シブヤ大学

授業レポート

2019/9/10 UP

『再考』の日本酒・『再興』の日本酒・『最高』の日本酒

「みなさんは、日本酒にどのようなイメージを持っていますか?」
授業はそんな一言からスタートしました。

今回の先生は、日本酒専門Webメディア「SAKETIMES」や、日本酒ブランド「SAKE100」といった、様々な日本酒のスタートアップ・プロジェクトを手掛ける株式会社Clearで、輸出や広報を担当している古川理恵さん。バックパックを背負い、世界一周をしながら各国の酒蔵を取材していくうちに、日本酒の魅力と可能性に惹かれていったことが今の仕事につながったそうです。


日本酒と言えば、「年配の方や男性に好まれている」とか「日本固有の伝統的なお酒」といったイメージがありませんか? そして、なによりも「お酒が得意な人の飲み物」という印象が強い! お酒があまり飲めない私は、カクテルや果実酒、流行のクラフトビールを飲みながら、友人達が「粋」に日本酒を嗜む姿に、ひそかに憧れていました(笑) そして、今回の授業は、そんな日本酒を『再考』するキッカケとなったのです。


日本酒のイメージが変わる?! これが最新のトレンド。


そもそも、「日本酒をとりまく環境が、今どうなっているのか?」気になりますよね。

まず、日本酒業界の市場規模は年間で約6,100億円。これは、年代に関わらず、私たちに馴染み深い「映画業界」に近い規模とのことで、想像以上の大きさに驚きました!

一方、近年はカクテル、ワイン、ウィスキーといった様々な種類のお酒が人気を博し、個人の趣味趣向も多様化していったことで、現在では「清酒」の消費量が1975年のピーク時の3分の1にまでに減少。日本全国の酒蔵の経営状態も厳しく、過去16年間で1ヵ月あたり約3社が廃業に追い込まれている状況とのことでした。先日も東京23区で140年以上も酒造りを続けてきた酒蔵が廃業したとのニュースを目にして驚いたばかりなのですが、日本全国でこのような出来事が起こっているということを、あらためて感じました。


それでは、「斜陽産業」とも言われる日本酒産業に『再興』の可能性はあるのでしょうか? 参加者の多くが感じた疑問に対して、古川さんは8つのポイントから日本酒のイメージを変えてくれたのです。


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1. 日本(だけ)のお酒、じゃない?!


● 日本国内のみで製造しているイメージがあるが、約40以上の「SAKE(清酒)」の酒蔵が海外に存在しており、海外発のSAKEが毎年のように増えて続けている
● イギリスやアメリカ(一部の州)では、日本酒のホームブリュワリーも盛んに行われている
● ニューヨーク発の酒造「ブルックリン・クラ」や、ホームブリュワリーから始まり、近年、商業的に酒造りを開始した、ロンドン発の酒造「カンパイ・ロンドン」等が注目されている

2. 米、水、麹で造られたお酒、じゃない?!


● 伝統的に原料として使われてきた「米、水、麹」だけでなく、「柚子、レモン、生姜、山椒」といった副原料を加えた、新しい感覚の「ボタニカルSAKE」が登場
● 従来の「清酒」の枠を超えて、世界各国の様々な料理にも合う、新しい「日本酒」の考え方が広がっている

3. 酔いやすく、ない?!


● 一般的な日本酒のアルコール度数は多くの女性や若者に好まれているワインと同じ15%程度で、特別に酔いやすいお酒ということではない
● アルコール度数が5-8%程度のライトな日本酒も登場して、より幅広いユーザー層に受け入れられる様にラインナップが多彩になってきている

4. 伝統産業、じゃない?!


● M&Aや酒蔵の買収といった形で日本酒の製造・販売に関する様々な法規制を乗り越えながら、近年、様々な異業種から若者達が日本酒業界にチャレンジしている
● 「日本酒×テクノロジー(人工知能など)」といったITや先進技術が導入され、製造や流通、情報伝達などを強みとした日本酒ベンチャー企業が勢いを増している

5. 食中酒、じゃない?!


● シャンパンの様に「乾杯」の時にピッタリな日本酒や、食後のデザートと一緒に味わう日本酒など、様々なシーンで選択・楽しめる日本酒が次々と登場している

6. おじさんの飲み物、じゃない?!


● 日本酒の飲酒頻度が全体的に減少傾向にある中、20-30代の女性だけは飲む人が増加(週4回以上飲む人の割合)している(前年比: 約1.5-2倍
● ファッショナブルで可愛らしいラベルや、フルーティーで飲みやすい日本酒が登場するなど、若者や女性にも親しみの持てる日本酒が登場している

7. 難しく、ない?!


● ユーザーの嗜好に応じて人工知能が日本酒の好みを判定してくれるサービス(YUMMY SAKE)が登場。知識がなくても、多彩なラインナップから日本酒を楽しめるようになっている
● おしゃれな角打ち(試飲スペースのある酒屋)が登場し、初心者でも入りやすく選びやすいお店が増えている

8. 安いお酒、じゃない?!


● 入札形式での価格設定が開催され、市場価格で1本50万円のお酒が登場。1万円以上の日本酒のみで競うコンペティションが開催されている
● 高価格のお酒のみをプロデュースし販売する日本酒ブランドも登場している

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至高の品質で産業に革命を起こせ
~日本酒ブランドSAKE100の挑戦~


日本酒をとりまく環境がドラスティックに変化している一方、長い歴史を持つ日本酒業界は、伝統産業であるがゆえに業界や市場構造にいくつかの課題を持っているそうです。そのひとつが「安すぎることによる販売・収益増加機会の損出」。ワインなどに比べて日本酒の商品価格帯は幅が狭く、最上位のカテゴリーといわれる「純米大吟醸酒」でも5,000円以下のものがほとんどです。

もちろん、私たち消費者にとって「価格が安い(日常的に手に入れやすい)」というのは、とても大きなメリット。しかしながら、国内外の様々な高級料理店や消費者層から「味が良いのに、テーブルワイン並みの価格で驚く」と感想が漏れてしまう程の状況は、世界各国の多様なカルチャーやシチュエーションで楽しんでいただく為には「価格面でのバリエーションが不足している(多彩な商品の種類に比して、価格帯のバランスが良くない)」とも言え、また経営状態が厳しい全国の酒蔵の収益を改善する機会を奪ってしまってもいるそうです。


ある意味、歪な構造を持った日本酒業界に、2018年、新しい日本酒のブランドが誕生しました。「SAKE100」は日本酒の「ラグジュアリー・マーケット」を確立することで、本来の商品価値に見合った高いレベルで世界に認知・浸透させていくことに挑戦する、日本酒の新しいブランド。「100年誇れる1本を。」をテーマに、日本全国の蔵元と共同で、多様な価値をもつオリジナルの日本酒を開発・提供しています。


「日本酒の伝統や価値を敬い発展させること」「世界中の消費者に高品質の日本酒を広めていくこと」「日本酒業界に新しい風を吹き込むこと」。今回の授業では、そのような挑戦を続けるSAKE100が開発した、ある日本酒のストーリーが紹介されました。



日本酒の価値は「美味しい」だけなのか?
~お酒が持つストーリーを知る~


日本酒「深豊」は「豊かな大地を、未来へと繋ぐ純米酒」というコンセプトのもと、日本酒ブランドSAKE100が、「地域再興」「地域循環」という物語を付加して創り上げた日本酒の新しい姿。

「深豊」のストーリーはどのようなものなのでしょうか? 当日は、「深豊」をSAKE100と共同開発した石川県・奥能登の数馬酒造さんのオフィスと授業会場をインターネットで接続して、代表の数馬嘉一郎さんにWEBインタビュー。能登の「地域再興」の物語を、直接、会場の参加者に届けていただきました。


大学卒業後、ベンチャー系のコンサルティング会社に就職していた数馬さんは、先代でもあった父親から24歳という若さで蔵元を受け継ぐことになりました。(当時では日本で一番若い酒蔵の社長だったそう!)それまで、営業の最前線で活躍していた数馬さんにとって「酒造の社長」という新しい環境には本当に苦労したそうです。

その後、「地元である能登を豊かにしたい」「自分にできることはないか?」という想いから、「日本酒を通じた地域の復興」をテーマに、高校時代の同級生と一緒に能登に広がりつつあった「耕作放棄地」の開墾に挑むことになりました。4年の歳月をかけて、高齢化などによって米作りが継続できなくなった農家さんの土地を再生して酒米を栽培。日本酒ブランド「SAKE100」と出会い、「深豊」が誕生しました。そこから、「米作り」と「酒作り」を能登の豊かな地域の中で循環させていく仕組みが生まれていったのです。

「日本酒が能登の豊かな原風景を再生していく」。数馬さんのお話を聞いて、そんなイメージを頭に浮かべたのは、僕だけではなかったと思います。

授業では実際に「深豊」の味わいを体験していただいたのですが、参加者のみなさんからは「力強さとまろやかさが絶妙で、本当に美味しい!」「今まで飲んだ日本酒とは違った感覚で新鮮!」といった絶賛の声が続出。「豊かな自然の恵みに溢れた深い味わい」という「深豊」の特徴が存分に活かされた味の素晴らしさはもちろんですが、今回の授業を通して、その日本酒に込められたストーリーをブレンドしながら味わえたことも本当に大きかったと感じました。


古川さんと数馬さんが教えてくれた「日本酒の新しい価値」のお話はいかがでしたでしょうか? みなさんも、明日から日本酒を手にとる時に、少しだけ今回のお話を思い出してもらえたら嬉しいです。

それは、あなたにとっての日本酒の『最高』の楽しみ方につながるはずだから。

(レポート: 奥住 健一)