シブヤ大学

授業レポート

2013/3/29 UP

あなたにとって”復興”とは何ですか?

震災から2年目を迎える今、被災地の状況、人々の心境は大きく変化してきました。そんな今だからこそ、改めて震災について考える機会をもつこと、それが今回の授業の目的です。時が立てば、目に見える形での復興は進み、何となく復興が進んでいるという錯覚を抱きがちです。しかし、復興は本当に進んでいるといえるのでしょうか。そもそも復興とはどんな状況を指し、何を意味することなのか。この問いに対する答えは、人それぞれ異なります。自分なりの考えをもち、今後に活かしていくためにも、震災について今一度問い直し、過去の活動を振り返ります。それは、被災地へ想いをめぐらせることであり、今後の都市生活における安心、暮らしについて考えるきっかけにもなります。

前半部では、復興そのものについて考え、そのための評価基準として、2名の先生の行なってきた調査事例を学びました。後半部では、トークセッションを通じて、復興について具体的に考え、学びを深めていきます。


第一部

● 「復興」を考える
今回の主旨である「復興」とは何か?
被災地を何気なく表現する言葉として使われる「復興」。あらゆる角度から考えることで、言葉のもつ実体が見えてきます。たとえば、一つの見方として、「復旧」と「復興」の違いを挙げることができます。辞書の定義によれば、復旧とは元通りにすることであり、復興とは再び盛んにすることを意味します。被災地と一言でいっても、地域による差異、被災者それぞれの状況があり、一括りにできない以上、今回のテーマに対する問題意識として、その違いを認識しておくことが、復興について考える大切な要素になります。幾度なく災害を経験してきた日本だから、「復興」の概念をより明確にし、どのようにして「復興」を実現してきたか、そして、それを今後の生活に活かしていくためにも、改めて震災について問い直します。


● 「データが語る被災3県の現状と課題」―東日本大震災復旧・復興インデックス―
復旧・復興インデックスとは、この2年間で唯一被災地を定点観測し続けた調査データを指し、主観的ではなく、客観的な数字から被災地の状況を紐解いていきます。データの数字をもとに被災地を考えることは、どの範囲までが被災地に当てはまるのか、被災地自体をどのように見るかという視点につながっていきます。その推移を測るために、「生活基盤の復旧状況」と「人々の活動状況」が指標となっています。指標の一つである「生活基盤の復旧状況」では、被災地の生活を支えるインフラを震災前と比較することで復旧度を測り、生活環境の改善状況を判断することができます。もう一つの指標の「人々の活動状況」では、被災した人々や地域の生産・消費・雇用などが、震災によってどの程度の影響を受けたか、また、その後の復旧・復興が進んでいるかを示すもので、産業の改善状況を考えます。

これらについて学んだあと、ミクロな視点に立ち、市町村別の生活基盤の復旧状況を考えます。また、類似の例となるハリケーン・カトリーナ、阪神・淡路大震災と比較しながら、復旧・復興について、より掘り下げていきます。これらの前例を元に、今後の復旧・復興インデックスを活用していくためには、
―国内・国外への復旧・復興状況の発信をすること
―復旧・復興状況の認識の共有化と政策への反映
―被災地域の人々に対するミクロな情報とマクロな情報を融合するためのツール
―今後の災害に備えたデータセットのモデルを構築
などの視野があり、震災の経験が今後の都市生活の安全へとつなげていくことができるそうです。


● 「被災者による復興のモノサシ」―阪神・淡路大震災 生活復興調査―
復興のモノサシとは、被災者自身の生活実感・復興実感について、阪神・淡路大震災の被災者自身に問いかけた調査から浮かび上がってきたものであり、それをもとに復興について考えます。こちらは、三つの要素があります。一つは、被災した人の心理的な時間の流れを示す「災害過程」について、二つ目は、被災者自身が5年後に語った内容から見えてきた「生活の再建実感」、三つ目が、調査を通じてわかった、一人ひとりの「復興の力になるもの」についてです。

一つ目の被災者の心理的な時間である「災害過程」については、時間の流れとともに、被災者の考え方の変化を追った調査報告になります。その時間の流れは、現状が判断できない持期、人命救助の時期、社会機能を回復させる助け合いの時期、復旧・復興期と移り変わっていきます。被災者にとって、自分が被災者であると意識しなくなるまでには長い時を要し、そのすべてのサイクルが終わるまでは、さらに非常に大きな時間がかかります。その生活を立て直すために、二つ目の「生活の再建実感」があり、7つの大きな要素となる<住まい、つながり、まち、心と身体、備え、景気、行政の対応>などで構成されます。それらが揃うことで、生活が再建されたという実感を伴っていきます。そして、三つ目の「復興の力になるもの」は、一人ひとりが自律し、連帯し合い、つながりの場をもつことであることと、調査から見えてきました。自律も連帯も大切にする人は、生活の復興感がとても高くなるということを学びました。
被災者にとっては、以前の日常には戻ることは不可能ですが、新しい現実を受け入れ、その新しい枠組み中で、人生を再構築していくことが、復興へとつながっていくのです。つまり、復興とは人生の再構築ともいえるのです。


第2部トークセッション

第2部では、「復興とは何か」というテーマで、それぞれ違う調査事例のお話をより掘り下げて、トークセッションを行ないました。復興への実感は、1年目より遅れていると感じる被災者が多いという調査も新聞から出ているようです。これを元に、さらに復旧と復興の境界線について考えます。

一つ目の話である「インデックス数値と生活実感との乖離、意識調査についてのデータ」については、数字にとらわれず、より具体的なシーンと照らし合わせて掘り下げていきます。また、「阪神・淡路大震災での実態調査」からは、東日本大震災での調査に活用していくための方法を具体的に考えました。その後、今後の被災地を見ていく上での必要となる視点、懸念点、課題について話は移っていきます。以上の話を通じて、復興とは、法的な側面や規制改革という点からの復興、時間の流れとともに人の復興の実感が異なり、自治体によって復興の方法が違ってくるなど、どこに視点を置くかで、大きく復興の捉え方が変わります。言葉では簡単にいえる復興を、今後ともいろいろな角度から考え、実現し、どうやって実感していくかについて、2年という節目に、震災を考えるいい機会となりました。今後とも長く語り継がれる震災を問い直し、自分なりの復興を見つめていきたいと思います。


(ボランティアスタッフ:堀史孝)