シブヤ大学

授業レポート

2015/1/15 UP

筆記具考現学 ~文房具好き集まれ!〜

教室に入ると、机にはたくさんの文房具と紙が用意されていました。
そして、奥の机にはさらにバラエティーに富んだ筆記具や関連書籍やプリントがたくさん。

文房具好きには、この光景を見ただけでワクワクが止まりません!

わぁ、と目を輝かせていると、
穏やかな目をしたハンズのエプロンを着た男性が
ニコニコしながら、同じく目を輝かせて、さっそく文房具の説明をしてくれました。

この方こそ、今回の先生、市川勝朗さん。
入社34年目、現在では社内講師も務めてらっしゃる達人です。

授業は前半・後半・手作りカード制作の3部構成で
以下の流れで開催されました。

---【授業の流れ】-------------------------------------------
   〈前半〉
    ・インクの基礎知識
    ・机の上にある各種筆記具を使ってみよう!

   〈後半〉
    ・万年筆の魅力(書く・見る・持つ)
     ~自分だけの万年筆を作ってみよう!~

   〈手作りカード制作〉
    ・カリグラフィーとは
    ・パラレルペンでカリグラフィーに挑戦!
    ・マスキングテープ・クラフトパンチ・パラレルペンで
     オリジナルの手作りカードを作ってみよう!
------------------------------------------------------------
それでは、さっそく前半授業からレポートしていきます!

◆ インクの基礎知識
 みなさん、インクに油性・水性があるのは既にご存知だと思います。
 それでは、次の質問に自信を持って答えられますか?

 「コピー用紙などに書きました。
  インクが乾いた後、筆跡が水に濡れるとにじむのは、
  油性インク? それとも 水性インク?」

 答えは・・・、

 「油性は、にじみません。水性は、にじむインクとにじまないインクがあります。」

 えー!?そんな、そんな。にじんだ水性インクを見たことあるぞ?
 そんな筈はない。とモヤモヤしていると、水性インクで書いたハガキを
 2枚、水がたっぷり入った桶に入れる先生。

 桶からハガキを取り出すと・・・、2枚のうち1枚は、なんと、まったくにじんでいません!
 本当だ、びっくり!
 なんでだろう??とさらにモヤモヤしていると、先生が解説をしてくれました。

 『このハガキに書いたのは、水性顔料インクだからです。
  水性インクには、水性染料インクと水性顔料インクの2種類があって、
  にじむのは、水性染料インク、
  にじまないのは、水性顔料インクです。
  だから、水性でも顔料を使っているものは耐水性なのです。

  まとめると、
   油性インク : にじまない
   水性インク <水性顔料インク>:にじまない
            <水性染料インク>:にじむ ※注:例外もあります。   となります。』

 なるほどー。私がにじんだのを見たことがあるインクは、
 水性染料インクだったのですね。

 文房具のパッケージには以下のような表示があります。
 「水性:耐水性」
 「染料インキ」
 「顔料インキ」
 普段は、ここまで気にしてパッケージを見ることはありませんでしたが、
 この知識があれば、文房具を選ぶ時にとっても参考になりそうです。

 その他にも、実演で油性インクと水性インクの違いや特徴を説明してくださり、
 布染めには粒子が細かく布に染みやすい染料が良いということや、紙に書いたもので耐光性を求めるならば、顔料インクが良い、など実用的な情報を交えながらお話していただき、インクの奥の深さを感じました。
 用途によって、使い分ければ良いものができあがりそうです。分からないときは店員さんに聞いてみましょう!

 <まとめ>
 水性染料インク
 ・乾いた後は、溶ける ・色褪せする ・マーカーの場合は裏うつりしない ・ツルツルした面には書けない
  ※筆ペンの場合サラサラ書きやすい!
 水性顔料インク
 ・乾いた後は、溶けない(耐水性) ・色褪せしない(耐光性)   ・マーカーの場合は裏うつりしない
 ・ツルツルした面には書きにくい(乾燥が遅い) ・ツルツルした面では、禿げやすい(固着力が弱い)
  ※筆ペンで絵(輪郭線)を描く場合、にじみにくいので、初心者の方におススメ!
  ※マーカーの場合、にじみにくいので色紙にも向いています。

 油性染料インク
 ・耐水性 ・色褪せしやすい ・マーカーの場合は裏うつりする ・ツルツルした面にも書ける ・固着力が強い
 油性顔料インク
 ・耐水性 ・耐光性 ・マーカーの場合は裏うつりする ・・ツルツルした面にも書ける ・固着力が強い
  ※ボールペンの場合、水性のほうが、裏うつりしやすい傾向があります。
  ※注:例外もあります。

◆ 机の上にある各種筆記具を使ってみよう!
 インクの基礎知識を学んだあとは、机の上にある各種筆記具で試し書きです。

 40画で芯が1回転するシャープペン、0.2ミリ芯の極細シャープペン、芯が折れそうになると、芯をガッ!とガードしてくれるシャープペン、フリクションペンは60°以上の摩擦熱でインクが透明になる。
 濡れた面でも書ける油性マーカーやクラフトテープでも書けるコイピタインク、
 洗濯にもある程度は耐えられ、にじみ難いお名前ペン・・・等々

 こんなに多種多様な筆記具があるんだ、と驚きました。
 少し前までには店頭にもなかったようなハイテク文房具がいっぱいです。
 用途によって使い分けて、筆記具名人を目指したいところ。

 みなさん、持参した筆記具も取り出して改めて眺めてみたり、
 試してみたり、比較してみたり。

 普段使っている筆記具の新しい一面が見え、より愛着が湧いたかもしれません。
 どんなにペーパーレス化が進んでも、ヒトの気持ちが表れる文房具が廃れることはないだろうという想い
 心に沁みました。

 休憩後、後半授業がスタートです。

◆万年筆の魅力(書く・見る・持つ)
  ~自分だけの万年筆を作ってみよう!~

 休憩後、1人1人に組み立て式の透明万年筆キットが配られ、
 先生の説明に沿って、組み立て書を見ながら万年筆を作っていきました。
 こうして万年筆を部品から組み立てることで、ペン部分の構成やインクが
 どうやってペン先にまで浸透するのかが良く分かり、仕組みが理解できたように思います。

 完成直後、最初はインクの出が少し薄いのですが、書いていく中で少しずつ本来の濃さとなります。
 その過程も手作りならではの楽しみ。
 本来の濃さになるまで、誕生を待ちわびる親の様な気持ちで文字を書き続けます。

 そんな中、先生から力を入れずに文字が書ける万年筆を見分ける1つの方法を教わりました。
 書き手の親指と人差し指だけで万年筆を挟んだまま、手のひらを返し手の甲を下にして
 紙にペンを当て滑らせるように線を書きます。
 これで、きちんとインクが出るかを見るのがポイント。
 ハンズの店員さんも、これをやっているお客様を見ると、むむできるな、と思うそうです。
 これは是非お店でやってみたい試し書きですね。

 手作り万年筆で万年筆を身近に感じた後、先生から万年筆の熱い講義が始まりました。
 万年筆とインクはメーカーと統一した方が相性が良いことや、顔料インクを使用する際には顔料対応であるか確認する必要があります。
 はたまた直接日光が当たらないように専用の冷蔵庫を持ってらっしゃる方もいるという事や、
 試し書きには「永」(トメ・ハネ・ハライが全て揃っている漢字)がおススメ、海外メーカーと日本メーカーの違い、
 紙と万年筆の相性、万年筆のデザインや値段、等々、テキストにもないお話も実に豊富。
 インクの講義を聴いていたからこそ分かる理解もあり、授業の構成にも納得がいきました。
 お祝いでもらう事も多い万年筆。引き出しの奥で眠っていたら、再度使い始めてみると良いかもしれません。
 私もさっそくお願いしようと思います!

 <まとめ>
  ・万年筆の魅力
    -筆圧が不要
    -文字に表情が出る
    -軸のバリエーションが豊富
    -ペン先の柄も精巧なモノがあり、持つ方のこだわりが出る。
    -インクの種類が豊富
  ・万年筆のインク部の型式(インクの保有量で型が違います)
    吸入式 > コンバーター > カートリッジ  ※当てはまらない物もあります。
  ・こまめな洗浄が大切です!
    -顔料インクは毎日使用して、こまめに洗浄を。
    -染料インクは色を変えなくても半年に1回は洗浄しましょう。
  ・あなただけの万年筆になる理由
    -人の書きグセにあったペン先に変わるため、自分だけの筆記具に「育ち」ます。
      他人に貸してしまうと、そのせっかく出来た書きグセが崩れてしまう可能性も・・・。
      貸して、とお願いされたら、筆圧弱めに書いてね、とさりげなーくお願いすると良いでしょう。
  ・ペン先の素材と筆圧の関係
    -筆圧の強い人 : ステンレスのペン先(硬い)がお勧めです。
    -筆圧の弱い人 : 金のペン先(柔らかい)がお勧めです。

◆手作りカード制作
 文房具を学んだ後は、オリジナルの手作りカード制作の時間です。
 カードに最適なカリグラフィーを体験してから、カード制作に挑戦です。
 カリグラフィーとは、西洋や中東などにおける伝統的な美しい文字で、元々キリスト教の聖書などを模写するものとして広がりました。その手法は厳密に決められたルールに基づいています。
 ペン先の幅と文字の大きさの関係、書くときのペン先の角度も決まっています。とても理論的で、
 全て数値で表現されるという点に幾何学を連想しました。東洋の書道とは、文字を美しくみせるという共通点もありますが、
 書く人によって変化のある書道と、書く人が違ってもほぼ同じものになるカリグラフィーとは、根本的な違いがあるのだと感じました。

 実際に専用のペン(パラレルペン)を使って書いてみると、意外と難しい!
 テーブル毎にワイワイしながら皆さん練習をしていました。少し慣れてきてからカード制作を開始。
 クリスマスカードやメッセージカードをカリグラフィーとマスキングテープやクラフトパンチを使って作成。
 今日、学んだインクの事、自分だけの筆記具という考え方、そんなことを頭によぎらせながら作ったオリジナルカード。
 皆さん、個々にとても素敵なカードが完成しました!
 そのオリジナルカードと一緒に最後は集合写真の記念撮影。
 先生たちのお話という文房具が、心に残る記録を記憶として残してくれた、
 そんな授業だったと感じました。

【私の「まなび」】
 ・文房具は伝統と進化、両方を併せ持つもの。
 ・どんなにテクノロジーが進化しても、文房具はなくならない。
 ・文房具は、使う人の人柄や想いを、その人らしさで表現できる素敵な道具。

【先生の「ことば」】
 ・魅力を伝えたいときは、何事もまず自分が楽しむ事が大事です。
   実演販売をするときは、楽しみながら実演している時が一番反応が良かったです。
   皆さんも人に何かを教えたり、伝えたいときは楽しむと良いですよ。
 ・万年筆は「そだてる」筆記具。あなただけの万年筆を育ててくださいね。
 ・文字の美的表現方法には、東洋(情緒的)と西洋(理論的)で違いがあります。

(写真:ボランティアスタッフ 箕田真衣、レポート:ボランティアスタッフ 天住貴子)