトレーニングをしているそう。ではデンマークの民主主義は、どのように社会の中に根付いてきたのでしょうか。山本さんから、市民運動が国の大きな矛先を決めた実例を教えてもらいました。

デンマークは今でこそ再生可能エネルギーの活用で知られていますが、実はかつて政府は原発推進の方針だったそうです。しかしながらその方針に疑問を感じた市民が、まずは自分たちで原発の良し悪しを判断するために、自然エネルギー先駆者などから原発のメリット・デメリットを学び、最終的に本にまとめて市民に配ったそうです。その結果反対派が増え、デンマーク政府は「原発推進の判断を引き延ばす」という決定をしました。そしてその約10年後に、国として再生エネルギーを推進することを可決したそうです。

頭ごなしに賛成・反対の唯一解を出すのではなく、みんなが納得するまで「決断しない」という決断をしたこと。これこそが民主主義です。
例えば今回のワークショップの例では、「サザエさん一家が納得するまで話し合うこと」が民主主義といえるのかもしれません。

全3回のシリーズ授業の第2回目は、"デモクラ筋"トレーニングを体験してみました。
"デモクラ筋"は一長一短で身につくものではないこと、そして、納得いくまで話し合う大切さを身をもって体感できた時間でした。
最終回の第3回目では、デンマークの民主主義と大人になっても学び続けることの関係性をテーマとする予定です。コロナ禍のような場面で、民主主義の意思決定プロセスはスピーディな判断と相反するのか?など、今まさに話し合いたいタイミングかもしれません。
次回の授業を楽しみにしつつ、これからも“デモクラ筋”の筋トレ部員として、日々の筋トレを頑張っていきましょう!

(授業レポート 井上麻衣)