シブヤ大学

授業レポート

2025/6/4 UP

対話型トレーニングで"デモクラ筋"を鍛えよう!
〜デモクラシー・フィットネス〜

今回は、「対話型トレーニングで"デモクラ筋"を鍛えよう!〜デモクラシー・フィットネス〜」という題の授業です。ゲストは、デモクラシー・フィットネスの公認講師である藤田さなえさん/クロマンソーレンさん親子でした。
デモクラシー・フィットネスとは、デンマークで始まった活動で、デモクラシーに必要な能力を“筋肉”にたとえ、その“筋肉”を、対話を通して鍛えて維持するためのトレーニングです。今回は、10個の“筋肉”のなかから、Active ListeningとDisagreementの2つの筋肉を鍛えるトレーニングを体験しました。

まず、はじめに4人程度のグループに分かれて、アイスブレイクとして自己紹介からスタート。その際に、授業への参加理由と“デモクラシーのイメージは何色?” を発表。その後、各グループで、 “社会って何だろう?/社会人ってどんな人?” というテーマで対話を行いました。

グループ対話後は、全員で共有の時間。“デモクラシーの色”については、ビタミンカラーや白・黒という意見の他に、“透明”という意見もあり、デモクラシーに関する各自のイメージの違いが表れていました。また、“社会って何?” という話については、社会という言葉がもつ広さを感じる意見がありました。

一方、社会人という言葉は英語やデンマークの言葉にはなく、日本語独特の表現であるという指摘には、筆者は少し驚きました。

その後さなえさんから、先ほどの対話において、「話している方の内容を聞けていたか」、さらに、「自分の話を聞いてもらっていると感じたか」という問いかけがありました。普段、 “相手の言葉を聞く” ことを気に掛けることはあっても、 “聞いてもらっているか” を意識したことがなく、この問いかけには、はっとさせられました。対話の基本は意見交換であり、意見を聞くだけでなく、聞いてもらっていると感じられるかどうかも重要であり、この意識を持つと、意見を聞く態度も変わっていくであろう、と感じた場面でした。


グループでの対話のウォーミングアップのあとは、いよいよデモクラシー・フィットネスの筋肉のひとつ、Deep Active Listening/深く聴く筋肉のトレーニングを体験します。ここでは、“対話する相手”ではなく、“対話する相手の発している言葉”を意識することが求められます。このトレーニングは、2名によるペアトレーニングですが、方法がとてもユニークで、お互い背中合わせになり会話を行います。対面だと、会話において相手の表情などの視覚情報にも意識が向きますが、背中合わせになることで、表情が見えないので、自然と相手の言葉に意識が向けられるようになります。また、背中合わせであるため話し相手がいるという感覚を持つこともでき、相手を意識しながら言葉に集中するという体験ができました。このペアワークでは、お互いの体験を順番に伝えます。


まず、Aさんが自身の体験を話し、Bさんは眼と閉じてその体験内容を聞く。その際質問はしません。
次に、BさんがAさんから聞いた内容を、Aさんに伝える。この時もBさんがAさんに質問したり、AさんがBさんの内容を訂正したりしません。
その後、役割を入れ替えて同じことを繰り返す。
さらに、お互い聞いた内容について、それぞれ2つ以上の質問を考え、その質問をやり取りします。
1まずはそのまま受け止める.    2次に積極的に相手を理解しようと行動する.    3そして関係性を創るという段階を踏むことで、先の対話セッションのさなえさんのコメントにあった「相手のことを聞く」「相手に聞いてもらっている」という感覚を磨くトレーニングにもなっていると感じました。
このトレーニングの後に、休憩を取りましたが、その際も、多くのペアが会話を続けていました。中には、一度中座した後に、お互い部屋に戻ってきた後に、もう一度会話を続けるペアもありました。このトレーニングが、“対話”を形成する“筋力”を向上させている、と感じる場面でした。


休憩後は、このデモクラシー・フィットネスを生んだデンマークにおける、幼児教育や学校教育の内容について紹介がありました。デンマークでは、幼児教育から子どもたちが自分の意見を持ち、自分で判断をし、あることは一緒に決定し、社会へ参加していく教育がとられているそうです。例えば、いくつかの保育園・幼稚園の食事では、各幼児が自分自身で食べるものや量を選択できたり、スタッフたちは幼児の考えや決定を“支援”することが求められる。また、小・中学校には日本のような校則そのものはなく、各クラスでそのクラス独自のルールを話し合って決めていったりします。

このようにして、社会の一員として、自分自身の意見をもちながら、その意見を表明し、それぞれの社会に貢献する仕組みができているようです。これには、意見を出した後に、それを受け止めてもらえるという心理的安全性があることも重要な要素であると感じました。 残りの時間は、2つ目の筋肉として、Disagreement/反対意見を表明する筋肉のトレーニングを行いました。まずは、教室の真ん中にロープが引かれ、いくつかの質問ごとに、賛成・反対のスタンスを各自が決め、移動していきました。そのなかでももっとも答えが割れた質問のひとつ、”義務教育は高校までにするべきか“という質問について、賛成・反対一人ずつペアになってワークを行いました。

まず、お互いの賛成・反対理由をワンセンテンスで相手にラリー形式で伝える。
その後、さきほどの意見の最初に「あなたの意見に/あなたの反対・賛成の意見に反対です。」を付け加えて、再度お互いに意見交換をする。
そして、お互いの意見について相互で話し合う。
このような3つのセッションを行うことで、
1相手に意見を出す 2相手の意見を受け止めた上で自分の意見を出す 3テーマについて語り合う、という流れが体験できました。

これにより、まず、ワンセンテンスで自分の意見を述べることで、相手に理解してもらうために”シンプル“に伝えるという”筋力“が鍛えられます。また、相手の意見に対する”反対意見“を伝えることで、一度、相手の意見を認めた上で、自分の意見を出すという”筋力“が鍛えられます。と同時に反対しているのは「意見」に対してであり、その人の人格や人間性に反対しているのではない、ということをお互いに確認します。

そのうえで、テーマについて互いに会話することで、お互いの意見をみとめつつ建設的な対話をするという”筋力“が鍛えられる、と感じました。

なお、さなえさん、ソーレンさんからは、ペアワークの最後に、お互いに「自分の意見に反対意見をくれてありがとう」という感謝の言葉を伝えましょう、とありました。反対意見を出してもらうことは、新たな視点をもらうことであり、また、反対意見を受け止めてもらえないと、相手も反対意見を出しにくくなるので、この”感謝“を示すことは重要である、と感じました。


次に、“国会議員の給料を削減するべきか”という質問について、賛成・反対各2名、4人のグループで対話をするトレーニングを行いました。ここまでに、ペアワークでの対話トレーニングをベースに、お互いの意見を聞き、それについて対話をするという流れができるようになっているため、私が入っていたグループでは、互いの意見を聞きながら、建設的な議論ができたのではないか、と感じました。また、相手の意見を受け止めることにより、違った意見も出るようになり、新しい意見がでるよい対話ができた、と感じます。

このグループワークの後、全体でどのような対話が出てきたか発表がありましたが、あるグループでは、“給料の格差”という話に発展し、介護職の給料の問題というテーマに発展しており、発展的な対話がうまく行っていたと感じました。

最後に、さなえさん、ソーレンさんから、フィットネスで行ったようなヒエラルキーのないフラットな意見交換をするために、
①「私は○○に反対/賛成です」/自分の意見を持つ
②「私は、あなたの”意見”に反対です」/発言者と意見を混同しない
③感謝する :反対意見/違う意見は、社会や「私」を成長させる
という視点が重要であるとコメントをもらい、本授業は終了となりました。 とても難しい内容でしたが、さなえさん、ソーレンさん親子による率直で分かりやすい説明と、柔らかくてユーモアのあるコメントによるフォローのおかげで、時には笑いも起こるなど、和やかに授業が進み、楽しく授業を受けることができました。3時間という長い時間でしたが、実時間に比べて感覚としては短く感じました。

授業後のさなえさん、ソーレンさんとの簡単な振り返りにおいて、“デモクラシー”をあえて日本語訳である“民主主義”としていない点について、さなえさんのご意見が印象的でしたので、著者の記憶ですので正確ではないですが、参考までに載せさせていただきます。

「日本語訳である民主主義は、“主義”を含んでいるように固いイメージである。ただ、本来のデモクラシーは、主義という固いイメージではない。もっと柔らかいイメージであり、日常生活から政治の世界まで、対話を通した意見交換を重ねてその時の最適であろう判断を行っていくプロセスである」

なので、対話が大切であり、これを行うための“筋力”を鍛える必要がある、と感じました。

楽しみながら普段あまり使っていない、でも生きていくのに必要な“筋力”を鍛えられ、気持ちよい“疲労感”を感じる授業でした。

(授業レポート:山口圭治 写真:高橋ゆめ)