シブヤ大学

授業レポート

2018/9/19 UP

武士が切り盛りするゲストハウス
ハンディキャップで「お・も・て・な・し」

今回の先生はなにを隠そう”武士”!
そう、紛れもなく”武士”なのであります。

武士の格好をして鎌倉にあるゲストハウス彩(イロドリ)を切り盛りしているのが“武士”あらため高野朋也さん。

「この格好で電車乗ってきました!」と笑顔で豪語する高野さん、いや、武士!

まずは高野さんが武士にいたるまでについて簡単にご紹介していきます。


農民から武士に成り上がりスタイル?

高野さんは富山県生まれ。少年時代は足が速くて、冗談を言うクラスの人気者でした。予備校時代の校長先生がおっしゃっていた、「自分の人生の主人公になれ! 脇役でも主人公でもいい。どんな人生でもいいからお前が主人公になれ!」という言葉に感銘を受け、大学進学を機に上京し、大学院に進学。米国に留学後、英語の教材作成に関わっていました。

ある日、看護師の母親からの「朋也はおじいいちゃん、おばあちゃんと接するのが好きだかたら、福祉が向いてるんじゃないか」という一言がきっかけで、グループホームに勤務しました。関わり方を変えることで、おじちゃん、おばあちゃんがどんどん元気になるのが面白くてやりがいを感じました。

そんな時、ある障がい者の方(Aさん)との印象的な出会いがありました。

Aさんは、脊髄性筋萎縮症という難病を抱えていて、人工呼吸器を装着していて、寝たきりの状態です。でも、指が少し動くので、自由にパソコンで動画作成したり、絵を描いたりもできます。

日本では障がい者の方は、特別支援学校に通うことになります。勉強を教えてくれる環境でもなく、友達もできず、一生テレビから流れる世界に行くことが出来ないということに危機感を覚えて、Aさんは友達と一緒の高校に転入しました。そして現在、Aさんは弁護士になるため勉強中です。

やりたいことをどんどん実現していくAさんから、ある日「彼女が欲しい」と高野さんに相談がありました。そこで、高野さんは、障がい者も健常者も関係のないユニバーサルな合コンを開催して、出会いの場を作りました。(ちなみにその合コンは今では計27回実施して、結婚1組カップル9組の実績に...!)

そして、Aさんの合コンのセッティングから始まった活動がきっかけで、どんどん思いがけない方向に広がっていきました。


i-link-uの活動について

高野さんが現在手がけている事業は大きく分けて3つあります。

○観光・宿泊
○教育
○恋愛・婚活

これら3本の柱の事業を主軸としたi-link-uという株式会社を設立して、「多様性は可能性である」を合言葉に、様々なユニバーサルなチャレンジをしています。

合コンを開催していると楽しいけど、本気で取り組むと気づいたことがたくさんあって、楽しいことだけしていても埒があかないと思い、事業にしました!

また、ゲストハウスは鎌倉にバリアフリーのゲストハウスを開業して、地域の架け橋になっています。また、ハンディキャップのある方がチャレンジャーになれる場としても活かされています。


ユニバーサルなゲストハウス

2017年の夏にゲストハウス彩はオープンしました。
"みんなでみんなの場をつくる"をコンセプトに、障がい者の方と「専門家」として関わるのではなく、楽しいと思うことに一緒に関わっていると、「専門家」よりも彼らのやりたいことが分かってます。

働きたい人が働けていないという現状。実際に障がい者手帳を持っている方のうち5%しか働けていない。原因作っているのは何か。。。

少しでも自分のできることで解決したい。

ゲストハウス彩りで目指すものは、仕事ができる能力を高め、マインドセットすること。自己目標を作るのはとても大切なことなのです。

鎌倉で住む働く。当初は障がい者の方が住むシェアハウスの立ち上げを考えていましたが、ゲストハウスを運用することで、外の人に泊まりに来てもらえれば、お金が回る。障がい者の方が一生懸命働けば報われるような循環を作りたいという想いから、ゲストハウスをオープンしました。

ゲストハウスといっても業務内容は多岐にわたり、一筋縄ではいかないもの。
もちろん接客もあるので、迎える側も成長しないといけません。働く人の特性にマッチした業務を割り振っています。

海外からのゲストは不安を持って日本を旅行している方もたくさんいます。そんなゲストと「障がい者」ではなく「旅人」として感動を共有してもらいたい。

また、ゲストハウス彩には、ユニバーサルルームがあります。築90年の古民家ですが、一階はバリアフリー仕様になっていますが、車椅子の方も二階に登ります。登って最後おんぶします。「バリアフリーはとことんやるんじゃなく、そこに人をかませると共生が生まれる」と高野さんは言います。

また、鎌倉は土地柄が魅力的なうえ観光資源があり、人と人とが交わるところなので"おもてなし"がたくさんあります。
お客さんの構成は車椅子の方が7%、日本人の方が30%、海外の方が60%ほどです。


みんなで作るゲストハウス

ゲストハウス彩はみんなで作るゲストハウスです。建物も古民家をご近所さんと一緒にDIY!
養護学校の方等色々な方の協力を経て、新聞にも取り上げられて、支えてくれる人も自然と増えてきました。

オープンした今でも高校生、理学療法士、お母さん、アルバイト等々、約30名の方々が関わっています。訪れると障がいのある人もどんな人でも一緒に飲んだり話したりできる、"人"で好きになれるゲストハウスです。


障がいのある人もそうでない人も

障がいのある人もどんな人も働くゲストハウス彩。ときにはゲストからお金をいただかないままチェックアウトしてしまうなんてことも。。。

でも大丈夫!みんなでチェックしていこう!冊子作って業務内容をシェアしながら運用する等の工夫をします。

お客さんが何を求めているのか。
どうしたら喜んでもらえるのか。
常に考えながら働いています。

例えば、車椅子の人の移動手段はずっと車椅子なのかというとそうではなく、普段は這いずって動くこともあるので、車椅子に合わせたバリアフリー仕様にすると、かえって使いづらかったりします。完璧なものはないので、利用者さんの意見を取り入れ、色々変えていって"成長するバリアフリー"を目指しています。

吃音症の方には、絵本の読み聞かせしてもらっています。通常はさらっと言えることがモゴモゴと言うので、逆に物語が伝わってくることも。知っていますか? 吃音症の人同士で話すと吃音にならないんですよ。知らない世界を教えてくれるのは本じゃなくて、体験できる場所だったりするのです。

ゲストハウス彩では、このように、障がい者とそうでない人とのギャップを埋めるような取り組みをしています。(今後は飲食業等の事業展開も考えているみたいですよ)


で、なんで武士なの?

これには諸説あるみたいですが、武士いわく”keep different” をモットーにしているからです。違い続けることを大切にしたいという想いの表れだとか。
また、武士の恰好をしていると、道行く人から話しかけてもらえることも多くなり、例えば車椅子の方と散歩していても、武士に視線が集まってくるんだとか。

ちなみに武士のお召し物は自分で作ったみたいです。


武士が語る"おもてなし"とは?

最後に武士が"おもてなし"について語ってくれました。

「今、ゲストハウスのスタッフが鎌倉商工会議所主催のおもてなし講座受けてるんですけど、それもおもてなしです(笑)相手がこうして欲しいと思うそれ以上のことを想像して提供することによって、相手に嬉しいと感じてもらえる。"いいことをしている"とか"人のため"だとか、そんなポーズはいらなくて、自分のあり方を示してさらけ出せることこそがおもてなしなんだと思います」

うーん。。。おもてなしって奥が深い。でも、実際おもてなしってむずかしいですよね。ついつい押し付けがましくなっちゃったりして、誰のためのおもてなしなのか考えることがあります。

ゲストハウス彩では、きっと心に染み入るおもてなしが待ってますよ!鎌倉にお立ち寄りの際は是非◎

(レポート:中村 隆、写真:片山朱実)