授業レポート
2019/7/31 UP
"ソーシャルバー"と考える
〜人と社会とのかかわり方〜
「価値のあるつながりが生まれる場所」
「いつでも安心して帰って来られる場所」
そんな港町のような場をつくりたい。
そんな思いから生まれたのが、ソーシャルバー、「PORTO(ポルト)」。
最大の特徴は、2人の共同オーナーはいるが、日替わりの店長が毎日交代でバーに立つこと。会社員、フリーランス、個人事業主など、様々な生き方・働き方の個性豊かな日替わり店長によって運営されています。
現在、新しいメディアが急速に普及する中で、人と人とが簡単につながれる社会になってきているけれども、その裏には所属する組織の関係性を浅いと感じてしまったり、自分の存在意義が見いだせず悩んでいたりする方もいるのではないでしょうか。
「PORTO」は、バーという空間を通して、運営する店長やそこに来るお客さんにとって、自分らしく居られる場や価値ある繋がりを生む場として機能しています。
今回は、「PORTO」共同オーナーの、喜屋武悠生さんと嶋田匠さんをお招きしました。ソーシャルバーの取り組みのお話をお伺いし、さらにそこから参加者の皆さんと一緒に、自分が求める人や社会とのつながりについて考えました。
第一部:トークセッション~「PORTO」と社会との関わり
トークセッションでは、主に「PORTO」のこれまでの道のりとお二人がつくりたい「関わり」についてお伺いしました。
そもそも、先生であるお二人の「PORTO」立ち上げの理由は、日々の生活では得られないつながりが生まれたり、自分らしく居られる「場づくり」をしたいと思ったためだそうです。
「PORTO」は、イタリア語で「港町」。
港町は、1人で海を旅する人たちが灯台を頼りにいつでも立ち寄れる場所であり、旅人たちの出会いが生まれる場所。「PORTO」という場所が人々にとって港町のような安心できる「居場所」になれるよう名付けたそうです。
「PORTO」開業までの道のりは長く、物件契約、ロゴの決定、資金調達のクラウドファンディング、店長集めと研修、オーナー2人ののぶつかり合いなど、今に至るまでをお話いただきました。
特に、印象的だった話は、クラウドファンディング時の嶋田さんの苦悩。資金の調達で、自分の身近な人に協力してもらうことで、相手に借りをつくり、「信頼残高」を使ってしまっているのではと悩んだそうです。そんな時に、喜屋武さんに言われた言葉が、「人から頼られるのって案外うれしいものだし、そうやって頼ったり、頼られたりを繰り返す中で、相手との関係性って深まっていくと思うんだよね、どれだけ貸し借りの交換ができたかじゃないのかな」というもの。
クラウドファンディングに協力してもらったり、相手のやりたいことを手伝ったり、そうした人と人との貸し借り=コミュニケーションの交換がより関係性を密にしていくのではないか。いかに、二人が人との関係性の質を大切にしているかがわかる、ほっこりとするエピソードで、私もあらためて人とのコミュニケーションの方法を考えさせられました。
そんなお二人が今後大切にしたいこと、それは、“居場所”と呼ばれる「関わり」を作っていくことだそうです。
お二人が考える居場所とは、2パターンあります。
1よりどころ 利害とは無関係に信頼しあえているつながり
2やくどころ 価値が提供できて、結果として承認されるつながり
この2つを両立させることではじめて、安心できる「居場所」を感じることができるそうです。
PORTOが果たす役割は、その居場所の提供です。
店長にとって、PORTOは自分の「らしさ」を発揮できたり、周囲のよりどころをあらためて確認できる、やりがいや安心を感じる場。店長のキャラクターがその空間をデザインし、お客さんと店長、お客さんとお客さんの間でコミュニケーションが生まれることで、その場にいる人にとってPORTOが居心地のよい場となります。
店長が、たまたま隣同士に座ったお客さんをお節介につなぐことは日常茶飯事。お客さんに他の店長を紹介することも多くあるそうです。店長をハブに出会いをコーディネートできるのがPORTOの強みです。
PORTOの店長の様に、自分の場を持てる人が増え、どんどん関係の輪が広がっていくこと、それが喜屋武さんと嶋田さんの目指すところです。
第ニ部:ワークショップ 自分と人/社会との関わりを整理する
第二部では、ワークシートを使って、参加者の皆さんと一緒に客観的に「自分と人/社会」との関わりを整理しました。
自分のコミュニティや個人との関わりを「やくどころ」と「よりどころ」、どこに当てはまるか分類し、最終的により自分が豊かになるための関わりを持てる方法を考え、その後は3人1組でグループを作り、グループ内で関係性の分類を発表し、おたがいに思ったことを小さなメモ紙に書いて渡します。
日常生活の中で、あらためて自分と周りとの関係性を見つめ直す機会ってなかなかないと思いますが、関係性を可視化することで、自分が求めている人や社会との関わり方が見えてきました。
最後の全体共有で出た意見を一部共有します。
・「やくどころ」に分類された職場の関係性を安心して相談できる「よりどころ」に変えていけるといいね
・私はもっと社会に「やくどころ」を感じたいから、今「よりどころ」にしている人たちと何かできたら面白い
・職場と家庭以外にも「サード・プレイス」を持つことが必要
など、様々な意見が出ました。「よりどころ」となる関係性だけでなく、「やくどころ」をもっと増やしていきたいと思う人が多いという印象でした。
このワークによって、自分の築きたい関係性が見えてきて、これからの自分の行動の第一歩となったのではないでしょうか。
生きていると必ず所属する何らかのコミュニティ。誰もがきっと無意識に「よりどころ」と「やくどころ」を満たせる「居場所」を求めているのではないでしょうか。「PORTO」の強みは、「店長という役割を与えることで自分の場を持ちやすくすること」と「店長をハブとしてお客さんのつながりの輪が広がること」なのではないでしょうか。ただ、すべての関係性づくりは、自分の行動次第。
まずは試しに「PORTO」に行ってみるなどして、はじめの一歩を踏み出してみませんか?
(ボランティアスタッフ:長谷川千華)