シブヤ大学

授業レポート

2017/1/6 UP

子育てのスタートをみんなで支えよう
〜テクノロジーとコミュニティで私たちの子育てを変える〜

秋もすっかり深かまり、街行く人もすっかり冬の装いとなってきましたね。
そんな中、去る11月16日に『子育てのスタートをみんなで支えよう〜テクノロジーとコミュニティで私たちの子育てを変える〜』が行われました。参加者は普段と比べると少人数ながらも、中身が濃く、参加者全員が授業の内容を自分ゴト化して熱心に聞き入る「熱い」授業となりました!



今回の先生は、テクノロジーとコミュニティで出産後のお母さんを支えるための事業を展開されているNPO法人マドレボニータ理事の林理恵さんです。


授業は先生と参加者の皆さんの15秒自己紹介から和やかにスタート。結婚を控えているカップル、女性や妊婦さんのほか、男性の姿もあり、皆さんのテーマへの関心の高さが伺えました。


この時点で多かった声が、
「出産はある程度イメージがつくけれど、産後の体や生活に関してはイメージがわかない」
「産後のサポートって結局何が必要なのか」
というものでした。
確かに出産に関しては様々な逸話や情報がありますが、産後の体と心にはいったいどんな変化が起こるのか、何を準備すれば良いのかについては正しい情報が少ない気がします。林さん自身、お二人のお子さんのお母さんでいらっしゃいますが、出産されたときは産後に心身がどう変化するのかを知らず、且つ出産後すぐに東日本大震災が起こったことで非常に不安な日々を過ごされたそうです。そんな中で参加したマドレボニータの教室の先生の一言に救われたのだそうです。先生の生き方を大きく変えた「産後のリアル」とはいったいどんなものなのでしょうか。

授業は二部構成となっており、前半は「産後のリアル」についてのレクチャーから始まりました。日本の母子保健には、「産後の母親」へのケアの観点が欠けている上に、男女ともに産後に対する事前知識がないため、とても辛い産後を過ごす夫婦が少なくないようです。


「産後の三大危機」とされる
-  お母さんの産後うつ
-  夫婦の不和
-  乳児虐待
を防いで、健やかな産後を過ごすためにはどうすれば良いのか。
そのためには、
-  出産後についての知識を得ること
-  育児のスタートを助け合う方法を考えること
が必要だそうです。

まず一つ目の「出産についての知識を得ること」について。
産後を3つの時期に分けて、産後のお母さんの心身について説明して下さいました。

産後8週間は産褥期(さんじょくき)といい、養生に徹すべき時期だそうです。産後の体は全治1ヶ月くらいの怪我を負っているのと同じくらいで、また急激なホルモン変化によって心に大きな影響が出るため、ご家族のほかに外部のサポートも使ってケアをすべき時とのこと。産後3〜6ヶ月は産後リハビリ期といい、心身をリハビリして1人の人間としてのアイデンティティを立て直す時期だそうです。出産した女性は子供が生まれると「○○ちゃんのお母さん」と呼ばれることが多くなり、自分を主語にして話すことが激減してしまうそう。生きていく上で「自分」を取り戻すことが非常に大切なのだとレクチャーを聞きながら痛感しました。産後7ヶ月以降は社会復帰準備期にあたり、「具体的に自分がどう生きていきたいのか」をパートナーとお互いにじっくり話すことが重要だそうです。



出産後は誰もが例外なく心身にダメージを負うため、上記のように「どんな変化が心身に起こるのか」ということと、それに基づいて「どんな準備をすべきか」ということを妊娠中からしっかりと考えて備えておくことが大切なのだと思いました。

次に、育児のスタートを助け合う方法を考えることについてです。産後に大ダメージを受けた心身で、周りのサポートなく育児を始めるのは大変なこと。だからこそ、地域に助け合える仲間を持つことやコミュニティに参加することが必要だそうです。これも妊娠中からの準備が必要なことですよね。マドレボニータは、産後リハビリ期のお母さんに向けた教室を展開されており、たくさんのお母さんの心身のサポートとコミュニティ参加を助けています。まさに日本の母子保健のブラックホールになっている産後のお母さんのサポートを展開されていることは、とても意義深いことだと思いました。



授業の後半はグループになって簡単な話し合いを行いました。
マドレボニータは、まさにテクノロジーとコミュニティで子育てを支えるべく「ファミリースタート」というアプリの開発・運営も行っておられます。監修には産婦人科医、小児科医、助産師も参加され、医学的な見地をもとに妊娠中や産後に起こる心身の変化についての情報が提供されているそうで、とても安心感があります。アプリを触ってみた後に、グループで『テクノロジーとコミュニティで育児のスタートを支え合うには?』というお題について話し合いを行いました。
いろいろな意見が出ましたが、大切なのはアプリやテクノロジーはあくまで「コミュニケーションの媒介ツール」であり、利用する前提として生身の人間のコミュニケーションが重要だということです。家事分担をどうするか、何をどう助けて欲しいのか…自分の思いを言葉にしてきちんと向き合って話し合うことー正しい知識とこういったコミュニケーションがあって初めてテクノロジーは力を発揮するのだと思いました。

知らなかったけれど知っておくべき大切なことを知ることが出来た、そんな意義深い授業でした。お忙しい中参加頂いた皆さん、ありがとうございました!

(レポート:裏川千智、写真:榎本善晃)