授業レポート
- 前へ
- 次へ
2025/8/20 UP
"はたらく"を考えるヒューマンライブラリー
障害や難病など、さまざまな制約を抱えながらも「はたらく」皆さんの声を聞くことで、私たち自身の「はたらく」も見つめ直してみるーー
今回お招きしたのは、「障害や難病を越え、互いに学び合い、誰もが自らの望むように生きられる社会」の実現をビジョンに掲げるNPO法人・両育わーるどの理事長で難病当事者でもある重光さん、広報の谷山さん、そして5名の当事者メンバーの皆さんです。
授業では、当事者の方々とのヒューマンライブラリーを行いました。ヒューマンライブラリーとは、2000年にデンマークで始まった対話の手法で、社会的マイノリティとされる人々の"生の声"に耳を傾けることで、相互理解を深めることを目的としたものです。今回は30分間、膝を突き合わせるような距離感で、じっくりと話を聞く時間となりました。
後半では、重光さんから「RDワーカー」の取り組みについて紹介がありました。RDとは「Rare Disease=希少疾患」の略で、RDワーカーとは、難病を抱えながらも働いている、あるいは働こうとしている人たちを指します。「RD」とは、2008年にスウェーデンで始まった「RDD(Rare Disease Day)」に由来しています。
↓授業で使用されたスライドより

重光さんはこう語ります。
「ヤングケアラーのように、名前があることで社会に認知され、支援の道が開かれる。"RDワーカー"もそんな言葉になっていってほしいと思っています。」
現状、多くの難病当事者は、制度のはざまで支援が届かず、そもそも「そこにいること」さえ認識されていないケースもあります。たとえ健常者ベースの労働条件で働けなくても、働き方に柔軟さがあれば、社会とのつながりを持ち続けることは可能です。
重光さんたちはその実現に向けて、当事者が自身の症状や特性を伝えるための「トリセツ(取扱説明書)」の普及や、制度提言としての「難病者の社会参加白書」の作成、地方でのモデル事例づくりなど、さまざまな取り組みをされています。
難病者の社会参加白書2025(2025.7.7発行)
重光さんご自身も、常に強い痛みに耐えながら活動されている方です。その姿勢にはいつも尊敬の念を抱くと同時に、当事者がここまで頑張らなければならない社会のあり方に、非当事者としての不甲斐なさを感じずにはいられません。
私たちができることは何かーーまずは「知る」こと、そしてそれを「伝える」こと。少しずつでも、行動していきたいと思います。
以下に、当日のヒューマンライブラリーに参加したシブヤ大学ボランティアスタッフの皆さんのレポートをご紹介します。
(文:授業コーディネーター・吉川真以、写真:芳賀久仁子)
———
私は、潰瘍性大腸炎を患っているアンさんのグループに参加。
彼女は、高校生の時に発症し、その後、長期間の療養を強いられていたが、うまく合う薬が見つかり、現在は寛解(一時的、または継続的に安定した状態)になっておられ、支援が必要な人をサポートする団体職員として働いているとのことでした。潰瘍性大腸炎は比較的多くの人が罹患している難病であり、症状も軽度の人から重度の人まで幅広い病気とのこと。その中で、アンさんは重度であり、長い間入院されていた。そのため、寛解となった後は、仕事や勉強に時間にご自身の時間を割いて、社会福祉士などの資格をとられ、現在はキャリアカウンセラーの資格にもチャレンジされようとしていました。お話を伺っての感想となりますが、長い時間の入院生活においては社会とのつながりが限定的にならざるを得ず、寛解後にそれを取り戻すように働かれている印象を感じ、働く意味が"社会とのつながり"を意味している、と感じました。
また、対話に参加している人からは、今回の講義のタイトルに"働く"ではなく"はたらく"を使っている意味は何だろう、という問いかけもありました。"働く"からだと、労働につながりやすいが、"はたらく"にすると単なる労働だけではなく、家事などにもつながりやすく、社会とのつながりもイメージしやすくなる、という会話もされていました。
一方、対話後の重光さんのお話の中でも、いくつか気づきがありました。1つ目は、社会参加と働くとの関係性について。
働くを単に"収入の糧"としてだけ捉えるのではなく、
"人に愛されること"、"人にほめられること"、"人の役に立つこと"、"人から必要とされること"(日本理化学工業元会長 大山氏のエピソードより)
と捉えていくと、就労環境の設計の幅は拡がる可能性を感じました。
↓授業で使用されたスライドより

さらに、難病を患うRD(Rare Disease)ワーカーの症状変動に関するものがありました。疾患の症状は人によって異なり、1日の中で体調変動するものから、数か月単位で変動するものまで幅がある、とのこと。よって、症状に応じた就業形態を定義すれば、RDワーカーが就労できる機会・職種は拡がる可能性が高いことが示唆される、と感じました。例えば、1日の中で体調変動するようなRDワーカーには、工数を確保する既存の工数確保型の就労形態ではなく、成果重視型の就労形態をとるなどの検討が進められると、働く場も増えていくと考えます。フレックスタイムの導入などで企業における雇用形態も柔軟性はありますが、まだ、工数前提とした就労形態が多いため、成果重視型の形態が拡がるには時間がかかるようには、個人的には感じています。
↓授業で使用されたスライドより

今回の講義は、RDワーカーを起点として、"はたらく"を色々な意味で考える良い機会でありました。
(レポート:山口圭治)
———
ヒューマンライブラリーという対話形式が初体験で、すごく面白かったです。
筋ジストロフィーやうつ病など、異なる背景を持つ方々がまるで物語のように自身の経験や考えを語ってくださり、その「生の声」から、課題や感情をダイレクトに受け止めることができました。
印象的だったのは、当事者の方々が抱える「分かってほしい」という願いと、雇用側が感じる「経験がないから不安」というミスマッチの指摘。これは難病を持つ方々に限らず、健常者である私たちにとっても、お互いを理解する上で大切な視点だと感じました。
このギャップを埋めるための「症状の可視化」や「時間的柔軟性のある働き方」といった具体的な取り組みには、本当に感動しましたね。ご自身のできること・できないことを「取扱説明書(取説)」として提供するって、すごく勇気がいることだし、自分と向き合う辛さもあると思うんです。でも、もし機会があれば、僕自身もぜひやってみたいと思いました。
医療や福祉だけでなく「就労」というテーマだったのも、病気を患っていない方々にも共感しやすくて良かったです。
行政も動き始めて、社会が少しずつ進歩していることも感じられましたし、多様な人々がもっともっと共に働く社会になっていってほしいと心から願っています。
(レポート:洌鎌康成)
———
ヒューマンライブラリーで「黄斑ジストロフィー当事者として高額納税者になる!」というタイトルでお話しされたおざわさんの言葉で印象的だった言葉を書きます。
「みんな得意なところと不得意なところがあるから、得意なところを掛け合わせることによって価値が生まれて、高額納税者も目指せると思います」
「面接の時は、"私は今までこんなことをしてきました"よりも、"これからこんなことをしたいこんな風になりたい"を話した方が良い」
「結果は選べないけど、行動は選べる」
最後の言葉は、「仕事をする上で一番大切なことは?」の質問に対しての答えです。
どの言葉も、難病などを受け入れて生きる当事者の強さを感じさせられました。
(レポート:片山朱実)
今回お招きしたのは、「障害や難病を越え、互いに学び合い、誰もが自らの望むように生きられる社会」の実現をビジョンに掲げるNPO法人・両育わーるどの理事長で難病当事者でもある重光さん、広報の谷山さん、そして5名の当事者メンバーの皆さんです。
授業では、当事者の方々とのヒューマンライブラリーを行いました。ヒューマンライブラリーとは、2000年にデンマークで始まった対話の手法で、社会的マイノリティとされる人々の"生の声"に耳を傾けることで、相互理解を深めることを目的としたものです。今回は30分間、膝を突き合わせるような距離感で、じっくりと話を聞く時間となりました。
後半では、重光さんから「RDワーカー」の取り組みについて紹介がありました。RDとは「Rare Disease=希少疾患」の略で、RDワーカーとは、難病を抱えながらも働いている、あるいは働こうとしている人たちを指します。「RD」とは、2008年にスウェーデンで始まった「RDD(Rare Disease Day)」に由来しています。
↓授業で使用されたスライドより

重光さんはこう語ります。
「ヤングケアラーのように、名前があることで社会に認知され、支援の道が開かれる。"RDワーカー"もそんな言葉になっていってほしいと思っています。」
現状、多くの難病当事者は、制度のはざまで支援が届かず、そもそも「そこにいること」さえ認識されていないケースもあります。たとえ健常者ベースの労働条件で働けなくても、働き方に柔軟さがあれば、社会とのつながりを持ち続けることは可能です。
重光さんたちはその実現に向けて、当事者が自身の症状や特性を伝えるための「トリセツ(取扱説明書)」の普及や、制度提言としての「難病者の社会参加白書」の作成、地方でのモデル事例づくりなど、さまざまな取り組みをされています。
難病者の社会参加白書2025(2025.7.7発行)
重光さんご自身も、常に強い痛みに耐えながら活動されている方です。その姿勢にはいつも尊敬の念を抱くと同時に、当事者がここまで頑張らなければならない社会のあり方に、非当事者としての不甲斐なさを感じずにはいられません。
私たちができることは何かーーまずは「知る」こと、そしてそれを「伝える」こと。少しずつでも、行動していきたいと思います。
以下に、当日のヒューマンライブラリーに参加したシブヤ大学ボランティアスタッフの皆さんのレポートをご紹介します。
(文:授業コーディネーター・吉川真以、写真:芳賀久仁子)
———
私は、潰瘍性大腸炎を患っているアンさんのグループに参加。
彼女は、高校生の時に発症し、その後、長期間の療養を強いられていたが、うまく合う薬が見つかり、現在は寛解(一時的、または継続的に安定した状態)になっておられ、支援が必要な人をサポートする団体職員として働いているとのことでした。潰瘍性大腸炎は比較的多くの人が罹患している難病であり、症状も軽度の人から重度の人まで幅広い病気とのこと。その中で、アンさんは重度であり、長い間入院されていた。そのため、寛解となった後は、仕事や勉強に時間にご自身の時間を割いて、社会福祉士などの資格をとられ、現在はキャリアカウンセラーの資格にもチャレンジされようとしていました。お話を伺っての感想となりますが、長い時間の入院生活においては社会とのつながりが限定的にならざるを得ず、寛解後にそれを取り戻すように働かれている印象を感じ、働く意味が"社会とのつながり"を意味している、と感じました。
また、対話に参加している人からは、今回の講義のタイトルに"働く"ではなく"はたらく"を使っている意味は何だろう、という問いかけもありました。"働く"からだと、労働につながりやすいが、"はたらく"にすると単なる労働だけではなく、家事などにもつながりやすく、社会とのつながりもイメージしやすくなる、という会話もされていました。
一方、対話後の重光さんのお話の中でも、いくつか気づきがありました。1つ目は、社会参加と働くとの関係性について。
働くを単に"収入の糧"としてだけ捉えるのではなく、
"人に愛されること"、"人にほめられること"、"人の役に立つこと"、"人から必要とされること"(日本理化学工業元会長 大山氏のエピソードより)
と捉えていくと、就労環境の設計の幅は拡がる可能性を感じました。
↓授業で使用されたスライドより

さらに、難病を患うRD(Rare Disease)ワーカーの症状変動に関するものがありました。疾患の症状は人によって異なり、1日の中で体調変動するものから、数か月単位で変動するものまで幅がある、とのこと。よって、症状に応じた就業形態を定義すれば、RDワーカーが就労できる機会・職種は拡がる可能性が高いことが示唆される、と感じました。例えば、1日の中で体調変動するようなRDワーカーには、工数を確保する既存の工数確保型の就労形態ではなく、成果重視型の就労形態をとるなどの検討が進められると、働く場も増えていくと考えます。フレックスタイムの導入などで企業における雇用形態も柔軟性はありますが、まだ、工数前提とした就労形態が多いため、成果重視型の形態が拡がるには時間がかかるようには、個人的には感じています。
↓授業で使用されたスライドより

今回の講義は、RDワーカーを起点として、"はたらく"を色々な意味で考える良い機会でありました。
(レポート:山口圭治)
———
ヒューマンライブラリーという対話形式が初体験で、すごく面白かったです。
筋ジストロフィーやうつ病など、異なる背景を持つ方々がまるで物語のように自身の経験や考えを語ってくださり、その「生の声」から、課題や感情をダイレクトに受け止めることができました。
印象的だったのは、当事者の方々が抱える「分かってほしい」という願いと、雇用側が感じる「経験がないから不安」というミスマッチの指摘。これは難病を持つ方々に限らず、健常者である私たちにとっても、お互いを理解する上で大切な視点だと感じました。
このギャップを埋めるための「症状の可視化」や「時間的柔軟性のある働き方」といった具体的な取り組みには、本当に感動しましたね。ご自身のできること・できないことを「取扱説明書(取説)」として提供するって、すごく勇気がいることだし、自分と向き合う辛さもあると思うんです。でも、もし機会があれば、僕自身もぜひやってみたいと思いました。
医療や福祉だけでなく「就労」というテーマだったのも、病気を患っていない方々にも共感しやすくて良かったです。
行政も動き始めて、社会が少しずつ進歩していることも感じられましたし、多様な人々がもっともっと共に働く社会になっていってほしいと心から願っています。
(レポート:洌鎌康成)
———
ヒューマンライブラリーで「黄斑ジストロフィー当事者として高額納税者になる!」というタイトルでお話しされたおざわさんの言葉で印象的だった言葉を書きます。
「みんな得意なところと不得意なところがあるから、得意なところを掛け合わせることによって価値が生まれて、高額納税者も目指せると思います」
「面接の時は、"私は今までこんなことをしてきました"よりも、"これからこんなことをしたいこんな風になりたい"を話した方が良い」
「結果は選べないけど、行動は選べる」
最後の言葉は、「仕事をする上で一番大切なことは?」の質問に対しての答えです。
どの言葉も、難病などを受け入れて生きる当事者の強さを感じさせられました。
(レポート:片山朱実)
- 前へ
- 次へ