シブヤ大学

授業レポート

2015/3/24 UP

女性からだ会議


―未来の可能性を守るために、今、自分ができること―


この日の先生は、一般社団法人シンクパール代表理事の難波美智代さん。「女性からだ会議」と題した授業は、女性が安心して結婚・妊娠・出産を選択できるような社会をつくるにはどうしたらいいかを考える機会となりました。


前半は難波さんのお話を聴き、後半は参加者のみなさん同士でグループワークを行いました。


 


■「健康に生まれる」のは当たり前ではない


授業のはじめに、まず8分ほどの映像を見ました。それは「生まれる」というドキュメンタリー映画の医療機関向けDVDの一部。不妊治療と流産を乗り越えた後、出産に臨むある夫婦の映像でした。身近に母子ともに健康に出産を終える人が多いと、それが当たり前で普通のことのように感じます。でも、この映像を見て、生を受ける、未来があるということが大変で、尊くて、だからこそ喜びなんだなぁと思いました。シンクパールが開催する勉強会では、毎回初めにこの映像を見ているそうです。


 


■シンクパール立ち上げのきっかけ


出産以外では入院したことがなく、ずっと自分は健康だと思っていたという難波さん。それが突然、たまたま行った検診で子宮頸がんが見つかります。2009年10月のことでした。翌月の誕生日に病気のことをブログに書いたところ、多くの励ましと共に「実は私も…」という女性たちからのメッセージがたくさん届いたそうです。その時、身近な病気であるにも関わらず、デリケートな婦人科系疾患であるために世の中に情報や教育が行き届きづらい、ということに問題意識をもった難波さんは、2009年12月にシンクパールを立ち上げました。女性たちが当たり前に病気のリスクを知り、自分のライフプランを考える機会を作りたいと思ったのです。 


私は、病気がわかったわずか2か月後に団体を立ち上げたという事実に驚きました。自分だったら打ちひしがれてしばらく内に籠ってしまいそう…


難波さんも病気を理解し受け止めるまでは時間がかかったと話していました。しかし、ブログで病気のことを発信したり、団体を立ち上げたり、前向きな行動を起こすことで気持ちも前向きになっていったそうです


 


■子宮頸がんとはどんな病気?


授業では、そもそも子宮頸がんとはどんな病気なのか?ということも学びました。


他のがんは老化に伴って発症するケースが多いのに対し、子宮頸がんは若い人に増えています。20代から増加がみられ、そのピークは30代です。発症の原因はヒトパピローマウイルス(HPV)への感染。このHPVはセックスによって感染します。セックスの経験がある女性の80%は感染したことがあると言われていますが、そのほとんどが免疫力等で排除されます。ウイルスが排除されずに感染が長期化した場合に子宮頸がんになりますが、感染から発症までは数年から十数年かかります。


■「予防する」という意識を持とう


このように、原因が解明されている子宮頸がんは、発症する前に見つけることができる唯一のがんです。しかし、検診を受けている女性の割合は、欧米諸国では約80%、隣国の韓国は65%であるのに対し、日本は25%程度に止まっています。手厚い医療保険制度がある日本では病気になってから病院に行く人が多く、「症状が出る前に予防する」という意識が低いのかもしれません。では、どうすれば検診率が高くなるのでしょうか。そのことを多くの人と考えるためにも、シンクパールでは定期的に勉強会を開催しています。また、2017年に子宮がん検診受診率50%の社会を目指し、「+700万人検診に行こう!」という呼びかけ運動も行っています。


 


■グループワーク


授業の後半では、5・6人のグループになって


「日本の女性が定期的に検診に行くようにするために、自分は何ができるだろう?」ということを考えてみました。


私が参加したグループでは、「婦人科の病院で何をするのかよくわからないからこわい」「今日の授業で聞くまで、検診に行く必要性を知らなかった」「根拠のないうわさに安心してしまう(正しい情報を知らない)」「忙しいと優先順位が下がってしまう」という声が上がりました。そんな現状を変えるために自分ができることとして、次の意見が出ました。


○身近な人に自分が検診に行った体験、得た情報を具体的に話す。


○いい病院を見つけたら、facebook等で友達と情報をシェアする。
 


そしてこんな仕組みやサービスがあったら検診に行きやすくなる、という案として


○女性客の多い商業施設内に、婦人科検診ができる場所をつくる。


○映画館のレディースデイに、映画の予告編等と一緒に検診のよびかけCMを流す。


○検診割引デイをつくる。


という案も出ました。


 


 正しい情報を広めることと、検診に行きやすいしくみの両方が必要なのでしょうね。シンクパールでも、


○ミスユニバースの候補者たちと勉強会をすることによって候補者自身のPRになる。


○勉強会に参加することが学生の単位取得につながる。


というように、対象者のメリットに置き換える工夫等もしているそうです。


 


■「今日この場で話せたことには意味がある」


 これは授業の最後に難波さんが言っていた言葉です。


「今日知った情報を3人に伝える。それだけでも、それを15回繰り返すと700万人の人に伝えることができます。」


 デリケートな話題は、信頼できる人でないとなかなか話しづらいものです。だからこそ、正しい情報を大切な人に伝える。それは些細なことに見えて着実な一歩なのだと思います。


いつも事態を前向きにとらえて進んでいる難波さんのお話をきいて、自分も現実を受け止めてできることをやろう、という気持ちになりました。


また、この日の参加者はほぼ女性でしたが、男性も数名いらっしゃいました。出産するのは女性ですが、子を持ち、家庭を築くのは男性も一緒です。男女問わず、婦人科系疾患の話題が身近になれば安心して出産を選択できる人が増えるのだろうな、と思うとともに、もうすでに今日の授業に男性参加者がいる日本も捨てたもんじゃない!と心強く感じました。


 


(レポート:中野恵里香)