シブヤ大学

授業レポート

2019/7/17 UP

美術コレクションで遊ぼう

美術館で作品を静かに観賞する。隣にある解説を読む…私もそうしている一人ですが、いつも他の人が何を考えているのか、どこに注目しているのか、気になっていました。今回の授業は「美術のいろいろな楽しみ方を体験できる」ようですが、それはどんなものなのでしょうか?

授業は講義とワークショップを組み合わせて行われました。

第1部 西洋絵画とシンボルについて
1)ワークショップ:シンボルで遊ぼう

 先生である山中さんは、美術大学卒業後にゲーム会社でアプリゲーム開発の企画職に従事。現在は、美術を題材にしたボードゲーム制作やワークショップを行っています。
ボードゲーム作品の一つである西洋絵画のシンボルを題材にした「驚異の部屋:芸術に隠されたアレゴリー」。このゲームはどんなきっかけで作られたのでしょうか?


『驚異の部屋:芸術に隠されたアレゴリー』

(山中さん)
「ルーベンスという画家が描いた『視覚の寓意』という絵画を見ていたとき、絵の中にある、(望遠鏡などの)視覚にまつわるモチーフを探すのが楽しかったんです。絵を見るときに、解説と照らし合わせるのではなく、そこに描かれるモチーフをじっくり観察することで絵を理解するのもおもしろいなと思いました。」

十字架に裸で磔にされていたらキリストだとわかる。19世紀以前の美術作品には、このような隠されたシンボルやアレゴリー(寓意)が描かれています。
「驚異の部屋:芸術に隠されたアレゴリー」は、そのシンボルを探すゲームです。使うのは、絵画が印刷されたカードとシンボルのチップ(天秤・砂時計・剣・りんご・犬などなど)。絵画のカードを見て、制限時間内に指定された数のシンボルを見つけられたらクリア。4、5人のグループになって行いました。

「『死の舞踏』に描かれている砂時計ってどんな意味なんだろう」
「この絵にも犬がいるけど、なんでだろうね?」

ゲームをクリアしようと懸命に絵を見ていると、気がつかなかったシンボルの存在やその意味が気になりだします。
時間がきたら、カード裏面を見て答え合わせ。「砂時計は死期が迫っていることを意味してるみたい」「この絵の犬は、忠誠や純粋さを表してるみたいだね」
ただ解説を読んで理解するより、自分で見つけた疑問の答えを知るのは、なんだかわくわくします。

2)講義:様々なシンボルの描かれ方を見てみよう

 神話画や宗教画(宗教上の目的で描かれた絵画)では、同じ題材を様々な画家が描いています。
『アダムとイブ』、『パリスの審判』、『愛の寓意』、『受胎告知』…
例えば『アダムとイブ』には、画家によって絵は違えど 蛇、りんご、木というシンボルが必ず描かれている。『受胎告知』(マリアの元へ鳩を連れたエル・グレコが受胎を告知しに来る)にも、必ずユリ(純粋さの意)、鳩(神の使い)が描かれる。このように、シンボルを知っていれば、その絵が誰を描いているか、何の場面かが明確にわかります。
そう考えると、難しいと思っていた宗教画がわかりやすく感じてきました。


第2部 手を動かして作品を観察してみよう
1)解説を読んで美術作品を想像して描いてみよう

 世の中には『動物シンボル辞典』なるものがあることをご存知でしたか、、?
図像に刻された昆虫や動物について説明された辞典です。(私はこの日初めて知りました)
授業では、ある動物の説明について聞き、各々で何の動物であるか考えて、その絵を描いてみました。



問題文の写真


みなさんは何かわかりましたか、、?
ライオン?ペガサス?コウモリじゃない?みんな、様々な想像をしながら絵を描いていきます。

そして正解は、、
「破壊、災いのシンボルであるイナゴ(バッタ)」でした!
えー意外ー!の声。人間の顔、獅子の歯…まあ言われてみればわかるかな、、

2)美術作品を見て解説文を想像して書いてみよう

次は、先ほどとは逆に、絵から解説文を考えてみました。


ヒントはホセ・デ・リベラいう画家が描いた作品だということ。
これはどんな場面なのでしょうか?

紙に解説文を書き、発表しあってみました。
「これは当時のスペイン政権を反映した絵でして~」
「悪魔に追いかけられているところです」
「飲みすぎて終電を逃した男たちの絵で、、、」
などなど、ユニークかつ学芸員のような説明が続きます。
この絵の名前は『イクシオン』。正解は、人妻を誘惑した罪(!)で処罰をうけるイクシオンを描いた作品でした。

専門知識があっても楽しい、なくても楽しい!

『イクシオン』は、想像していたテーマよりも、実際の方が下世話だったことに驚きました。人妻を誘惑して罰せられるとか…ワイドショーに出てきそうな話です。自然と、「西洋絵画には高尚なことが描かれているに違いない」と考えていた自分のバイアスに気がつきました。

絵画に隠されたシンボルをみつけ、その意味を学ぶ。難解な説明から絵を想像する。知らない絵の意味を考える。
この日行ったそれらの体験から感じたことは、ぜんぶ面白いぞ!ということでした。
専門知識を元にその絵を読み解いてもいい。
何も知らずに自分勝手な想像をしてもいい。
どっちでもいいのだ!が私の学びでした。

次に美術館に行くときは、少し肩の力が抜けそうです。


レポート:中野 恵里香、写真:榊原 万莉子