授業レポート

2018/2/8 UP

ひとに伝える~朗読の基礎トレーニング

晴天の土曜日。
恵比寿教育会館の音楽室に集まったのは、朗読やコミュニケーションに興味がある老若男女。いずれも本日はじめましての人ばかりで、シブヤ大学がはじめて、という方も実に半数以上を占めるフレッシュな顔ぶれとなりました。

それだけに、一様にすこし固い面持ち。
果たして、どんな人たちが集まっているのか。全くの初心者には難しいのではないか…
そんな会場の気分をほぐすように、明るい笑顔で登場したのは、本日の講師である上田あゆみ先生。



日本朗読検定協会の認定講師である上田先生は学生時代に俳優を経験。その後、広告会社に勤務。
その中で「伝える仕事」の楽しさに目覚め、将来、朗読で人の役に立ちたいと勉強を始め、日本朗読検定協会認定講師の資格を前職在職中に取得し、現在は、第二のキャリアをスタートしています。
小さい頃から声を出して本を読むことが大好きで、朗読をしてほめられるのが嬉しかったという先生。

先ずは声を出すことで、緊張をほぐしましょう、ということでお隣の方とのご挨拶からスタート。すこし緊張感のあった空気も和み、声を出すことの効果が分かります。



その後は、シブヤ大学の参加有無や朗読の経験の程度を確認。今回は朗読の経験者も一定数いながら、はじめてや初心者の方もかなり多いよう。

ここからが、授業本番です。
今回の授業は、一日で一通り基礎を学ぶことができるよう、先生が特別に企画した三部構成の授業となりました。
第一部が朗読の前の下準備として座学と発声のウォーミングアップ。第二部は短文を朗読。そして第三部は群読を体験です。

第一部 伝えること、伝わること

朗読をするということは、聴き手に聞きやすく、分かりやすく、作品のイメージや気持ちを伝えるということ。朗読をするとき、実はその下準備に多くの時間を費やしているそうです。

1、朗読する文章を読み込む
読み仮名、アクセント、文章の時代背景の理解、登場人物の服装や性格、舞台となっている所の様子、そして複数の登場人物が居る際は、その関係性を読み解く等々— これらのことを事前に確認し、理解し、時には調査することが朗読をするうえで重要とのこと。

2、声を届けるための基本を理解する
次に、聴き手にとって聞きやすく伝わりやすい声作りをします。

—ロングトーンの練習
男性は15秒、女性は12秒以上を目指してお腹から安定した響く声を出せるよう練習します。長く深く、いっぱいのところまで息を吸い込んでから、腹式呼吸で安定した声を出します。この日は20秒以上声が続いている方もいらっしゃいました。



—母音の口の開きかた
アメリカでは、小さい頃に学校で発音を習うそうです。というのも、例えばa一文字にもいくつかの発音があり、発音によって、単語の意味が変わるからだとか。
日本では特にそういった授業がないので、もう一度発音の仕方をみなおす良い機会となったのではないでしょうか。

—アクセントとイントネーション(抑揚)


大きく分けて4つのアクセントのパターンがあります。(平板型/頭高型/中高型/尾高型)
抑揚は文頭が高く、徐々に下がっていくのが日本語の標準語の音の高低だそうですが、古代日本の和歌文化の遺伝子が染み付いているのか、しゃくりあげてしまう癖が往々にしてあるそうです。

−鼻濁音
ガギグゲゴを発音する際、鼻の奥に響くような発音するのですが、やりにくい場合は頭に「ん」をいれて発音すると出しやすいそうです。

—母音の無声化
キク(菊)のキ、タシカメル(確かめる)のシ等、母音を口構えだけ残して声帯を振動させず息だけで発音する現象を母音の無声化と言うそうです。これは、喉元に手をあて、振動の有無で判断します。


3、滑舌の練習
いわゆる早口言葉を、滑舌の練習としてみんなで読み上げます。
これまで発声練習やアクセントの練習で声を出してきたとはいえ、いざとなるとなかなか思うように舌がまわらないもの。そこで先生が取り出したのは、一膳の割り箸です。
この割り箸を口に挟み、歯でしっかり固定。ほとんど唇も舌も動かないのですが、この状態で早口言葉にチャレンジという、かなりハードな練習を行います。

 
苦心しながら早口言葉を読み上げる生徒のみなさん…
ところが割り箸を外して再度チャレンジしてみると…?



舌がまわりやすくなりました!


第二部 朗読してみよう

ここまで学んだこと、そして練習したことを踏まえて、ついに朗読にはいります。
先生からのアドバイスは、朗読を楽しむこと。身体に力が入りすぎてはダメなので、膝も背も楽な状態にすること、とのこと。
座るときは、浅く腰掛け足をすこし開く形が良いのだとか。

この日練習課題として先生が準備されたのは3つの小説の抜粋。
芥川龍之介の「鼻」
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」
堀辰雄の「繪はがき」

いずれも文学の金字塔を担う名作中の名作。とはいえ実際の状況や環境、背景を覚えているかというと心もとないのが実際のところ。そこで先生より、簡単な情景描写や登場人物の説明のうえ、背景を踏まえてどのように表現するかつくりこむことになります。実際の朗読を行う際は、この背景の読み込みや調査からスタートすることになります。



先ずは黙読からスタート。このときに、どのように間をとるのか、読むテンポやどこで区切るか強調するかを考えます。



先生からは、気を付けるべき点の説明があり、前から順番に一人ずつ朗読の連取を行います。都度先生からはフィードバックと指導があり、他の生徒の方々は一様に神妙な面持ちでノートをとる姿も見られました。

大切なのは、間をとること。聴き手が聞いた言葉を理解するまでに0.4秒必要だとのこと。それに感情や背景描写をのせて伝えるということは、想像以上に間が必要だということです。
また、朗読会では、好きだから読むというよりは、自分の声質やタイプにあった物語を選んで読むことも大切なことだそうです。


 
第三部 群読

短い休憩をはさんで最後の部がスタート。
とにかく驚くのが、ここまですでにスタートしてから2時間以上が経過しているなか、先生も生徒のみなさんも、とにかく集中力が途切れず、スタートしたときと変わらぬモチベーションとエネルギーを続けていること。
先生の努力と生徒のみなさまの、すこしでも学びたいというきもちが強く現れているかのようでした。


最後の部では、宮沢賢治の雨ニモマケズを群読します。
教室を縦割りに3つのグループに分け、それぞれ先生が割り振った朗読パートをグループ毎に朗読していきます。
十人十色の声があわさり、ひとつの声となり、迫力を増した声と声がひとつの詩を読み上げる群読は、ここまでの2時間半をともにしてきた連帯感が築き上げたものかもしれません。

そして本日の最後は、先生の朗読。

 
お話の舞台が目の前に実際に見えるかのような、情感にあふれる先生の朗読に、生徒のみなさんもうっとりと聴きほれていました。

同じ文章を読んでいても、人それぞれの解釈があり、声の使い方、聴き手へのアプローチが異なります。ひとつのお話を朗読していても、10人の朗読者がいれば、10通りの朗読の仕方があるということ。そこに朗読の面白さと奥深さがあるのではないかと感じました。

そして先生の言葉で特に印象的だったのが、朗読はコミュニケーションだということ。
漠然と、朗読とは読み手の裁量で進めていくもの と考えていましたが、実際は朗読をしながら、聴き手の様子を敏感に感じ取り、読み方やアプローチを変えていくのだそうです。そう考えると、朗読とは最も距離感の近い対話型パフォーマンスなのかもしれませんね。 


もちろんこの朗読スキルは日常のコミュニケーションにも活きてくるものだそうです。
日頃コミュニケーションに関わるお仕事をされている方はもちろん、コミュニケーションに悩んでいるかた、よりスキルアップしたい方、朗読でコミュニケーション力アップを目指してみてはいかがでしょうか。



みなさま長丁場の授業お疲れさまでした!


(レポート:竹内七重、写真:中村隆)