シブヤ大学

授業レポート

2019/6/5 UP

寛容する未来

今回の授業では、少年非行に関わるスペシャリストの方々5名をお招きしての授業でした。


最近の少年非行の傾向から、非行や犯罪に走った少年がどんな処分を受けるのか、そして少年鑑別所、少年院とはどのようなところで、どのようなことを行っているのか、その役割を教えていただきながら、私たちの様々な疑問に答えていただきました。


最近の少年非行は減少の傾向にあるそうです。マスコミなどで少年による凶悪犯罪がセンセーショナルに取り上げられるせいか「減少している」という印象は全くありませんでしたが、少年人口の減少や暴走族などの集団的な非行が減ったこともあり、件数は大きく減少しているようです。驚いたのは、最近は発達障害や知的障害などの障害の疑いのある少年の占める割合が増えたそうで、よく分からないままオレオレ詐欺の受け子をするなど、犯罪に巻き込まれることもあるそうです。


では、少年院に入るような非行少年たちは、どんな処分を受けるのでしょうか? 


まず、その多くは、逮捕された後、「少年鑑別所」に行きます。少年鑑別所とは、家庭裁判所で観護措置を執られた少年が、その後の処分を決める審判までの間,収容される施設です。約1カ月かけて面接、身体状況の調査、心理検査、精神医学的検査・診察、行動観察及び関係機関・家族等からの資料(外部資料)収集等による綿密な調査が行われ、少年の資質及びその問題点、少年を非行に走らせた要因及び再非行の危険性の程度が明確にされます。判定会議を経て最適の処分及び処遇方針等が鑑別判定意見として決定され、審判の前には鑑別結果通知書としてまとめられ、家庭裁判所に提出されます。 


また,少年が落ち着いて審判を受けるために明るく安定した環境に置きつつ,学習支援党,健全な育成のための支援を行う機能もあるそうです。


「少年院」は、少年鑑別所を経て家庭裁判所の審判で少年院に送致することが決定した少年が更生のために収容される施設です。少年院の大きな目的として、入院する少年に対する矯正教育と社会復帰への支援が二本柱とされています。おおよそ1年をかけて、一人ひとりの特性に応じた教育活動を行ったり、出院後に就職で困らないように、職業指導や就労支援も行っています。


基本的なことを学んだあと、あらかじめ募っていた質問に答えるコーナーになりました。 


1、ここ10年、少年たちの変化はありますか?


・集団犯罪が激減し、SNSなどインターネットが関与する事件や、オレオレ詐欺などに加担する事件が増えました。


・また、前述したとおり、障害を持つ少年の割合が増えました。ただし、少年院在院者の多くが、自己肯定感や自己効力感が低いという点に、大きな違いはないように思われます。


2、少年法は必要ですか? 


・少年は、成長発達の途上にあり、成人に比べて知識も経験も少なく未熟であることを前提に、子どもの親が親として果たすべきことを果たさない場合に、国家が親に代わって子どもに対してなすべきことを行おうという「福祉的理念」と、成長して変わっていく可能性がある少年には、刑罰ではなく、教育を行うことにより、更生させようとする「教育的理念」から、少年と成人の犯罪を別に取り扱う少年法が定められています。


・子どもは親や育つ環境を選ぶことはできないため、親が子どもを養育しきれなければ、国が親に代わり、教育や支援を行う必要があるため、少年法が必要ということも言えます。


3、なぜ罪を犯すと思いますか?罪を犯すときはどんな時だと思いますか?


・家族、友達などその人の人間関係や社会との絆が弱くなったときだと思います。


・また、特に女子では少年院入院者のうち、半数以上に被虐待経験があるという調査結果もあり、彼ら自身も被害者であって、その経験が非行の遠因となっているケースもあります。」 


4、再犯率はどれくらいですか?


・少年院出院者の2年以内再入率は、10.2%となっています。ただし、少年院出院者については、出院後2年以内に成人になる者もいるので、その者が再非行した場合は、原則として成人として扱われるため、少年院に再び入ることはありません。。覚醒剤などの薬物関係の再入率が高いです。 


5、再犯する人に見られる共通点はありますか?


・無職の人の再犯率が高いという統計データがあります。そのため、少年院在院中に、就労先、修学先が見つかるように、関係機関や団体との調整を行っています。


また、社会的絆理論のように、犯罪の原因を社会との絆が弱まることに置く考え方もあります。 


6、人が更生するきっかけはありますか?


・教育や仕事が大切だと思います。何気ない一言や自己肯定感を与えることで更生することもあります。経済的な安定も必要ですが、人との出会いが最も大切です。 


7、人は更生できると思いますか?


・何をもって更生とするか、基準が曖昧なので一言では言えませんが、少年院では日記指導(少年と法務教官の交換日記のようなもの)などを行って、更生を促しているのが有効であると思います。やはり、人との出会いが大切です。 


8、非行歴がある人を採用するには不安があります。


・法務省において、「コレワーク」を設置し、矯正施設における各種指導や職業訓練の紹介、刑務所出所者等を雇用される事業主を対象とした奨励金の紹介や事業主を対象とした刑務所出所者等の雇用に関する個別相談会などを通して、事業主の受刑者等の雇用に対する不安解消に努めています。安定した職業に就くことが再犯を防ぐことに繋がるので、是非,協力してほしいです。 


9、被害者が加害者を許すためにはどうしたらいいですか?


・被害者が加害者を許すための仕組みではありませんが、少年院では、特定生活指導などで、「被害者の視点を取り入れた教育」や個別面接を行い、被害者の心情に対する理解を促しています。


10、わたしたちにできることは何ですか?


・まずは、この授業に参加された皆さんに、少年院出院者等に対する偏見をなくしてほしいです。


・その他にも、法務省が犯罪をなくして社会を明るくすることも目的に行っている社会を明るくする運動への参加や受刑者が刑務所で作成している刑務所作業製品の購入などを通じて、刑務所出所者等の社会復帰への理解・協力をお願いしたいです。


今回の授業で、少年たちの立ち直りために地道な努力をしている方々がいることを知りました。


少年鑑別所では、少年一人ひとりについて、産まれたときの体重から、幼稚園ではどんな子どもだったのか、小学校では、中学校では…と遡って調べ記録が作成されており、その少年に対してどういう措置をとることが一番良いことなのか、その記録を読みながら職員みんなで考えるそうです。


印象的だったのは、女子少年院で教官をされていた方が、「どの記録を読んでも、なぜそうなったのかが理解できる。よくここまで我慢したね、って。」とおっしゃっていて、“子どもは大人の鏡”と言いますが、少年非行には必ず理由があるのだ…と考えさせられました。


また、少年院では一人ひとりの少年に担当の教官が付くそうなのですが、担当教官との信頼関係ができると、「本当に信用できる大人に出会ったのは少年院が初めて」と言う少年も多いそうです。 


やはり人との出会いが大切なのだと感じました。


印象に残ったのは、授業の講師の方に「何故この仕事を選んだのですか?」と言う質問に対して「一番、人と向き合える職業だから」と答えられたことです。


この授業の後、偶然テレビで少年非行についての番組を視聴しました。


少年非行激減の理由としては、人口の減少や集団犯罪の減少もありますが、少年院などの施設の努力もあると述べられていました。


授業の講師でお越し下さった方々は当事者なので、決して「私たちの努力の成果です」とはおっしゃいませんでしたが、講師の先生方のお話をお聞きしていると日々の努力と情熱が充分伝わってきて、こういう方達の努力が減少に繋がっているのだと、よくわかりました。


少年非行や非行を防ぐために努力を続ける本当にカッコいい大人達がいることを、もっと沢山の人に知ってもらいたいと思いました。

(レポート:片山朱実)