シブヤ大学

授業レポート

2015/1/9 UP

地元の人が自分ごとから磨き上げる地域の個性
〜コミュニティデザインとサイトスペシフィックアートの狭間で〜

どうしたら周りの人を巻き込んで、“楽しく”まちづくりができるんだろう。 
この日行われた中脇さんの授業は、その疑問の答えが実践され、授業そのものが具体例のようでした。生徒さんが授業に巻き込まれて楽しんでいる感じが伝わってきました!
ここでは、事例やノウハウが盛りだくさんだった授業の中から、印象的だったことをいくつかご紹介したいと思います。
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授業の冒頭に、中脇さんは生徒さんに「シブヤ大学に初めて来た人は?」「自分(中脇さん)のことを以前から知っていた人は?」等々質問をし、手を挙げて(全員が手を挙げられるようにYESの人はパー、NOの人はグーで)答えてもらっていました。この、全員が手を挙げる、というのがミソなのですね。自分が手を挙げて、それに対する反応がある、というのを全員が感じることで、自分も参加して授業をつくっているんだという「自分ごと」感が一気に湧いたように感じました。
中脇さんの自己紹介の後には、生徒さん同士2-3人のグループで参加の動機などをシェアしました。その後それを代表者が発表。
「コミュニティデザインの具体例、成功例を知りたい」「サイトスペシフィックアートって何?」「プロジェクトを継続させる秘訣は?」「どうやってその土地のよさを見つけ、発信できるのか」「主体性のある人(自分ごとの人)が集まるコミュニティをどうやってつくるの?」
等々、生徒さんから出てくる様々な参加動機や聞きたいことを、中脇さんが一つずつ付箋に書いてボードに貼り、内容でグループ分けをしていきます。それを見ながら、今日の授業はどんな話を中心に進めていくかを決めていきました。(これってKJ法というんですね!)

そして今日の授業は、中脇さんが手がけた伊丹の事例をもとに、どうやってそれが企画・実現・継続しているのかという話を中心に進めよう、ということになりました。最後に、生徒さんみんなに「それでいいかな?どう?」と確認。このように、一方的に話すのではなく、伴走するようにコミュニケーションをとりながら話を進めることも人を巻き込むうえで大切だと語る中脇さん。それが実践され、聞いている方も納得しながら授業が進んでいきました。



■考え方は前向きに、できる方法を考える
 中脇さんが話し合いをするうえで心がけていることは
「あくまでも考え方は前向きに、できる方法を考える」
「No,Butは言わない」ということだそうです。



企画を考えるとき、お金も労力もかからないBゾーンを選びがちだけど、
Cゾーンから企画が出たっていい。妄想のような実現可能性の低いことであっても「こうすればできる」という「できること」を考えていく。その考え方が集団を前向きにさせていくのだそう。伊丹市昆虫館とのコラボ企画「鳴く虫と郷町」※の話し合いの中で「オリジナルグッズを作りたい!」という意見が出た時も、「誰が経費を負担するの?」「売れなかった時のリスクが怖い」とか言ってかき消さず、「仲の良いパン屋さんに頼んで、会期中販売する限定パンを販売してもらおう。それをグッズ、と考えてもいいじゃない」等、実現できることを考えたそうです。(現在はそんな限定メニューが10店舗ほどで提供されていたり、本当にTシャツやてぬぐいなどを作成・販売するようになったとのこと!)
そして結論を実行するのではなく、話し合いの中で「一番盛り上がったネタ」をやる。そうすると「これは自分たちのもの!」という気持ちがでてくるとのこと。

※伊丹市内の郷町界隈を舞台に、鈴虫など秋の鳴く虫を虫かごに入れ、虫の音を愛でる江戸時代の楽しみ方を再現しています。

◇私は普段、打合せの最後に結論をまとめていると、その行為自体で気持ちが落ち着いてしまうことがあります…というか話合い全体をまとめるのって大変でそれで面倒になってきてしまうんです。そうではなく、その時一番盛り上がったネタを、その勢いが収まらないうちにできる方法を考えて、実行してしまう。それが他人事ではなく「自分ごととして楽しむ」原動力になるのだなぁと思いました。

■3つのコツ
①無理をしない(させない)
②すでにあるものを活用する
③ストーリー展開を考える

人とつながり、連携をとるためのコツとして、上記の3つを教えていただきました。
街を舞台にした音楽プロジェクト「伊丹オトラク」は、コピー用紙に市内のマップとライブを行っているカフェ6店舗の情報をまとめるところから始まったそうです。すでにライブをやっていた情報をまとめただけでも、今までそういったものがなければ新鮮に映るのでしょう。それを見て「自分の店も載せてほしい」「他の店も紹介したい」という人が出て半年で掲載店は倍の13店舗に!さらにショッピングモールからのブッキング依頼も来るようになったそうです。
しかし、すでにあるものを使い、無理をしない、というだけだと「寄せ集め」になってしまい継続が難しくなります。そこで大切になるのが③です。「1周年記念イベント」など、話題性のあるストーリー展開を考えていくことが新たな発展や企画を生み、モチベーションを保つことにも繋がるそうです。
「伊丹オトラク」でも一周年の時、いつもは店によって異なるライブ日を揃えて、同時多発ライブを仕掛けたそうです。その後、広場で思い思いに音楽を楽しむ「伊丹オトラク広場」や、各お店を「流し」のように演奏して渡り歩く「伊丹オトラクな1日」の活動へと発展していきました。

■自分から手放し、話し合いを通じて「みんなのもの」をつくる
もともと伊丹市昆虫館で開催していた「秋の鳴く虫展」を伊丹郷町館(酒蔵)でやってみたことがキッカケで始まった企画「鳴く虫と郷町」※は、2年目から街中にその取組みが拡がっていきました。しかし次第に関わる人が増えていくと、中脇さんがこだわりたいイメージと違うアイディアもたくさん出たそうです。それでも、アイディアを止めずやりたい人がやりたいことをする体制で3年くらい続けていくと、中脇さん一人では思いつかない展開が生まれ、さらに協力店舗・団体や関連イベントが増え、まちぐるみの規模へと成長していきました。その経験を通し、中脇さんは「その地域にいる人が納得して作り上げるものこそ、地域固有の表現だ」と考え、自分のこだわり、といったものを手放す勇気を得たと話していました。


◇覚悟はいらない?
 私にとって、「街づくり」とはとても敷居の高いものでした。その土地に住む人を巻き込んで、一緒にひとつのことに取り組むなんてとても大変だろうから、覚悟のない自分にはできない、と。でも、中脇さんの授業を通して、もっと気軽なものなのかもしれない、という気になりました。それは楽そう、簡単そう、ということではないです。考えの違う人たちが一緒に活動するのは大変。でも、最初のきっかけは「覚悟」とか「決意」ではないな、と思ったんです。「これができたらおもしろそう」ってことをやってみる。一人だと無理だったら、友達に声をかけてみる、相談してみる。そうやってだんだん輪が広がることでコミュニティができていくのでしょうね。
 授業で一番印象的だったことは、中脇さん自身が楽しそう!ということでした。楽しそう面白そうなところに人は集まります。まずは自分がおもしろいと思うことをできることからやってみよう、そう思った水曜日の夜でした。

(写真:ボランティアスタッフ 榎本善晃、レポート:ボランティアスタッフ 中野恵里香)