シブヤ大学

授業レポート

2019/1/10 UP

まさか私が?! “がん”
治療法も働き方も生き方も自分で決める

まさか私が?! “がん”
治療法も働き方も生き方も自分で決める

テニスコートでラリーをする夫婦。
夫「万が一のことなんだけど」
妻「万が一?」
(中略)
ナレーション「がんは、万が一じゃなく二分の一。」



このCMをご覧になったことがありますか。

画像はまさにCMの一部なのですが、
とても印象的なこのCMの最後には「公益財団法人日本対がん協会」という名が出てきます。

今回の授業の先生は、
その公益財団法人日本対がん協会でリレー・フォー・ライフという活動のご担当をされている是澤聡子先生と
一般社団法人CAN netで東京事務局長をしており、
ご自身も病気を経験されてきた小林真先生のお二方でした。
CAN netとは、がん・病気を持った方やそのご家族とスペシャリストたちをつなぐ活動をする団体です。

授業は、このCMを見た後、是澤先生のお話から始まりました。
ここで是澤先生から、キャンサー(がん)クイズ!
「年間何人の方が新たに「がん」と診断されているでしょう。」
皆さんはご存知でしょうか。

答えは、101万人だそうです。どれくらいの規模かというと、富山県や秋田県の人口と同じくらい。

日本は、「がん」大国であるというイメージを持つ方は多いと思うのですが、
年間で亡くなる人の約3割の死因が「がん」であり、1981年からずっと死因一位だそうです。

続いて、キャンサークイズ!
「がんに罹る原因は次のうちどれ?」
①生活習慣 ②感染 ③もって生まれた体質

答えは、すべてだそうです。
「え、感染?」と思われた方は私だけではないはず。
ここでいう「感染」は風邪のように人にうつるものではありません。
具体的にはどんなものかというと、
胃がんの原因となるヘリコバクター・ピロリ菌や、
肝がんの原因となるB型、C型肝炎ウィルスなどがあげられます。
これらは医療機関等で検査を受けられるそうなので、
気になっている方はこの機会に行ってみてください。
また③もって生まれた体質について、
遺伝性と考えられるがんは全体の5%程度しかないというのは個人的に驚きでした。

国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループは、がんから身を守る5つの健康習慣として、以下を挙げました。
①禁煙する
②食生活を見直す
③適正体重を維持する
④身体を動かす
⑤節酒する
この5つの健康習慣でがんになるリスクは低下すると科学的に証明されていますが、これらすべてを行ってもがんになるリスクは依然としてあります。

では、キャンサークイズ
「がんは早期発見で何割治るでしょうか。」

答えは、約9割。
そんなに!早期発見は大事ですね。
診断と治療の進歩で、がん全体で6割近く、早期がんであれば9割近くが治るようになりました。

がん細胞は、10~20年かけてようやく1㎝になります。
その後、1㎝から2㎝に成長するこの早期がんの期間にがん検診を受け、発見できれば良いのですが、この段階では自覚症状はありません。この1㎝から2㎝になる期間はなんと…1~2年だそうです。
これ以降はがん細胞が急激に増殖して進行がんとなり、自覚症状が現れます。
1~2年の周期で検診を受けることが大事なんですね。

早期発見は、身体的にも経済的にも負担を軽くします。
もし自分ががんになったら、どこにお金がかかるのか是澤先生が教えてくださいました。
(最近はがん細胞を通院で小さくしてから手術に臨むパターンが多いそうなので、その例でご紹介いただきました。)
まず、手術前。検査や抗がん剤はもちろん、入院中の日用品や、ウィッグ、免疫力が低下するので使い捨てマスク、病院への交通費等々。
次に、手術時。入院費用や差額ベッド代、病院の食事代。
そして、手術後。検査代、抗がん剤、診断書などの文書代、また副作用による痛みや浮腫などが起きる場合もありマッサージ代、併せてくつや専用の下着などの衣料品代等々。
普通の生活費にプラスでくるのがイタイところですよね。

では保険や補助金はどうなるの?という話に移るのですが、
ただでさえ自分の身体面や精神面で目一杯なのに、
自分(または家族)で、申請しなければいけなかったり、お金の受け取りまで時間があるためしばらくは立て替える必要があったりと、とても大変なことがわかりました。
この関連で、がん保険と医療保険の話(現在の治療と制度が合っているか等見直しが大切)や各種参考になるHP等のご紹介をいただきました。



では、もし、がんと診断されたら。
がんになっても人生は続きます。
だから、正しい情報を知ること、理解すること、自分で決めて行動をすることが大切です。
信頼できる情報源としては、国立がん研究センターのHPや日本対がん協会のHP、相談窓口等が挙がりました。

がんを治療していく上では、様々な痛みがあります。
身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛に加え、価値観の変化や死への恐怖等を含むスピリチュアルペインなど。
一般的に「緩和ケア」と聞くと、がんが進行してから行うイメージがありますが、
がんと診断されたそのときから、がんに対する治療と並行して行い、病気に伴う心と体の痛みを和らげるべく行っていいものだそうです。
また「標準治療」という言葉について、標準と聞くとより良い治療があるようなイメージですが、「現在利用できる最良の治療」を意味するので誤解しないようにとのお話がありました。
よく見かける、誤った情報として、
・がんが消えた・治った等のうたい文句(大手出版社等のものでも注意)
・保険がきかない自由診療(高額な治療費を求められるかも)
・複数の体験談が載っている(「体験談」「診断画像」は医療広告使用禁止)
これらは、よく注意すべきだそうです。

では改めて、もし、今、自分ががんになったら。
お仕事をされている方もいらっしゃいますよね。
実際に、がん罹患者の3人に1人は就労世代だそうです。
そして、32万5千人が治療しながら通院しています。
通院しながら働くとやはり働き方も影響を受けるようです。
なんと、治療前に約3割の方が退職してしまうそうです。
しかし、働くことは経済的にも社会とのつながりという意味で精神的にも助けになります。
だから、仕事を辞める前に、がん患者(サバイバー)向けの就労無料相談等を利用してほしいとのことでした。

次に、サバイバートークとして、小林先生のお話です。
小林先生は、20代でがんの手前である巨細胞腫、30代で白血病と、人生で二度にわたって大病をご経験されました。
病気で生活が変わり、実家に帰ろうかと悩んでいたところ、
お母様から、「元気な体に産めなくてごめん、でもあなた一人ならなんとか養えるから」というような言葉をもらったことで意識を変えたそうです。



小林先生は、診断うけてからも会社で働くべく、工夫をしました。
・会社への伝え方:医者からなんといわれたか、留意してほしい点、それでも働きたいという思いを伝える
・薬の飲み方:飲み忘れない、電車内で気持ち悪くならないよう出勤時間を調整して服薬のタイミングを考える
・体力をつける:走る(「健康な人でも、こんなに走らないでしょ」と言えるくらい)

仕事を続けるため、
・制度を知る:半休や時間休がとれるか等の会社の制度を知る
・風土をつくる:身近に病気がち、休みがちな人がいたら、支えあう雰囲気をつくる
・頼れる人をつくる:会社の様子を伝えたり、会社と自分の橋渡し役をしてくれたりするような人をつくる

がんは入院して治療するイメージの方が多いと思います。
だからまず、通院治療って驚きですよね。

通院となると仕事との並行も視野に入るので、
小林先生がお話しされていた、
「就労世代の3人に1人なら、知らないだけで絶対周りにがんの人はいる」という言葉ははっとさせられました。

そして、キャンサーギフト(がんになったから得られたこと)の話をしてくださいました。
小林先生は、「出来ない」の日々から「出来る」を意識する日々に変わったそうです。
また、「WHYではなくHOW」という言葉を教えてくれました。
病気に関しては、なぜ私が病気なのかではなく、どうやって苦難をのり越えるかが大事であるということだそうです。
「今を生きること」という言葉では、将来何が起こるかわからない不安より、今を大切にするというお話をいただきました。

逆に小林先生は、
「病気経験は未経験者にとってはスキルになる」といわれたことがあるそうです。
そういう発想が持てるようになりたいですね。

そんな小林先生からは最後、
「がん・病気になっても自分らしく生きられますか」という問いでしめていただきました。

是澤先生から身近にがん患者さんがいる方へ。
がん患者の方からお話を聴くと、
「いつも通りに接してくれることがありがたかった」という答えが多いこと、
家族は「第二の患者」という言葉があるくらいだから、
ご家族や身近な方はご本人を支えるためにも、
ご自身の心と体、生活を大切にしてほしいということ、
身近に困っている方がいたらぜひ、サポーターになってほしいことを話されました。



最後に、
突然がんの告知を受けた人々をマラソンランナーに見立て、
はじめは一人で走っていたのに、だんだんとランナーが集まっていき、
沿道にはそれぞれ応援する人々の姿があるという映像を紹介してくださいました。

『がん経験者は決して一人ではない。』

思わず涙がこぼれ、鼻をすする音、そして拍手の中で授業は終了しました。



(授業レポート:柴田麻友、写真:鴨志田和香奈)