シブヤ大学

授業レポート

2006/9/28 UP

授業レポート

映画『雲~息子への手紙~』のパンフレットに載っていた石川直樹さんのコメントを読んだのが、石川さんを知ったきっかけでした。雲と旅、雲と人を絡めた魅力的な文章に魅力を感じ、今回の授業にとてもわくわくしながら参加しました。
~星の航海術~
授業は「星の航海術」の話から始まりました。「星の航海術」とは海図やコンパスなどを使わず、星や風・海、雲、鳥やクジラなど、あらゆる自然現象をたよりに目的地を目指す伝統秘術です。 石川さんはサワタル島の伝統航海師であるマウ氏に弟子入りし、航海術を学びます。スクリーンにはマウから航海術を教わっている時の写真やスターコンパスの図などが映し出され、わかりやすくおもしろく話を聞くことができました。
海・川・山、様々な旅をしてきている石川さん。特にフィールドにこだわっているわけではないのですが、海の旅には特別魅力を感じているとおっしゃっていました。グレートジャーニーと呼ばれる大遠征の途中で、海へ出た人達がいます。海図もなかった時代にその先に島があるのかもわからないのに渡海した動機や技術にとても興味を示していました。
マウとのサイパン~サタール島の航海では、12日間の航海中、水がなくなり雨水でしのいだり、10人のうちの一人が不安定になってしまったりと今までで最もつらかった旅だと語ってくれました。
「鉄板のようになにもない水平線に小さな島が見えたときには本当に嬉しかった。なんて心が安らぐんだろうと。」
サタール島での生活は完全に自給自足で、限られた資源の中で持続可能な生活を送っています。
サタール島の人々は洗練された生きるための知恵を持っていて都市の人々よりも感覚的な身体値が優れていると感じたそうです。
~星の歌~
石川さんは『星の歌』も学んでいます。そこには、島々の位置や生き方が記されています。星の歌を受け継ぐ人は看板のない海の上でも、ある海域に行くとその海域のイメージが浮かぶといいます。
「彼らがやってることは人間がもともと持っている野性を生かして生きているものすごいこと。」
本物の「星の歌」を聴いてみたいなぁと思いました。
こうして旅をしつつカヌーの形を追っていった石川さんですが、カヌーの原材料となる木は島にはなくなってきているそうです。
石川さんはニュージーランドの北島に、カヌーの木の森があると聞き、そこを2回訪れています。写真集「THE VOID~ひとつの森は全ての森~」に石川さんの見てきたこの森の魅力が納められています。
「この森に入ってから、世界を見るためにはある一点を深く見ていけば、全てがわかるんじゃないか。全体をとらえるためには全体を見る必要はないんじゃないかと思うようになった」
たくさんの場所を旅して、島に通った石川さんだからこそ言える言葉には、すごい説得力というか重みがあって印象的でした。
~見えないネットワーク~
そして最近行ってきた島の話になります。石川さんの最近のテーマは群島(アーキペラゴ)です。島々には見えないつながりがあって独立しながらも全体のつながりを失わない有機的なネットワークがあるんじゃないか。そんな問いの元に群島を旅しているそうです。
4~5万年前、スンダランドという大きな大陸に暮らしていた人達が渡海して広がっていきます。今は海や国境で隔てられていますが「群島として大きな文化を共有している場所」です。
石川さんはその中のバリ島から沖縄の方まで旅をしてきたそうです。
バリ島のトランスや悪石島のボゼ祭など、島特有の儀式の話、沖縄の聖地ウタキの話など、普段私達が生活している世界では見られない話ばかりで旅に出たい、見てみたいと思わせるものでした。
一時間の授業はあっという間でした。私は「いろんなところへ行っていろんなものを見たい」と思っていて、石川さんのように感じられるまで旅をしてみたいなぁと思いました。旅の魅力をちょっとだけ垣間見た授業でした。
( ボランティアスタッフ 恩蔵 歩実 )