シブヤ大学

授業レポート

2025/12/3 UP

「料亭三長」を五感で体感〜味覚編

渋谷、円山町の一画にある料亭「三長」で出汁を学ぶという贅沢な授業、木造数寄屋造りの日本家屋。授業が行われたのは畳の香りのする非日常な空間。足を踏み入れた瞬間から、東京にいること、ましては渋谷にいることを忘れてしまうような感覚に。
「三長に来たことがなかった」という参加者が多く、普段入ることのできない空間に授業が始まる前から掛け軸や装飾みて楽まれているように感じました。



■料亭三長の歴史

料亭三長 三代目主人の髙橋千善さんより、三長の歴史のお話から授業は始まりました。
1912年芝居小屋からはじまり、芝居小屋兼映画館に隣接した「三長料理店」そののち現在の料亭三長になったという長い歴史があります。
料亭三長は昭和26年(1951年)に創業。戦後の焼け野原からお店をつくり、当時の円山町は花街で、沢山の料亭があり芸者さんと一緒に渋谷の街を賑わらせていたそうです。
今でも芸者さんとのお遊び、和芸(踊り・三味線・小唄など)の日本文化も体験できる料亭。
2025年夏から秋にかけての修繕工事後のリニューアルオープン。
実際の工事の様子もスライドで説明していただきました。
工事の際、今回天井に新しくwifiアンテナが設置されたのみで、天井・柱などの造りは当時のままだそうです。
髙橋さんの話を聞きながら、参加者の方は、天井や照明、床の間の掛け軸をご覧になっていました。

■出汁のお話

三長の歴史を学んだ後は、円山町わだつみ料理長 寺島孝保さんから「出汁」の授業へ。
円山町わだつみは、料亭三長の奥座敷に2012年に開業。和モダンな空間で、テーブル席と、料理長と話しながら食事ができるカウンターもあります。
寺島さんは小学生の頃に料理の鉄人のテレビを見て、料理人の包丁さばき、所作に憧れて、料理人の道を目指されました。
高校を卒業して専門学校に入り、伊豆の旅館に就職。旅館の名前はおっしゃっていませんでしたが、星3つをとった旅館だそうです。
「料理をつくり、その反応を直接見たり聞きたい」「美味しいと思うのは人それぞれ。お客様の美味しいと思う料理を追求したい」という思いで、わだつみで働くことにしたとのこと。「洋食では出汁を〈とる〉といいますが、和食では出汁を〈ひく〉といいます」
「食材のうま味を〈ひきだす〉、その後も出汁の食材(昆布や鰹節など)が料理の一品に使えるのも、和食の良さです」と寺島さん。出汁の種類の一覧表が配られ、「こんなにも出汁は種類がいっぱいあるんだ」と驚いている参加者も。

メーカー、食材の産地によって、味は異なるので、自分好みの出汁を選ぶのも大切。
昆布は夏の季節の高温は問題ないが、湿気が多いとカビが出るので湿度に気を付けること。
鰹節は高い温度だと酸化して風味が落ちるので冷暗所で保管、封を開けたら早めに使い切ることなど、保管のポイントも教えてくださりました。
「洋の食材も出汁で使いますか?」という参加者からの質問があり、洋の食材を合わせて出汁にすることもあるそうです。おすすめは、「セロリ、人参、大根」
セロリのようにクセのあるものを使うと意外と美味しい出汁になるそうです、市販の出汁調味料も美味しいので、そこに鰹節や昆布をプラスして、より美味しくするのもおすすめ、とのこと。

■3種飲み比べ

鰹節、昆布+椎茸、シークレット(しじみ)の三種の出汁の飲み比べをしました。
しじみはクイズ形式だったのでテーブルごとに、何の出汁なのかを、参加者同士でお話しながら推理。3種を合わせ出汁にされた方も!出汁の美味しさと温かさ、染み渡りました。 

■和食の魅力
「和食は日本で生まれているが、海外でその地にアレンジされても「和食」と言われています。洋の食材を使っても和食として成り立ち、ワインと合う和食もある。進化、変化できる唯一の料理なのでは。」という寺島さんの言葉に、日本人が柔軟に環境に合わせていくことができるのも、和食につながっているのではないかと感じました。

■お酒×出汁
寺島さんおすすめ、出汁のお酒
①麦焼酎/米焼酎に、昆布3㎝×3㎝をいれて、お湯割りに
(芋焼酎は味が喧嘩してしまうようです)
②日本酒に昆布をいれて

料理に使う時も、お酒に入れる時も
昆布はお酒か水で湿らせたキッチンペーパーで軽く表面を拭き、それを乾燥させてから使うと、よりうま味が増すそうです。 

■参加者からの感想
・ちゃんと出汁を「味わう」ことができた。
・出汁の種類の豊富さに驚いた。
・出汁の奥深さ、料理するのが楽しみになった。
・お酒の飲み方のレパートリー増えた。
・蛍光灯の下ではなく、料亭の空間で、あたたかい照明の中で学べて、出汁を味わえてよかった。
・めんつゆ、出汁パックしか使ってなかったけれど、出汁をひくところからチャレンジしたい。

授業始めの自己紹介の時は、非日常の空間に少し緊張した雰囲気でしたが、最後の感想の一言ずつ発表している時は、和やかになっていました。「目で見て、香りを感じ、味を味わうこと」で人は美味しいと感じるようで、寺島さんの「足しすぎてもだめ、少なすぎてもだめ、みんなに美味しいと思ってもらう料理を追求していきたい」という言葉が印象的でした。

そのような気持ちがこめられた料理を食べたい。円山町わだつみ、ランチは手頃な価格で提供されているそうなのでまずはランチに、近々行きたいと思います。ご参加いただいた皆様、料亭三長さん、円山町わだつみさん、ありがとうございました!


(レポート:なつこ、写真:大谷蓮壽、高橋ゆめ)