シブヤ大学

授業レポート

2014/9/17 UP

アートの料理人 ザ・ミュージアムのキュレーター

オープン!ヴィレッジ5限目のテーマは、Bunkamuraザ・ミュージアム。
先生は、チーフキュレーターの宮澤政男さん。
クリス智子さんのナビゲーションで、先生やゲストの講師たちと話が進みます。

キュレーターとは、展覧会に展示する作品を選ぶ人だと思っていましたが、それだけではなく、会場のレイアウトも担当するそうです。
展覧会のテーマに沿って、Bunkamuraザ・ミュージアムならではの特徴を出すことに配慮しているとのこと。
『白隠』のときには、「HAKUIN」と英語表記にて、インパクトを強めたそう。
『薔薇空間』の時には、薔薇の鉢植えをカフェ ドゥ マゴ前のオープンスペースに並べて、バラいっぱいの雰囲気にしたとのことです。

『レオ・レオニ 絵本のしごと』では、もぐらが穴を掘る絵だけ、ほかの作品よりも少し下げて展示するという遊び心を出したそうな。
実際に観てきたのに、ちっとも気がつきませんでした。
自分が観た展覧会の裏話を教えてもらうと、(そういうことだったのね)と改めて親しみがわきます。

ザ・ミュージアムのさまざまなこだわりのひとつが、休憩用ソファのカバーを展示にあわせて変えていること。テーマにあった布を探すために、なかなか苦労するのだとか。
何回もザ・ミュージアムを訪れているのに、休憩用ソファの柄にはまったく気を留めていませんでした。
今度訪れた時には、注目しようと思います。

時間をかけて計画を立てていく過程では、何らかの事情により中止となる時もあるもの。『ルドンの黒』は、そんな時にピンチヒッターとして企画されたものだったそうです。
きちんと仕上がった展示だと、短期間で計画されたものだと観る側が気づくことはありません。
『パリ・オランジュリー美術館展』では、オランジュリー美術館館長に見せ方の斬新さを評価されたとのことで、作品をいかに効果的に展示するかが、キュレーター の腕の見せ所だと知りました。

展覧会とは、単に作品を並べたものではなく、アーティストとキュレーター のコラボによって完成される空間なのだと改めて感じます。
宮澤さんのほかに、ディスプレイデザイナーの寺崎宏氏と美術品輸送カンパニー所属の土屋久美子氏、照明担当の四野宮伸恭氏がゲストとして登場しました。
キュレーター と協同して、展覧会を作り上げるプロフェッショナルたちです。

ディスプレイデザイナーは、キュレーター からコンセプトを聞いてレイアウトを作り上げます。
額を含めた絵画作品の雰囲気を合わせながら、展示空間をデザインしていく仕事です。

美術品輸送カンパニーは、作品を輸送し、指定場所に架けるところまでを担当し、その作業が済むまでは、キュレーター も手を出さないのだとか。
壁に掛ける作業は、一見簡単そうですが、古い作品だと額が歪んでいたりするため、最終的には目視で確認しなくてはならず、熟練した経験が必要とされるそうです。

ザ・ミュージアムの照明は、作品保全はもちろんのこと、美しく見えるよう作品によって当て方を調節します。
版画や水彩画は光量をおさえないと色が飛び、油絵は、ぎらつかせないように配慮します。
また、どの身長の人が見てもライトが視界に入らないように調整を重ねるそうです。

そうした段取りを経て、いよいよ開催となる展覧会。
いつも気持ちよく鑑賞しているその裏では、さまざまな専門家が動いていることを改めて知りました。

さまざまなエピソードを教えていただいた引き込まれるレクチャー時間が過ぎ、質問タイムになると、会場から大勢の手が挙がりました。
みんな、華やかな展覧会を支えるキュレーター の仕事に興味しんしんです。

目下、Bunkamuraザ・ミュージアムでは『だまし絵II』が開催中。その次は『夢みるフランス絵画』ですが、4、5ヶ月前から次の企画の宣伝を始めるために、キュレーター はさらに先の企画を動かしています。
私立美術館として、常に輝いているにはどうしたらよいかをいつも考えているという宮澤さん。
自分たちが楽しんで作った展覧会は、やはり成功するそうで、作る側と観客との気持ちのつながりを感じました。
作品を最高の状態で紹介し、さらにそれ以上のものを引き出そうと試みる彼ら。
これからは会場空間芸術にも注目しながら、展覧会をさらに深く楽しめそうです。


(授業レポート:おのでらりか)