シブヤ大学

授業レポート

2013/9/28 UP

セルフレスキュートレーニング 【講義編】

「セルフレスキュートレーニング」という、いかにもマッチョなタイトルのこの授業。
参加者は意外にも、女性が多数を占めました。
参加の理由を尋ねると、
「今はまだ災害への備えをしていないので、どんなことをすればよいかを知りたい」
「私が家を離れている間でも、家族が自分の命を自分で守れるようにしたい」
といった声が聞かれました。

この授業の先生、浅野竜一さんは、
自衛隊の海外派遣部隊に対して訓練をする唯一の民間企業「ZOAS」を運営されています。
警察官、ボディガードといった経歴を持つ浅野さんの経験は、
災害対策、危機管理に大いに生かされていました。

例えば、ボディガードの仕事の9割は「下見と準備」だそうです。
皆さんは、デパートでお買い物をするとき、
ビルの非常口がどこにあるか、確認していますか?
実は、施設の中で非常口を確認する習慣をつけることは、
警備にも防災にも役立つのです。

災害発生時、パニックになった人々は、自分が来た道を戻ろうとします。
そうすると、エレベーターやエスカレーターに人々が殺到し、大変危険な状態になります。
この時に、非常階段がどこにあるかを知っていることが、
危険を回避することにつながります。

「自らの安全を守れなければ救助はできない」
というのが、浅野さんが多くの人に伝えたいこと。

例えば、海上保安官の潜水士=いわゆる「海猿」。
海難救助を行う彼らでさえ、自分が海に飛び込むのは最後の最後なのだそうです。
まず、行う行動は、救助対象者に浮き輪を投げて、それにつかまらせること。

このように、危機管理のプロは、まず自分の安全を確保してから、人を助けるのです。
それは、自分が死んでしまったら、相手を救助することができないからです。

「自分の安全を最優先」と言うと、少し冷たい響きに聞こえるかもしれません。
しかし、平時と有事は違います。
有事においては、自分の安全を確保することで、
周りの人を救助する側に回ることが可能になるのです。

東日本大震災後は特に、被害者を減らす「減災」が意識されるようになりました。
皆さんの会社にも、水、乾パン、エマージェンシーブランケットなどの
企業内備蓄をされているところが多いのではないでしょうか。
帰宅困難時に、無理に帰宅しようとすることは、
かえって危険に身をさらすことになり得ます。

首都直下地震がもし起こった場合、
物理的な被害はもちろん大きいのですが、
それ以上に懸念されることは、「首都機能が麻痺し、政府も被災者になる」ということです。
中央省庁が被災することで、指示を出すことができなくなってしまうのです。

震災によって想定される被害には、さまざまなものがあります。
例えば、停電、火災、津波、洪水など。
自分が居る場所、時間帯、天気によっても、起こりうる被害は変わってきます。

地震発生時に地下施設にいたとしたら、
例え2~3mの津波であったとしても、水が流れ込んでくる危険があります。
夜中に地震が起きた場合は、酔っ払いが街にあふれ出し、
パニックを起こす危険があります。
日中、旦那さんが仕事中の場合は、
自宅に非常用持ち出し袋を用意していたとしても、
奥さんや子供には重くて持ち出せないかもしれません。
雨の日であれば、水に濡れることで、低体温症の危険性が高まります。

被害の全体像をとらえ、自分自身がどんな被害に遭うかを想定することが、
「自助=自分が生き残ること」に繋がります。

以下は、災害発生時にどのような行動をとるべきか、浅野さんからのアドバイスです。

○ 携帯電話の電源を切る。
⇒ 本当に必要な時に使えるように、バッテリーを長持ちさせるため。
  (家族とは、連絡方法を事前に決めておくとよい。)
⇒ 携帯電話で得られる情報は、不確実なものが多いため。
⇒ 遠くの情報よりも、目の前にある情報が大事なため。

○ 風向きを見る。
⇒ 火災発生時に、危険な煙を吸わないようにするため。

○ 使えない道具は持たない。
⇒ 例: ロープ(ロープワークを知らない普通の人には使いこなせない)
     ダイナモ携帯充電器(錆びやすいので、いざという時に使えない)
⇒ 大事なものは、機能を一緒にしないこと。
  ラジオ、ライト、充電器機能が一つになったものなどは、
  それを失くすとすべてできなくなってしまう。

その他にも、都内で想定される焼失棟数や倒壊棟数の分布、
東京23区が封鎖された場合にどうするか、
避難所での過ごし方の注意点、
等々、具体的で目からウロコな情報をたくさん教えていただきました。

ちなみに、Project72の「72」という数字は、何を現していると思いますか?
実は、人間が水を飲まずに生きていられる限界時間が「72時間」なのです。
ですから、72時間以内に自分の安全を確保することが、
自分そして周りの人々を助けることに繋がるのです。

今日の授業を聞いて、不安になった参加者の方もいらっしゃったようです。
しかし、浅野さんは、「リスクを理解することがスタート」だとおっしゃいます。
不安になることにより、準備を怠らなくなります。
そして、対策を立てた上で、実際に使う状況が起きないのであれば、
それが一番良いのです。

身の回りにどんな危険が潜んでいるのか、
どうすれば危険を回避できるのか。

例えば、ビルの非常口を確認する。
そういう小さなことから、始めてみませんか?

(ボランティアスタッフ 田中万里子)