シブヤ大学

授業レポート

2018/4/24 UP

映画『ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命』から学ぶ私たちの街づくり

今回の授業は「『ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命』から学ぶ私たちの街づくり」。
4月28日(土)に公開を控えたドキュメンタリー映画、「ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命」を観ながら、「暮らしやすくていきいきとした街のつくりかた」を考えていきます。



今回の授業では、まず映画を観て、その後にジェイン・ジェイコブズの著書「アメリカ大都市の死と生」の
翻訳者である山形浩生さんを講師にお迎えして解説、という流れ。

映画の公式サイトを見ると…
・BATTLE FOR THE CITY
・都市開発の帝王 VS 常識の天才 - ニューヨークの現在を築いた知られざる闘い
・もしジェイコブズがいなかったら、世界一エキサイティングな大都市・ニューヨークは、きっとずっと退屈だった。

タイトルやキャッチコピー、結構なインパクト。
彼女のことを知らなかった分、いったいどんな内容なんだろう…?と思いながら、渋谷駅から10分ほどの
「ユーロライブ」(「ユーロスペース」の上階)へ。
受講者は約150名!学生さんから中高年の方まで、幅広い世代の方々にお越しいただきました。

ーーーー

【第1部 - 上映】

■映画の印象
映画は主に、1950〜60年代当時の街の様子(写真、録画)、ジェイコブズ本人やジェイコブズを知る方・
専門家へのインタビューで構成されていて、まるで膨大な写真、ダイアリーをめくって見ているよう。
街の風景、ジェイコブズ・モーゼスの主張が立体的に描かれています。

■ストーリーの流れ
まず、ジェイコブズ、対する"都市開発の帝王"=ロバート・モーゼス両者の「都市」に対する考え方の
違いについて、事例を交えて紹介されていきます。

・ジェイコブズ
 空想ではなく、観察に基づく都市のつくりかた。
 街は表面的には(例えば、上空から見ただけだと)無秩序、計画的ではないが、その中には複雑な
 秩序のシステムがある。
 
・モーゼス
「無秩序、計画的ではない」要素の排除。(時には「将来のスラム」だと言って壊し、住民を退去させたり)
「自動車化・郊外化」


ジェイコブズ方式:生活者の視点、ボトムアップ
VS
モーゼス方式:ゾーニング、トップダウン
完全な2極対立。


やがてジェイコブズの暮らすエリアが、彼の開発プロジェクトの対象となり…対決は熱を帯びていきます。
ワシントンスクエア公園で、グリニッジ・ビレッジで、そしてローワーマンハッタン高速道路の建設、と
対決は続き、やがてジェイコブズ側の主張が受け入れられ、開発はストップ。
「モーゼス方式」で一見合理的に作られたはずの街が次々と活力を失っていったことも追い打ちをかけ、
モーゼスは勢いを失っていきます。



【第2部 - 解説】

「アメリカ大都市の死と生」の翻訳者、山形さんの映画解説。
タイトルは「都市の活力とは-ジェイン・ジェイコブズをヒントに」

■映画ではモーゼスは「悪」…本当にそう?
アメリカの都市は1950年代から人口減少、自動車の大普及と郊外開発がトレンドで、都市からは人口流出…
両者とも別の考え方で、それに対応しようとしていました。
つまり、解決したかったことは同じ。
ただ、アプローチの仕方が違い、それぞれの方式に良い点、悪い点がありました。

例えば、ボトムアップ方式のみで大都市が十分に機能するのかという点。
都度、ジェイコブズのやり方(市民参加、市民の意見反映)を行っていたら、いつまでたってもインフラが完成しないのでは…etc


■そもそも、都市の活気をもたらすものとは?
ジェイコブズの考え方は、物理的な都市があって、それが活気をもたらし、街を発展させるというもの。
ただ、物理的に似たような都市でも、活気は各所で異なります。

そして、経済が都市を発展させるのか、都市が経済を発展させるのか?
同じように、どちらのケースも世界各国の都市をみると有りうることです。

高層ビルだらけでも、自動車が走り回っていても、経済が発展していると街の活気はある。
たとえば、中国テクノロジー業界の中心都市、深圳(シンセン)。
画一性と雑多さが同居、高層ビルが並びつつ、ものづくりのメッカで、小規模事業者も多い。


結局は、要素間のバランス、共存が重要だということ。
・競争と協力
・資源集中と多様性

おそらく、ジェイコブズの視点、モーゼスの視点もどちらも必要で、対立関係ですが補い合うものなのでしょう。


■ジェイコブズが優れていた点/彼女から学ぶこと
ジェイコブズが「自動車化・郊外化」のトレンドを大きく変えたわけではない。
ただ、都市がつくり出す、様々なつながりの重要性に着目したのは先進的だった。

ーーーー

「モーゼスって絶対悪なの…?」、と少し疑問に思っていたところだったので、すっきりしました。
短い時間でしたが、映画には出てこない他の都市の話、インフラ整備・都市開発の案件でガーナに飛んだ時の
エピソードなど、ユニークな解説でした。

(レポート:本多由佳、写真:加藤房秀)


本授業は映画「ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命」とのコラボレーション講座です。


2018年4月28日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開です。