シブヤ大学

授業レポート

2008/12/5 UP

書が伝えるもの、書から感じるもの。

乙武さんと書道家の紫舟さんのコラボレーションによるライブパフォーマンス。はじめにこの授業のタイトルを聞いた時、どんな授業になるんだろう?と想像してみたけれど、予想は全くつかず。わくわく、ドキドキ。そんな気持ちで授業はスタートしました。

●紫舟さんによる書のパフォーマンス ~いろんな『乙武洋匡』~
ステージ上には3畳分くらいはありそうな大きな半紙が用意されており、そこに黒のワンピースが素敵な紫舟さんと乙武さんが登場。はじめの話題は“名前”について。“名前はその人の人生を表す”と紫舟さんはおっしゃり、そこからは乙武さんの名前の由来についてトークが展開されていきました。

乙武さんの下の名前は“洋匡”。これは乙武さんのお父様がつけてくださった名前だそうで、“太平洋のような広い心を持って、世の中を正す”という意味を持つそうです。特に“匡”という漢字は中に“王”という漢字が含まれ、さらに漢字の右側が開いていることから、“外に自由に出ていく行動力のある王様”という意味が。このお話を聞き、スポーツライターから小学校の先生に転身したり、とさまざまな所で活躍されている乙武さんの人生をまさに名前が表しているなと思いました。

そしてここからは紫舟さんによる書のパフォーマンス。乙武さんの名前の由来から湧いたインスピレーションを基に、いろんな“洋匡”という漢字を書き上げていきます。書を書いていく紫舟さんは真剣そのもの!生徒さんたちも出来上がっていく漢字を静かに見つめていました。しばらくして書き上げられた“洋匡”という感じは実にさまざま。波を表すように、水色の墨汁でゆらゆらと書かれた“洋”や、行動的な乙武さんを表し、“王”の周りが全て開いている“匡”であったり。漢字一文字でも、書き方によってそこに込められる意味や雰囲気がガラっと変わることを実感した瞬間でした。

●2人のコラボレーション ~“バナナトレイン”をモチーフに~
続いてのパフォーマンスは、乙武さんと紫舟さんによるコラボレーション。乙武さんが最近注目している、『ファンキスト』というアーティストの『バナナトレイン』という曲をモチーフに2人が書を書き上げていきました。
バナナトレインとは、南アフリカを走る観光列車のこと。南アフリカの白人と日本人のハーフというファンキストのボーカルの彼がこの列車に乗った時、白人たちが窓の外の黒人の子どもたちに向かって、お菓子を投げるという光景を目にしたそう。その時に感じたどうしようない絶望感と希望を詠ったのが『バナナトレイン』という曲。
バナナトレインの曲をBGMに紫舟さんと乙武さんが、バナナトレインの歌詞を書き上げていきます。印象的だったのは乙武さんが書かれた“全てをそっと包み込み、朝は静かにやってくる”という歌詞。どうしようもない絶望が世の中にはあるけれど、必ずそこには希望があるんだと感じました。
乙武さんがおっしゃっていたのは、“世の中に差別がいけないと声高に叫び続けるのではなく、柔軟に、おもしろく、心のバリアを溶かせるようなメッセージを伝えていきたい”乙武さんの、世界を少しずつ変えていく姿勢のようなものが、この言葉に表されてるのかたなと思いました。

最後に紫舟さんから、乙武さんに書のプレゼント。周りが黒く塗られていき、少しずつ現れたのは白抜きの“義”という漢字。そのパフォーマンスにみなさん拍手喝采でした。
パフォーマンスとしての書の面白さやそこから伝わるもの、乙武さんのいろんな想い。生徒さんそれぞれが何かを感じて、満足そうな顔して帰られていったのが印象的な授業でした。

(ボランティアスタッフ 佐久間 七子)