シブヤ大学

授業レポート

2017/11/27 UP

つくって学ぶ!
 ~中津箒(ほうき)伝統の技~

最後に箒を使ったのはいつだろう…思い出せないくらい箒を手に取っていません。

掃除機ばかり使っている私は、
「箒をつくりたい人ってどんな人?」
「箒の良さってなんだろう?」

そんな疑問を胸に、授業に参加しました。


今回つくる箒は全長15cm程のナナメ型。

「猫を飼っているから床にちらかる猫砂を掃きたい」
「テーブルに落ちるパンかすの掃除用に」
「祖母にプレゼントしたい」
「100円均一のどうでもいい箒を卒業して大切にできる箒をつくりたい」

参加者のみなさんからは、様々な声が聞こえます。


輪になって自己紹介。
箒をつくったらどんな場面で使いたいか、みんなで話しています。


今回使用するホウキモロコシを手に取ると、軽くてとてもやわらかい。
これなら砂やパンかすもしっかりキャッチしてくれそうです。
片手ですぐに使える手軽さもあるし、20年、30年…大切にしていれば長く使い続けられる。
そう考えると、箒って合理的な道具です。


束になったホウキモロコシ


今回の先生である吉田慎司さんは、古くからある暮らし、合理的な知恵が好きだと語ります。
そのひとつである箒は、箒それ自体のためではなく、
暮らしを整え、生きることを慈しむための道具である。

そのことに魅力を感じ、吉田さんは箒をつくり続けています。


自己紹介が済んだら、いよいよ箒つくり開始です。

今回は糸を四色(藍色、水色、白、イチイという木で染めた茶色)から選べるので、
各自お気に入りの糸を選び取ります。


糸や材料


まず、予め用意してあったホウキモロコシの束を数束手に取り、
それにまる木という細い木を4本巻き付け、その周りに糸を巻き付けます。

その後まる木を折り返し、その周りにまた糸を巻き付け…と繰り返していくと、
ホウキモロコシと糸が編み込まれていきます。






糸が緩まないようにぴんと張ってきつく編み込んでいこう…
その気持ちがみんなの腕の緊張から伝わってきます。


しばらくするとどこからか「バチン!」という音が…
引っ張りすぎると、糸が切れてしまうんですね。
切れてしまった糸と新しい糸を結び直して再開する姿をちらほら見ました。

糸が切れないぎりぎりの張りは言葉では言い表せません。
身体の感覚をとぎすまし、体得すべくみな必死。

あ、なんだか少し慣れてきたぞ…そう感じ始めた時には完成間近です。


箒が編み上がったら次は「「コアミ」」。
穂先が広がるのを防ぐため、柄の付け根に糸を編み込んでいきます。


編み上がった箒の最後のひと仕上げは吉田先生が行います。
箒の形を整え、柄の角を包丁で落としていきます。
なんだか大根の面取りみたい…効果もそれと似ていて、これをしておくと形が崩れにくくなるのだとか。


そうこうしていると、2時間半があっという間に過ぎていました。
同じ材料を使って作ったのに、出来上がった形や網目の細かさ、
色の選択に個性が出て、全く違う出来栄え。


ちょっと歪んでいても、それすら愛おしい。
自分だけの一本が出来上がりました。


同じ材料・工程でつくっても違いが出ます。
穂の付け根に施されているのが「コアミ」です。


「100円均一のどうでもいい箒じゃなくて大切な箒で掃除したい」

完成した箒を見て、参加者の方が授業のはじまりに話していたことを思い出しました。
生活のすべてを大切にするのは大変だけど、何か自分にとって大切なことをひとつ、
愛着をもてる道具で行うことで、生活は豊かになるのかもしれません。



自分の箒を手にした参加者のみなさんは、それを使う明日からの生活にわくわくしているようでした。


(レポート:中野恵里香 / 写真:大森由紀子)